振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

多治見市図書館笠原分館を訪れる

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(写真)多治見市笠原中央公民館「アザレアホール」。

 

2019年12月、岐阜県多治見市笠原町にある多治見市図書館笠原分館を訪れました。笠原分館は多治見市笠原中央公民館の2階にあります。中央公民館の西側には、2016年に開館した多治見市モザイクタイルミュージアムがあります。

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(地図)愛知県名古屋市から見た岐阜県多治見市の位置。©OpenStreetMap contributors

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(地図)多治見市街地から見た笠原市街地の位置。地理院地図 色別標高図

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(地図)笠原市街地。地理院地図 色別標高図

 

1. 多治見市図書館笠原分館を訪れる

1.1 笠原分館の歴史

司書が足で稼ぐ収集活動は、ほかの図書館に極めて示唆的。地域の産業に根差し、ビジネス、産業支援として図書館が取り組むべき課題に明確に向き合っている。— Library of the Year 2015における短評

多治見市街地の本館と笠原市街地の笠原分館からなる多治見市図書館 - Wikipediaは、2015年(平成27年)にLibrary of the Yearの対象を受賞した図書館です。長年に渡って収集を続けている陶磁器資料コレクションが高く評価されており、陶磁器資料コレクションは4階の郷土資料室ではなく3階の開架に置かれていることも特徴です。2017年(平成29年)には多治見市図書館のWikipedia記事を加筆したので、歴史についてはWikipedia記事をご覧ください。

 

土岐郡笠原町は2006年(平成18年)に多治見市に編入された自治体です。笠原町の図書施設は1982年(昭和57年)に笠原町中央公民館図書室として開館し、2006年の合併を機に多治見市図書館笠原分館に改称。この際に公民館図書室から図書館に格上げされました。2008年(平成20年)には指定管理者制度が導入され、本館と同じく財団法人多治見文化振興事業団が管理を受託。2009年(平成21年)にはOPACが導入されています。

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(写真)笠原分館の入口。

 

1.2 地域の産業に根差した図書館

笠原分館の床面積はわずか288m2であり、蔵書数は約4万冊という、こじんまりとした図書館です。しかし重点収集資料であるタイル関連資料の量はすごい。下の写真に写っていない部分まで、書架がまるまるタイル関連資料で埋め尽くされています。公立図書館の本館ならまだしも、サービス人口がわずか1万人の分館でこの量は圧巻です。笠原町中央公民館図書室時代からタイル関連資料の収集を行っていたとは思いますが、多治見市編入後にいっそう収集に力を入れたことは明らかで、本館から分館に移管されたタイル関連資料もあるとのことです。 

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(写真)タイル関連資料コーナー。

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(写真)文芸書の書架。

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(写真)文芸書の書架。笠原町出身・在住の作家にマークがついている。

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(左)一般書の書架と閲覧席。(右)映画・ドラマ原作本コーナー、大活字本コーナー。

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(写真)撮影許可証。

 

2. 笠原町を歩く

2.1 多治見市モザイクタイルミュージアム

2.1.1 笠原町のタイルの歴史

笠原町はモザイクタイルの生産で知られる町であり、生産量は単独自治体時代も多治見市編入後も日本一です。1955年(昭和30年)には土岐郡の5町3村が合併して土岐市が発足していますが、笠原町のみは単独で町制を維持しており、タイル産業による好景気が理由ではないかと思います。戦後にはかなりの量をヨーロッパなどに輸出しており、自治体別1人当たり所得が岐阜県一だった時期もあるようです。

しかし、高度経済成長期にはユニットバスの普及とともにモザイクタイルの需要は落ち込み、タイル産業の衰退とともに街の活気も失われていた時期に、多治見市に編入されて自治体としては消滅してしまいました。

 

2.1.2 ミュージアムの開館

街の活気が失われていた時期にも、笠原町には20年かけてモザイクタイル作品を集めていた市民がいました。笠原町は地場産業の伝承を理由に、博物館の建設を多治見市との合併の条件とします。風変りな家ばかり作っている藤森照信が建物の設計を手がけ、合併10年後の2016年(平成28年)6月に開館したのが多治見市モザイクタイルミュージアムです。

著名建築家による博物館の建設を契機に、笠原町では地場産業を見直す機運が高まりました。中央公民館はモザイクタイルによる案内板を、和菓子店はモザイクタイルが貼られた椅子を新たに設置しました。女性市民有志 "モザイクプリンセス" は左官屋に技術指導を受け、10か所のゴミ置き場をモザイクタイルで彩りました。熱い市民の存在が行政や建築家を動かし、そして建築家の優れた作品が市民全体に影響を与えたと言えるのではないかと思います。 

2.1.3 ミュージアムの館内

ミュージアムの外観は陶土の山をイメージしているそうで、壁面にはタイルが埋め込まれています。館内に入るとまずは4階に上がり、3階、2階、1階と見学していくことになります。

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(写真)多治見市モザイクタイルミュージアム。 

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(左)入館シール。(右)側面から見たミュージアム

 

4階はモザイクタイルを芸術的に見せているフロアであり、いわゆるインスタ映えするフロアでもあります。3階は笠原町におけるモザイクタイルの歴史を紹介するフロア。私が訪れた際にはたまたま他の入館者がいなかったため、学芸員の村山閑さんにじっくり話を聞くことができました。

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(写真)4階。モザイクタイルの芸術的作品を展示。

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(写真)3階。笠原町のタイル産業の歴史を紹介。

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(写真)3階。笠原町のタイル産業の歴史を紹介。

 

2階はモザイクタイルのショールームになっており、一般家庭における使用例を見ることができます。4階、3階ときて2階にショールームを設けてあることで、笠原町におけるタイル産業は(すでに過去となった)"伝統産業" なのではなく(現在も生き残りをかけている)"地場産業" なのだと感じさせられました。1階にはミュージアムショップがあり、またインスタ映えする車などが展示されています。

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(写真)2階。モザイクタイルのショールーム

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(写真)1階。ミュージアムショップや工房。(左)タイル詰め放題500円。(右)タイルが貼られた車。

 

2.2 笠原市街地にあるモザイクタイル

笠原市街地には様々なモザイクタイル作品がありました。ある程度は事前に調べてから訪れましたが、それでも偶然発見した作品がいくつもありました。多治見市モザイクタイルミュージアムを訪れた観光客が街に繰り出すようになればいいですね。

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(写真)笠原神明宮南側のタイル工房「しあわせなお家」。

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(左)菓子舗「陶勝軒」にあるモザイクタイルの看板と椅子。(中・右)多治見市笠原中央公民館の敷地内にあるモザイクタイルの水飲み場と椅子。

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(左)多治見市笠原中央公民館にあるカフェ。机や床面にモザイクタイル。(右)多治見市笠原中央公民館にあるモザイクタイルの看板。

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(左)多治見市モザイクタイルミュージアム南にあるスーパー「マルナカストアー」店内。『えんとつ町のプペル』のモザイクアート展。(右)喫茶店「ミドリヤ珈琲倶楽部」。壁面がモザイクタイル。

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(写真)ゴミ置き場。女性有志 "モザイクプリンセス" が左官屋の技術指導を受けてモザイクタイルを製作。

 

3. 多治見市図書館本館を訪れる

この日は多治見市図書館本館も訪れました。笠原分館ほどではないにせよ、本館にもタイルに関連する資料は多数あり、中でも月刊誌『Tiles タイルの本』が目につきます。複数の号で2016年(平成28年)6月に開館した多治見市モザイクタイルミュージアムを伝えていますが、この雑誌は2016年9月号をもって休刊したようです。タイル業界にとって多治見市モザイクタイルミュージアムの開館は一大イベントだったと思われ、ミュージアムの開館まで休刊を遅らせたのでしょうか。

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(写真)多治見市図書館本館が入っているヤマカまなびパークたじみ。

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(左)笠原町のモザイクタイルに関する文献。(右)月刊誌『Tiles タイルの本』。

 

 

なお、この日のメインは笠原町にあった映画館「笠原劇場」の跡地を訪れることでした。

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