(写真)勝山市立図書館のからくり時計。
2021年(令和3年)7月、福井県勝山市を訪れました。「勝山市の映画館」に続きます。
1. 勝山市を訪れる
勝山市は福井県内陸部の奥越にある自治体。近世には勝山城に藩庁を置いた勝山藩の城下町。近代における主産業は機業(織物業)であり、中心市街地にははたや記念館 ゆめおーれ勝山という展示施設があります。
1982年(昭和57年)に恐竜の化石が発見されたことがきっかけで福井県立恐竜博物館が開館し、現在は「恐竜のまち」を標榜して化石発掘体験などを行っています。郊外にある恐竜博物館はとても集客力のある施設ですが、はたや記念館 ゆめおーれ勝山を拠点として中心市街地にも人を呼び込もうと努力しているように感じました。
1.1 勝山市の繁華街
『勝山花街繁昌記』には昭和年間の勝山の花街に関するマップが掲載されています。料亭・芸者置屋・旅館・遊戯施設を列挙してみました。通りの名も多数記されていますが、その多くはGoogle検索や他の文献ではわからないものです。
南北の通り 本町通り、後ろ町通り、寺前通り、河原町通り、河原裏通り
東西の通り 長渕通り(茶屋通り)、花街通り、駅前通り、雲平通り(智道横町)、法栄寺前通り
料亭など 笠松(河原町通り)、夕照庵(河原町通り)、花月楼(河原町通り)、千代の家(河原町通り)、山海楼(河原町通り)、月の家(河原町通り)、藤本(河原町通り)、誰ヶ袖(河原町通り)、森田(河原町通り)、歌仙(河原町通り)、ごくらく(河原町通り)、藤本(駅前通り)、魚松(花街通り)、魚松(花街通り)、魚清(後町通り)、ひさご(後町通り)、谷よし(本町り通)、清風(本町通り)、あら井(本町通り)
芸者置屋 市橋(河原町通り)、松竹楼(河原町通り)、白鳥館(河原町通り)、荒井(河原町通り)、岡部石川(河原町通り)、梅田(河原町通り)、望月(河原町通り)、米村(河原町通り)、やなぎ屋(河原町通り)、亀乃(後町通り)、いなり亭(後町通り)、高須(後町通り)、竹の家(花街通り)、田村(花街通り)、よしの家(花街通り)
旅館など 西洋軒(駅前通り)、竹原(駅前通り)、板甚(本町通り)、美松(河原町通り)
遊技施設 映画館 勝山劇場(河原町通り)、映画館 中央館(岸ノ下通り)、パチンコ 松葉屋(後町通り)、パチンコ オリンピック(本町通り)、魚徳ダンスホール(本町通り)、支店ダンスホール(河原町通り)、ビリヤード(河原町通り)
(地図)昭和20年代~60年代における勝山の花街。河原町通り沿いに勝山劇場。本町通りの上に中央座。『勝山花街繁昌記 昭和懐顧録』勝山地区エコ推進協議会、2009年。著作権は切れていません。
1.2 本町通り周辺
城下町時代から勝山の中心的な通りだったのが本町通りであり、料亭旅館板甚、松屋醤油味噌醸造場、丸屋松月堂、澤田屋呉服店など老舗の町屋建築が多数残っています。
(写真)本町通り商店街のアーチがある本町通りと駅前通りの交差点。
(写真)本町通り。
本町通りと勝山市役所の間には「七里壁」(しちりへき)と呼ばれる段丘崖があり、低位面と中位面には約5メートルの標高差がありました。かつて低位面には町人地や社寺地があり、中位面には勝山城や武家地がありました。七里壁付近では建雷神社(毘沙門)のケヤキの大木が目立ちますが、建雷神社は低位面と中位面にまたがっており、鳥居は低位面に、社殿は中位面に位置しています。
(写真)七里壁。左奥の木々は建雷神社の社叢。
(写真)建雷神社の社殿。
1.3 河原町通り周辺
本町通りと並んで勝山の中心的な通りだったのが河原町通りであり、料亭や芸者置屋が並ぶ花街として栄えました。河原町通り上には行燈がならび、街路樹として桜が植えられていることで、本町通りとははっきり異なる景観となっています。
(写真)河原町通り。左は勝山劇場跡地。
河原町通りにある旧料亭花月楼は1904年(明治37年)の建築であり、登録有形文化財に登録されています。料亭の廃業後に住居として使われた後、2017年(平成29年)には郷土料理店「旬菜食祭 花月楼」が開店。ドーム状の意匠が美しい傘天井を見学することができます。
(写真)花月楼の店内。
(左)料亭のよし川。(右)河原町通りの説明看板。
本町通り・後町通り・河原町通りの北側に直行する通りとして茶屋通り(長渕通り)があります。Google検索では通りの名称がわからないような通りですが、1960年代~80年代頃に建てられたと思われる衣料品店のビルや、3階~4階建てのビル群に味わいがあります。
(左)茶屋通り。左はウイングトキヤ勝山店。(右)茶屋通り。
1.4 ゆめおーれ勝山
中堅機業場だった木下機業場の工場の一部を利用して、2009年(平成21年)にははたや記念館 ゆめおーれ勝山という展示施設が開館しています。2階には多数の糸繰り機が、1階には木製の手織機や鉄製の力織機が並び、製糸から羽二重の生産に変化していった勝山の機業の流れを学ぶことができました。
(写真)糸繰り機。
(左)力織機。(右)ゆめおーれ勝山の外観。
2 勝山市立図書館
2.1 図書館の館内
勝山市立図書館は1991年(平成3年)12月22日に開館した図書館。2413平方メートルという延床面積は自治体規模に比べて広めです。
(写真)勝山市立図書館。
入口を入って左手が一般書の書架、右手が児童書の書架や新聞・雑誌コーナーや郷土資料コーナーであり、両者の中間にカウンターがあります。一般書の書架の上部は3階分の吹き抜けとなっており、2階には多目的ホールや会議室(学習室)があります。
児童書の書架の近くには恐竜に関する文献を集めた書架があり、題材の性質上児童書も多い。この書架の下段にはジオパークに関する文献もありました。勝山市の機業に関する文献は別置されておらず、郷土資料コーナーに数冊があるのみだそうです。
(写真)吹き抜け部分。
(左)一般書の書架。(右)新聞・雑誌コーナー。
(写真)恐竜に関する文献の書架。この面は児童書。
2.2 図書館のサービス
公式サイト上では勝山市に関する新聞記事の見出しを検索できる「新聞検索」というサービスがありました。いくつかの図書館が行っているサービスではありますが、人口2万人の自治体としては珍しいかもしれません。
対象となる新聞は福井新聞・日刊県民福井・中日新聞・朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・日本経済新聞・産経新聞の8紙と多く、また対象となる期間は1992年(平成4年)6月からと古い。試しに"花月楼" という検索語を入れると、 「老舗『花月楼』が廃業 勝山全市 『不況で転換期』市民たち惜しむ声」『日刊県民福井』(1999年9月18日、23面)など5記事がヒットしました。
(写真)勝山市立図書館公式サイトの「新聞検索」。