振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

那須塩原市図書館みるるを訪れる

(写真)那須塩原市図書館みるる。

2023年(令和5年)8月、栃木県那須塩原市那須塩原市図書館みるるを訪れました。

 

1. 那須塩原市を訪れる

那須塩原市は栃木県の北端部に位置する人口約11万人の自治体。2005年(平成17年)に黒磯市那須郡西那須野町塩原町の1市2町が合併して発足しました。

合併時の黒磯市の人口は約6万人、西那須野町の人口は約4万5000人、塩原町の人口は約8000人。映画館の分布を見ても、黒磯市街地に3館、西那須野市街地に3館、塩原市街地に2館、その他に2館と、特定の地区に集中することなく分散しています。拠点性のある地区としては黒磯市街地と西那須野市街地がありますが、2つの市街地の中間には新幹線駅がある那須塩原市街地が形成されています。

合併前の3自治体それぞれに単独施設の図書館があり、黒磯市立図書館が那須塩原市立黒磯図書館となりました。黒磯図書館を置き換える形で2020年(令和2年)に開館したのが那須塩原市図書館みるるです。JR東北本線黒磯駅の至近距離にあり、駅前広場と一体的にUAoが設計しています。

(写真)駅前広場と那須塩原市図書館みるる。

 

2. 那須塩原市図書館みるる

2.1 図書館の館内(1階)

建物は1階と2階の2フロアであり、いずれも中央部にはゆったりとした中央通路があります。1階は中央通路の両側にカフェ・会議室・展示室などがあり、2階は中央通路の両側に書架が並んでいます。

1階にも書架はありますが、床面積の割に冊数が少なく、独自分類で並べてあるようです。天井までの高い書架には巨大な「言葉」が書かれており、既存の図書館のイメージを覆す狙いを感じますが、あくまでも "映え" のための書架という印象も受けます。

(写真)「言葉」が書かれた高い書架が並ぶ1階。

 

2.2 図書館の館内(2階)

那須塩原市立図書館みるるのコンセプトは「森」だそうで、低い書架が並んでいる2階はとても開放感があります。多面体のルーバー天井、鏡張りの柱などは近未来的で、どこのぎふメディアコスモスか、どこのTOYAMAキラリかと思わせられます。黒磯図書館を使っていた市民にとっては図書館の印象が劇的に変化したと思われ、旧館時代には図書館を利用していなかった層も引き付けていると思われます。

(写真)中央通路の両側に低い書架が並ぶ2階。

 

2.3 図書館の郷土資料

とはいえ、郷土資料に関しては高く評価することはできません。

南側入口からすぐの場所、カウンター正面には郷土資料コーナーがありますが、何かの間違いかと思うほど質・量ともに貧弱でした。黒磯図書館の時には開架にあった郷土資料は、軒並み閉架書庫に移動されたようです。また、付近には背もたれのないソファ席しかなく、じっくり資料の中身を読むという従来の郷土資料の使い方は難しい。

(写真)1階の郷土資料コーナー。

 

那須塩原市立図書館のOPACで「黒磯町」と検索するとヒット数はわずか8件。「黒磯市」と検索すると43件ですが、行政資料が多くヒットするので目的の書籍を探しづらい。「住宅地図」と検索するとヒットはゼロであり、住宅地図をヒットさせるためには「ゼンリン住宅地図」という語句で検索しなければいけません。

要するにOPACを使いこなすのには一定のスキルが必要だし、実用書や文芸書とは違ってOPACと郷土資料は相性が悪い。他のコーナーを優先させるために郷土資料コーナーを圧縮したのだろうけど、やはり郷土資料はできるだけ開架においてほしい。郷土資料を置かない選択をした愛知県の豊橋市まちなか図書館のように、那須塩原市でも「郷土資料は分館に置く」というスタンスを取ってもよかったかもしれない。

既存の図書館のイメージを打破するためにこのような設計にしたのでしょうが、図書館の大事な要素である郷土資料については、図書館側のビジョンに疑問を感じます。

(写真)2階のアクティブラーニングスペース。