振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

紫波町図書館を訪れる

(写真)オガール。左端は紫波町役場、右端はホテルのオガールイン、奥は住宅地のオガールタウン。

2023年(令和5年)8月、岩手県紫波郡紫波町を訪れました。

 

1. 紫波町を訪れる

紫波町盛岡市の15km南にある人口約3万人の自治体。盛岡市花巻市の中間にあってベッドタウンとなっていることで、人口は20年前と比べてもわずかに減少しているだけです。

JR東北本線紫波中央駅の西側には有名な「オガールプロジェクト」で作られたエリア(オガール)があります。紫波町役場、紫波町図書館、スーパー、多目的アリーナ、ホテル、商店街などがまとめて建てられており、公民連携のまちづくりの成功例として高く評価されています。2016年(平成28年)のLibrary of the Yearでは、「オガールプロジェクトと一体での紫波町図書館」が優秀賞を受賞しています。

(左)紫波町図書館が入るオガールプラザ。(右)紫波町役場。

 

2. 紫波町図書館

2.1 紫波町の映画館調査

とはいっても長らく図書館未設置だった人口3万人の新興住宅地。ウェブ検索では紫波町に映画館が何館あったかすら判然とせず、映画館に関する有意な言及はほぼゼロです。事前に岩手県立図書館でチェックしていた『紫波町史』にも映画館に関する情報は存在しません。紫波町図書館の郷土資料もたいしたことないだろうと思っていたのですが..。

(写真)紫波町図書館。

 

これがなかなか面白い。文献Aを起点に文献Bが見つかり、文献Bを起点に文献Cというように、少しずつ情報が見えてくるのでなかなか帰れませんでした。クリアファイルに入った『探訪紫波』は裏表2ページの新聞スタイル。『日詰の井戸ものがたり』は井戸の話だけではなく旧市街地の歴史全般を扱っており、近現代の旧市街地の様子が浮かび上がってきます。

(これで帰れるという)決定打となったのは『わが心の郡山駅』。当初は中身を確認せずにスルーしていた文献ですが、題名の「郡山駅」は旧市街地のことを指しています。地図や写真も多用して旧市街地の近現代を懐古している文献であり、この文献によって紫波中央劇場や白梅館の跡地が確定できました。郡山や日詰など、紫波町の旧市街地は時代によって名前が異なっていてややこしい。

 

『日詰の井戸ものがたり』にしても『わが心の郡山駅』にしても、題名を見た段階で中身を確認する優先度を下げてしまった文献でした。もし職員に「映画館について知りたい」とレファレンスしてたなら、早い段階で出してくれたに違いない。

これらの文献は紫波町郷土史家やNPO法人が刊行したものであり、紫波町図書館が刊行に関与したわけではありません。ですが、同規模の町立図書館で行った調査を思い返した時に、これだけ調べ物の成果が出た自治体はほとんどない。「必要な情報が得られる図書館=いい図書館」という持論から言えば、紫波町図書館はかなりいい図書館でした。

(左)屋外通路に向けられた展示。(右)図書館入口。