振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

美濃市図書館を訪れる

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(写真)美濃市図書館。

2020年(令和2年)6月、岐阜県美濃市を訪れました。美濃市には重伝建地区「美濃市美濃町」があります。「美濃市の映画館」に続きます。

 

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1. 美濃市を訪れる

1.1 美濃市の歴史

美濃市岐阜県の中濃地域にある人口約2万人の自治体。1911年(明治44年)までの名称は上有知町(こうずちちょう)でしたが、美濃和紙の生産や販売の拠点として栄えたことで美濃町に改称した経緯があります。現在の中濃地域の中心都市は関市や美濃加茂市であり、美濃市は関都市圏に含まれているものの、近代に武儀郡(むぎぐん)役所が置かれたのは関町ではなく上有知町でした。

長良川の流れを見ると岐阜市美濃市のすぐ下流にありますが、美濃市街地と岐阜市街地を結んでいた名鉄美濃町線は1999年(平成11年)に廃止されたため、距離のわりに公共交通は不便です。岐阜バスの岐阜美濃線は1-2時間に1本のみ、JR高山本線長良川鉄道を乗り継ぐ場合も時間がかかります。主要な観光地である美濃和紙の里会館中心市街地とは異なる地区にあり、公共交通機関でのアクセスは想定していないように思われます。

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(地図)愛知県名古屋市から見た岐阜県美濃市の位置。©OpenStreetMap contributors 


美濃市街地は濃尾平野の北端に位置しており、岐阜市と同じように長良川の川湊のそばに市街地が形成されています。長良川の流れが市街地に迫っているように見えるものの、長良川の川面と市街地には20-30mの標高差があり、色別標高図を見ると両者の間にはくっきりした線が浮かびます。この線に沿って世界かんがい施設遺産の曽代用水が流れており、江戸時代初期としてはかなり規模の大きな用水に見えました。

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(地図)美濃市街地の色別標高図。地理院地図

 

1.2 美濃市美濃町重伝建地区

美濃市街地の街並みは1999年(平成11年)に「美濃市美濃町」として重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。通り沿いの主屋は2階建・切妻造・平入で統一感があり、全国の重伝建地区の中でもかなり見栄えの良い町並みだと思います。美濃町の特徴と言えば何といってもうだつ(卯建)のあがる街並みであり、19軒の町屋にうだつが見られるようです。

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(地図)美濃町重伝建地区の主要な施設。地理院地図

 

二番町

美濃町重伝建地区は、一番町と二番町という2本の通りを4本の小路がつなぐ「目」の字型をしています。二番町の東側には展示施設の旧今井家住宅があり、その周辺には古民家カフェなどもあるため、旧今井家住宅付近に人の流れができていました。

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(写真)二番町の街並み。

 

美濃町重伝建地区には重要文化財が1軒(小坂家住宅)、美濃市指定文化財(旧今井家住宅と卯建連棟家屋)が2軒あるものの、登録有形文化財はありません。比較的早い段階で重伝建地区に指定されたためでしょうか。

うだつがあがる町屋の前には説明看板があるものの、町屋それぞれについて解説しているサイトなどはなく、指定文化財以外の町屋についての言及が少ない気がします。重伝建地区への指定に加えて登録有形文化財に登録する必要はないとの判断なのかもしれませんが、観光客にとっては登録有形文化財制度も活用していた方が文化財としての価値を判断しやすいと思いました。

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(左)大石家住宅。(右)旧今井家住宅。美濃市指定文化財

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(写真)旧今井家住宅の館内。

 

美濃和紙あかりアート館

二番町通りから路地を北に入ると、美濃町重伝建地区をわずかに外れる場所に美濃和紙あかりアート館があります。1941年(昭和16年)に美濃町産業会館として建てられた近代建築であり、登録有形文化財に指定されています。

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(写真)美濃和紙あかりアート館。登録有形文化財

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(写真)美濃和紙あかりアート館の展示。

 

一番町

二番町は連続する町屋に統一感を感じる街並みでした。一番町の西側は美濃俵町商店街になっており、2-3階建てのビルが一定数あります。町屋とビルが融合してうまく調和を保っているように感じ、二番町よりも魅力を感じます。

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(写真)一番町の街並み。

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(左)一番町通りにある美濃俵町商店街。(右)和風建築と洋風建築が調和する街並み。

 

一番町の東側にはうだつのあがる町屋が連続している場所があり、卯建連棟家屋として美濃市指定文化財に指定されています。古川家住宅と平田家住宅は互いのうだつが触れそうなくらい接近しています。一般的にうだつは1軒おきに作るものだそうで、うだつが連続している光景はなかなか見られないとのこと。2軒分のうだつを並べるために、わざわざ建物の間に隙間を作ったうえでうだつを製作しているそうです。

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(左)卯建連棟家屋。美濃市指定文化財。(右)卯建連棟家屋の一角にある古川家住宅と平田家住宅。うだつの町家が隣り合う異例の景観。

 

小坂酒造場

一番町の中央部にある小坂家住宅(小坂酒造場)は美濃町重伝建地区唯一の国指定重要文化財。小坂酒造の現役の店舗であるため、「みせ」の部分までは自由に入ることができます。安永初年(1772年)頃の建築だそうで、屋根のむくりが美しい建物です。

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(左)鈴木公平家住宅。(右)小坂家住宅。小坂酒造の店舗。国指定重要文化財

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(写真)一番町通りと二番町通りに直行する通り。正面は願念寺。

 

美濃町の商店など

美濃町重伝建地区には美濃和紙に関する雑貨などを販売する商店がいくつかありました。美濃町重伝建地区は美濃和紙の流通に携わっていた紙問屋が集まっていた地区であり、美濃和紙を製造する「におい」をまったく感じません。製造の拠点は美濃市街地から車で20分ほどの牧谷地区であり、博物館の美濃和紙の里会館も牧谷地区にあります。いつか牧谷地区も歩いてみたいと思います。

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(左)和紙雑貨店 紙遊。(右)和紙照明店 美濃あかり館彩

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(左)古民家をリノベしたはっぱすたんど。(右)和紙を用いた模型飛行機店 ヨシダ

 

1.3 美濃市の近代化遺産

上有知湊

美濃市街地から見て小倉山の裏手には、長良川に架かる美濃橋があります。1916年(大正5年)に竣工した日本最古の近代吊橋だそうで、国の重要文化財に指定されています。現在は大規模修繕工事の最中であり、2021年(令和3年)4月に再び通行が可能になるとのことでした。

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(左)上有知湊。岐阜県指定史跡。(中・右)美濃橋。国指定重要文化財

 

名鉄美濃駅

1999年(平成11年)に廃線となった名鉄美濃町線の終着駅、美濃駅の駅舎は資料館として保存されています。

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(左)旧名鉄美濃駅。1923年(大正12年)開業。登録有形文化財。(右)名鉄美濃町線で用いられていた車両。

 

長良川鉄道美濃市駅

現役の鉄道駅である長良川鉄道美濃市駅の駅舎や待合室も登録有形文化財に登録されており、1923年(大正12年)の開業当時の施設だそうですが、おもしろみのある建物ではありません。

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(左)長良川鉄道美濃市駅。1923年(大正12年)開業。登録有形文化財。(右)美濃市駅のプラットホームと待合所。登録有形文化財

 

2. 美濃市図書館

美濃町重伝建地区を歩いた後、小倉山の山麓にある美濃市図書館を訪れました。かつて有知学校があった場所であり、美濃市街地から10mほど坂を上った公園の一角にあります。1876年(明治9年)竣工の旧有知学校は美濃町重伝建地区内の寺院敷地内に移築されています。

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(写真)かつて美濃市図書館の場所にあった旧有知学校。美濃市指定文化財

 

2.1 図書館の建物

美濃市図書館は1986年(昭和61年)に開館した3階建ての図書館です。図書館利用者のための駐車場は少なく、駐車場から図書館まで坂を上る必要があります。美濃市街地から徒歩圏内にあるものの、このような立地が理由で年配者や子ども連れを遠ざけてしまっているように感じました。2015年度末の美濃市図書館の蔵書数は約8万冊、2015年度の貸出冊数は約7.5万冊。市民1人あたり貸出冊数は4冊弱であり、岐阜県の平均よりやや低い数字です。

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(写真)美濃市図書館。

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(左)児童書書架。スターハウス型。(右)雑誌書架。最新号はすべて閲覧不可。

 

2.2 図書館の郷土資料

美濃市図書館では「美濃町重伝建地区」や「美濃和紙」に関する文献を探しましたが、郷土資料の扱いには強い不満を感じました。

美濃市図書館の2階には郷土資料室がありますが、通常時は鍵がかかっています。職員にお願いして鍵を開けてもらいましたが、その蔵書を見ると鍵付きの部屋にする必要性を感じませんでした。

また、郷土資料室には自治体史など岐阜県に関する文献が集められていますが、「美濃町重伝建地区」や「美濃和紙」に関する文献は1冊も確認できませんでした。OPACで確認すると、これらの文献の配架場所は「書庫郷土」や「WW和紙」となっています。郷土資料室の隣には小規模な書庫があり、「美濃町重伝建地区」や「美濃和紙」の文献は書庫にしまい込んであるのでしょう。利用者は必要とする文献をOPACで探したうえで、職員に取り出してもらう必要があるのだと思います。

なお、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、館内の蔵書検索機はそもそも利用できませんでした。文献を閲覧するだけでも面倒だと感じたため、書庫出納は頼まずにさっさと帰りました。

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(左)鍵がかかっている郷土資料室。(中)書庫。(右)蔵書検索機。利用停止中。