振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

北方町の映画館

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 (写真)北方町立図書館。冠木門と呼ばれる門。

2019年(令和元年)6月、岐阜県本巣郡北方町を訪れました。かつて北方町には映画館「北方映画劇場」がありました。

※2024年2月には本記事から「北方町を訪れる」を分割しています。

 

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1. 北方町立図書館

1.1 図書館の建物

北方町立図書館は1988年(昭和63年)7月に開館した図書館であり、本巣郡で初の公共図書館であると思われます。鉄筋コンクリート造ではありますが、白壁・格子・うだつなど和風デザインが取り入れられており、冒頭の写真にある「冠木門」(かぶきもん)をくぐって敷地内に入ります。「冠木門」は北方町における伝統的な門であり、各町の入口に設置されていたようです。

 

1.2 図書館の館内

建物入口を入ると右手が図書館であり、左手が歴史資料展示室と企画展示室となっています。延床面積は1,143.61m2であり、図書館の開架室は400m2程度でしょうか。2階には和室やテラス席がありますが、1階の開架室を見下ろせるテラス席はあまり有効に活用されていないようです。写真のように開架室の南側は庭園となっており、開架室から見ると障子や格子の向こう側に緑が見えます。

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(写真)和風の外観をした北方町立図書館。

 

2. 映画館調査

2.1 文献調査

『映画館名簿』には北方町の映画館として「北方映画劇場」が掲載されています。北方町立図書館の郷土資料で北方映画劇場について調査してみました。

まずは『北方町史 通史編』(北方町、1982年)を確認。「戦後には増屋町の三枡屋の跡地に映画館が開館したが、現在はパチンコ屋となっている」という記述がありました。「北方映画劇場」が閉館したのは1960年代中頃ですが、「1980年代前半の増屋町にあったパチンコ屋」をで探せばよいわけであり、住宅地図さえ閲覧できれば簡単に判明しそうな気がしました。そもそも "増屋町" という町名は現存しないのですが、北方町商店街の西側半分を含む一帯を指します。

ただしこの映画館は曲者でした。北方町立図書館が所蔵するもっとも古い住宅地図は1986年(昭和61年)のゼンリン住宅地図ですが、この住宅地図にはもうパチンコ店が掲載されていません。大正末期から戦間期にあった「北方劇場」という劇場については複数の文献に言及が見られますが、戦後にあった映画館は存在感が薄かったようです。

 

岐阜県北方町 町制施行100年記念要覧』(北方町、1989年)には「終戦後から1957年頃まで、増屋町には北方映画館があった」という記述がありましたが、映画館名簿にある「北方映画劇場」という6文字が掲載された文献はひとつも見つけられませんでした。図書館のカウンターで映画館の所在地についてレファレンスしたところ、図書館の男性職員も熱心に探してくれましたが、この男性職員が1時間かけても正確な場所は判明しませんでした。

小規模自治体の場合、郷土資料からその町にあった映画館の所在地が判明しないのはざらです。地方都市であれば映画館の建物が閉館後もずっと残っている場合もあり、図書館職員が映画館の建物を記憶している場合もありますが、北方町立図書館ではそのようなこともありませんでした。

 

2.2 聞き取り調査

映画館名簿では北方映画劇場の所在地は本巣郡北方町としかわかりませんでしたが、図書館を訪れて「本巣郡北方町にある北方町商店街の西部」にまで絞り込むことができました。

図書館から150mの距離にある北方町商店街を訪れ、伝統ありそうな和菓子舗に入って尋ねてみると、80代と思われる主人が映画館の所在地を教えてくれました。

右手に見える辻を北に向かってすぐの喫茶店の場所に映画館があった」とのことです。この和菓子舗からは40mほどしか離れていませんでした。

家に帰ってから調べてみると、この「恵比須屋」は1917年(大正6年)創業の歴史ある和菓子舗。「恵比須屋」では美濃地方の夏の風物詩だというみょうがぼち - Wikipediaを購入しました。そら豆の餡を小麦粉の生地でくるみ、ミョウガの葉で包んだ饅頭です。

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 (写真)北方町商店街にある和菓子舗「恵比須屋」。

 

1時間に1本しか走っていない樽見鉄道の時間調整もかねて、北方映画劇場の跡地に建つ純喫茶「喫茶麻雀サンパール」に入って休憩しました。

店内にいるときは何の変哲もない喫茶店だと思ったのですが、帰ってから外観の写真や航空写真を確認してみると、建物の形状や大きさが映画館の建物に見えてきて、映画館時代の建物を改修して喫茶店に転用しているのではないかという考えが頭をよぎりました。喫茶店の主人に聞いてみればよかった。

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(写真)喫茶麻雀「サンパール」。

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(左)喫茶麻雀「サンパール」。(右)美濃地方の初夏の風物詩「みょうがぼち」。

 

3. 北方町の映画館

3.1 北方映画劇場(1953年10月-1964年頃)

所在地 : 岐阜県本巣郡北方町北方(1964年)
開館年 : 1953年10月
閉館年 : 1964年頃
『全国映画館総覧1955』によると1953年10月開館。1953年の映画館名簿には掲載されていない。1955年・1958年・1960年・1963年・1964年の映画館名簿では「北方映画劇場」。1965年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は喫茶店/麻雀店「サンパール」。

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(地図)北方町商店街西部の地図。地理院地図に加筆

 

北方町の映画館について調べた結果は「消えた映画館の記憶 - 岐阜県の映画館」に掲載しており、また「消えた映画館の記憶地図(岐阜県版)」にマッピングしています。

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