2020年(令和2年)の正月、岐阜県海津市平田町今尾(旧・海津郡平田町)を訪れました。かつて今尾には映画館「今尾劇場」がありました。
1. 今尾を訪れる
1.1 千代保稲荷神社
海津市平田町三郷にある千代保稲荷神社(おちょぼさん、おちょぼ稲荷)は岐阜県有数の初詣スポットであり、年間約200万人の参拝者が訪れるそうです。新型コロナの流行前ということで初詣にも例年通りの人出があり、人込みをかき分けて参道を進みます。おちょぼ稲荷がある三郷は水田地帯にある小集落に過ぎず、なぜここに初詣客を集める神社ができたのか不思議でした。
(写真)千代保稲荷神社の鳥居。
(左)初詣客でにぎわう参道の屋台。(右)稲藁で結んだ油揚げのお供え物を作る女性。
1.2 今尾市街地
おちょぼ稲荷から約2kmの距離には、海津市平田町の中心集落である今尾市街地があります。集落としての規模は海津市海津町の海津市街地よりもやや小さいか。中心部でも3階建てビルが最高層の商店街でした。
(写真)今尾商店街のアーチ。
(写真)今尾商店街の中心部。右は大垣共立銀行今尾代理店。
2. 海津市平田図書館
海津市には旧海津町、旧平田町、旧南濃町の3町それぞれに図書館があり、海津市海津図書館が本館、海津市平田図書館と海津市南濃図書館が分館と位置付けられています。平田図書館がある海津市生涯学習センターの建物入口には、鐘紡社長を務めた武藤山治 (実業家) - Wikipediaの銅像がありました。
2.1 海津市図書館の統廃合
分館とはいえ、平田図書館の蔵書数(約8万冊)は海津図書館のそれ(約9万冊)と遜色なく、平田図書館と同じく分館の南濃図書館(約2万冊)とは差があります。2019年(令和元年)8月には南濃図書館を訪れたこともあるのですが、南濃図書館は "機能の見直しと施設の集約化を図るため" に2020年(令和2年)3月末に閉館したようです。
図書館の統廃合では和歌山県の紀の川市立図書館などが知られていますが、紀の川市立図書館は片方の図書館の移転開館にともなったものです。愛知県周辺で "(新館の開館を伴わない)単純な閉館" というのは初めて聞きました。
2.2 郷土資料
海津市生涯学習センターの開館と同時期の1996年(平成8年)から新聞記事スクラップブックの作成を行っていたようで、20年分以上あるスクラップブックが目を見張ります。木曽三川や輪中、特に宝暦治水に関する文献は充実しています。
(写真)郷土資料コーナー。
(写真)海津市新聞記事切り抜きファイル。
(写真)海津市に関する資料。
2. 今尾の映画館
2.1 今尾劇場(1920年11月-1964年頃)
『全国映画館名簿1955』には開館年が掲載されていない。1950年の映画館名簿には掲載されていない。1953年・1955年・1958年・1960年・1963年・1964年の映画館名簿では「今尾劇場」。1966年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は「辻中医院」敷地西側。
今尾劇場合資会社の創立は1920年(大正9年)11月。1964年(昭和39年)の映画館名簿によると、経営者は近藤喜三、支配人は大橋山治、木造2階建、500席。500席というのはそれなりに大きい。
商店街の中心部にある山伝食料品店の男性(80代?)に聞くと、
「今尾劇場は、商店街を東に向かってほぼ突き当り、辻中医院がある辺りにあった」とのこと。この男性は膝にかわいらしいねこを乗せてテレビを見ていました。
辻中医院に近い松川饅頭の主人(80代?)に聞くと、
「今尾劇場は辻中医院の場所にあった。当時は商店街と県道を結ぶ道が通じておらず、劇場の西側に入口があった。和風建築だった。他の映画館で上映した後にフィルムが回ってくるため、フィルムの表面が傷んで雨のようになっていた。劇場が閉館した後、辻中さんが土地を購入して病院を建てた」とのこと。
今尾商店街のアーチがある部分は後から開通したようです。現在の辻中医院は1990年代以降の建物に見えるので、病院の建物としては2代目かもしれません。
「今尾神社で開催される今尾の左義長は人手不足のため、近くに住むベトナム人も参加している」という裏話も聞きました。技能実習生として来日しているベトナム人のようですが、海津市では何の仕事をしてるんだろう。
(写真)今尾劇場跡地の辻中医院。
(地図)海津市平田町における今尾劇場。Google My Maps
(左)話を聞いた山伝食料品店。(右)話を聞いた松川饅頭。
現地を訪れてから10か月後の2020年(令和2年)10月、岐阜県図書館で「今尾劇場」が掲載された地図を発見。現在の辻中医院の場所にあることが地図からも確認できました。
(地図)右に今尾劇場が描かれている『大日本職業別明細図 第222号』東京交通社、1930年。岐阜県図書館所蔵。
(写真)『大日本職業別明細図 第222号』東京交通社、1930年。岐阜県図書館所蔵の広告。可児郡広見町の東雲座、可児郡御嵩町の曙座、土岐郡多治見町の多治見館、土岐郡多治見町の榎元座、土岐郡瑞浪町の常盤座も掲載されている。
海津市平田町にあった映画館について調べたことは「岐阜県の映画館 - 消えた映画館の記憶」に掲載しており、その所在地については「消えた映画館の記憶地図(岐阜県版)」にマッピングしています。