振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

足尾町を訪れる(1)通洞

(写真)足尾鉱山観光。トロッコの終着駅。

2024年(令和6年)3月、栃木県日光市足尾町を訪れました。

戦後の上都賀郡足尾町古河鉱業足尾鉱業所(足尾銅山)で栄え、映画館としては「足尾キネマ」「足尾東映」「エビス座」「足尾映画劇場」がありました。「足尾町を訪れる(2)松原」「足尾町を訪れる(3)赤沢・掛水」「足尾町を訪れる(4)下間藤・上間藤・赤倉」に続きます。

 

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1. 通洞(つうどう)

1.1 足尾町の歴史

足尾銅山室町時代後期の天文19年(1550年)に鉱脈が発見された鉱山であり、江戸時代には幕府直轄の鉱山として発展、鉱山町である足尾は「足尾千軒」と呼ばれる繁栄を見せました。

明治維新後には古河財閥創始者である古河市兵衛が経営に着手し、明治20年代には日本全体の銅産出量の約40%を産出する鉱山となりました。市兵衛死後の1905年(明治38年)には古河鉱業足尾鉱業所が設立されましたが、明治中期から末期には日本初の公害事件とされる足尾鉱毒事件も起こっています。ピーク時の1920年大正9年)には足尾町の人口が3万人を超え、宇都宮市に次いで栃木県2番目に市制施行する可能性すらあったようです。

1973年(昭和48年)2月には古河鉱業足尾鉱業所(足尾銅山)が閉山。1960年(昭和35年)に約1万8000人だった人口は、1970年(昭和45年)には約1万1000人、1980年(昭和55年)には約6000人となり、足尾町は深刻な衰退と過疎化を経験しました。町の活性化や新たな産業の創出を目的として、1980年(昭和55年)4月に開業したのが体験型観光施設の足尾銅山観光です。

(写真)足尾銅山を象徴する旧足尾銅山製錬所大煙突。

 

1.2 足尾銅山観光

入場者は施設入口でチケットを買い、トロッコに乗り込んで実際の坑口から坑道内に入ります。鉱夫の人形などが展示されている坑道を歩き、資料室なども見学して出口に向かうことになります。トロッコを用いた坑道見学施設は日本初であり、後発の鉱山観光施設に大きな影響を与えたとのこと。

(写真)足尾銅山観光。始発駅を発車したトロッコ

 

2001年(平成13年)には入口が移設されたことでトロッコの乗車距離が延び、急勾配も走行可能な蓄電池式機関車が導入されています。坑口内には足尾銅山の展示室などもあり、実際に使用されていた電気機関車などが展示されています。この2024年(令和6年)7月にはWikipedia記事「足尾銅山観光 - Wikipedia」を作成しました。

(写真)足尾銅山観光。銅資料室。左は実際に使用されていた電気機関車

 

2. 足尾公民館図書室

2.1 図書室の歴史

2006年(平成18年)、足尾町今市市、(旧)日光市、藤原町、栗山村が合併して(新)日光市が発足しました。足尾銅山観光の近くにある日光市足尾総合支所内には足尾公民館図書室があります。

日光市立図書館の公式サイトでは図書室の存在にすら触れられていないのですが、足尾銅山の文献を丁寧に集めている良い図書室だと感じました。なお、日光市立図書館は日光市の直営ではなく図書館流通センター(TRC)の指定管理館です。

(写真)足尾公民館図書室について一切言及していない日光市立図書館公式サイト。

(写真)図書室の館内。

 

2.2 郷土資料

郷土資料は「足尾及び足尾銅山」と「栃木・日光」の2分類。OPACで「館:日光図書館、場所:足尾」となっている資料が足尾図書室所蔵資料と思われます。

(写真)郷土資料の書架。

 

郷土資料の書架の上部には、足尾町足尾銅山に関する新聞スクラップブックが置かれていました。足尾銅山が閉山に揺れた時期(閉山は1973年)に新聞記事の収集が開始されていますが、初期のスクラップブックの中身は町の将来を悲観する記事ばかりであり、町全体が重苦しい雰囲気だったことが分かります。

(写真)足尾町足尾銅山に関する新聞スクラップブック。

 

2013年度(平成25年度)から2020年度(令和2年度)には日光市が足尾地域生活史聞き取り事業を行い、地域おこし協力隊員の調査によって3部作の冊子『ごめんください、足尾のこと教えてください!』が発行されました。

住民への聞き取り調査によって足尾町の歴史についてまとめられています。地図や写真が多用されている点でも貴重であり、足尾町にあった劇場や映画館にも言及されています。冊子はPDFで閲覧可能です。

(写真)地域おこし協力隊が製作した冊子『ごめんください、足尾のこと教えてください!』。