振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

安城市の映画館(2)

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(写真)安城市桜井町の中心部にある株式会社白増(中日新聞桜井専売所)。

2021年(令和3年)5月、愛知県安城市桜井地区(旧・碧海郡桜井町)を訪れました。かつて碧海郡桜井町には映画館「桜井映画劇場」がありました。「安城市の映画館(1)」からの続きです。「安城市の映画館(3)」に続きます。

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1. 安城市桜井地区を訪れる

安城市南部に位置する桜井地区の中央には名鉄西尾線桜井駅があり、桜井駅の西側に新市街地が、桜井駅の東側に旧市街地が広がっています。1967年(昭和42年)には碧海郡桜井町が安城市編入されますが、安城市ではなく西尾市と合併する可能性もあったようです。

国指定史跡の二子古墳と姫小川古墳がある桜井古墳群、碧海郡では数少ない県社である桜井神社、境内が国指定史跡の本證寺などがあり、かつて純農村地域だった安城市域ではとりわけ旧跡が目立つ地域でもあります。

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(地図)昭和初期桜井村。『大日本職業別明細図』1932年。桜井映画劇場はすでに存在していた年だが描かれていない。

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(地図)1936年の「桜井村案内図」。『桜井小誌』桜井村、1937年。桜井映画劇場はすでに存在していた年だが描かれていない。"櫻井家墓" の文字付近に桜井映画劇場があった。安城デジタルアーカイブで閲覧可能。

 

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(写真)『広報さくらい』1966年11月1日号、第75号(町制10周年記念号)。桜井映画劇場には言及していない。安城市図書情報館貴重書庫所蔵。

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(写真)安城市への合併前の碧海郡桜井町中心部。『桜井町勢要覧 65'』桜井町、1965年。安城市図書情報館所蔵。

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(左・右)上の写真の右側に写っている株式会社白増(中日新聞桜井専売所)。

 

1. 安城市桜井地区の映画館

1.1 桜井映画劇場(1929年-1964年頃)

所在地 : 愛知県碧海郡桜井町東町(1964年)
開館年 : 1929年
閉館年 : 1964年頃
『全国映画館総覧 1955』によると1929年設立。1950年の映画館名簿には掲載されていない。1953年の映画館名簿では「桜井劇場」。1955年の映画館名簿では「桜井映画劇場」。1960年・1963年・1964年の映画館名簿では「桜映画劇場」。1965年・1966年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は「ファッションセンターしまむら桜井店」の西50mにある民家。最寄駅は名鉄西尾線桜井駅。

桜井映画劇場は名鉄西尾線桜井駅前にあった映画館です。1967年(昭和42年)には碧海郡桜井町が安城市編入されていますが、桜井映画劇場は1964年(昭和39年)頃に閉館しているため、厳密には安城市にあった映画館とは言えません。映画館名簿によると経営者は水野庄六。

桜井映画劇場について、映画館名簿と住宅地図以外の文献における言及は確認できていません。映画館名簿によると定員588の立派な劇場であり、いつか写真の一枚でも発見したい。

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(写真)1955年頃の「桜井村案内図」。右下が桜井駅。駅前にある杉浦肥料店の上の建物が櫻井劇場(場劇井櫻)と読める。『千客万来 安城を彩った広告』安城市歴史博物館、2013年。名古屋市鶴舞中央図書館などが所蔵。※安城市図書情報館は未所蔵。

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(写真)1955年頃の「桜井村案内図」が掲載された『千客万来 安城を彩った広告』安城市歴史博物館、2013年。名古屋市鶴舞中央図書館などが所蔵。※安城市図書情報館は未所蔵。

 

桜井映画劇場跡地の南側にある小澤たばこ店で女性(80代?)に話を聞きました。

最近の土地開発で変わってしまっているが、小澤たばこ店の北東にあるアパートの場所などが映画館の敷地だった。映画上映のほかには芝居がかかることもあった。たばこ店の経営が忙しかったので、1、2回しか入ったことはない。経営者の息子は絵描きであり、現在は土地を売って他所に移ったようだ。桜井駅前では営業を辞めてしまった店が多いが、小澤たばこ店は駅前で建て直し、昔と同じように営業を続けている

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(写真)桜井映画劇場の跡地。手前の駐車場、右奥の駐車場、中央の民家すべて。

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(写真)話を聞いた小澤たばこ店。左は名鉄西尾線桜井駅。
 

1970年代から1980年代の住宅地図を見ると、跡地には水野豊邸があり、水墨画教室が開かれていたようです。2010年(平成22年)の航空写真を見ると、1961年(昭和36年)の航空写真と同じ建物が建っているように見えますが、1929年(昭和4年)竣工の建物がまだ残っていたのなら驚きです。建物については小澤たばこ店の女性にも聞きましたが、映画館時代の建物が近年まで残っていたのかどうかはよくわかりませんでした。

2017年(平成29年)のGoogle ストリートビューでは桜井映画劇場跡地は空き地となっています。2020年代初頭現在は安城桜井駅周辺特定土地区画整理事業が進行中であり、かつて桜井映画劇場が建っていた敷地は分割されて駐車場や民家になっています。

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(地図)1964年の住宅地図における桜井映画劇場。地図では「映画館」。碧南市民図書館所蔵。

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(地図)1985年の住宅地図における桜井映画劇場跡地。中央上の水野水墨画教室 桜山。

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(左)1961年の航空写真における桜井映画劇場。(右)2010年の航空写真における桜井映画劇場跡地。建物は変化していないと思われる。いずれも地図・空中写真閲覧サービス

 

安城市桜井町の映画館について調べたことは「西三河の映画館 - 消えた映画館の記憶」にまとめており、跡地については「消えた映画館の記憶地図(愛知県版)」にマッピングしています。

hekikaicinema.memo.wiki

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