振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

木之本町の映画館

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(写真)映画館「日吉座」の建物を転用した割烹・仕出し店「日吉座」(日吉屋)。

2020年(令和2年)8月、滋賀県長浜市木之本町を訪れました。かつて木之本町には映画館「日吉座」がありました。

 

1. 木之本町を訪れる

近世の木之本町は北国街道の宿場町として栄えた町であり、近代には伊香郡役所が置かれています。2010年(平成22年)には伊香郡の他町とともに長浜市編入されました。

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(写真)滋賀県における長浜市木之本町の位置。©OpenStreetMap contributors

 

1.1 北国街道

南北に延びる北国街道が木之本町のメインストリートであり、木之本市街地の中心には木之本地蔵院があります。

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(写真)木之本市街地。地理院地図

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(左)JR北陸本線木ノ本駅。 (右)木之本地蔵院。

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(写真)木ノ本駅と北国街道を結ぶ地蔵坂。 

 

1.2 木之本の和風建築

木之本市街地には2軒の酒蔵が現存しますが、桑酒で知られる山路酒造は天文元年(1532年)創業、「七本槍」の冨田酒造は天文3年(1534年)創業と、いずれも日本でも有数の古さだと思われます。

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(写真)山路酒造。

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(左)北国街道の町並み。(右)本陣薬局旧本店。

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(左)あいたくて書房。(右)ますや書店。

 

1.3 木之本の近代建築

江戸時代から近代の和風建築が並ぶ北国街道で異彩を放っているのが、1935年(昭和10年)竣工の登録有形文化財、きのもと交遊館(旧滋賀銀行木之本支店)。本来なら木之本の街歩きの起点になる施設だと思われますが、この日は休館日でした。

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(写真)きのもと交遊館。登録有形文化財

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(左)つるやパン。(右)つるやパンのサラダパン - Wikipedia

 

2. 江北図書館

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(写真)江北図書館。

 

2.1 図書館の歴史

木之本町に公立図書館は存在せず、私設図書館である江北図書館 - Wikipedia(こほくとしょかん)が公共図書館の役割を果たしています。1907年(明治40年)開館の江北図書館は「滋賀県に現存する最古の図書館」。1953年(昭和28年)時点では「滋賀県に6館しかない図書館のひとつ」、1993年(平成5年)までは「伊香郡唯一の図書館」であり、「個人が設立して100年以上にわたって運営が続けられてきた私立図書館は他に類を見ない」とのことです。

1926年(大正15年)に冨田酒造の冨田八郎が無報酬の館長に就任すると、90年以上・3代に渡って冨田家の当主が館長を務めています。1981年(昭和56年)頃からは冨田家14代目当主で経済学者でもある冨田光彦 - Wikipediaが館長を続けています。

ja.wikipedia.org

 

2.2 図書館の館内

上記のWikipedia記事を作成したのは2016年(平成28年)のことですが、江北図書館を訪れるのは今回が初めてでした。1階西側が児童書室、1階東側が一般書室であり、2階は開架書庫のような位置づけです。

玄関脇のガラスケースには坪内逍遥訳『新修シェークスピヤ全集』(中央公論社、1933年-1935年)が展示されていました。江北図書館の総蔵書数5万冊のうち1万冊は明治大正期の書籍だそうで、昭和初期の『新修シェークスピヤ全集』は古い蔵書とは言えないかもしれません。

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(左)1階の児童書室。(中)1階の一般書室と扁額。(右)講堂だった2階。現在は物置。

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(左)テーマ展示「麒麟がくる」。(中)絵本作家の長谷川義史と小説家の阿刀田高の色紙。(右)地域再生大賞と滋賀県文化賞の表彰状。

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(左)坪内逍遥訳『新修シェークスピヤ全集』(中央公論社、1933年-1935年)。(右)『世界文学全集』(新潮社、1927年-1932年)。

 

 

3. 木之本町の映画館

3.1 日吉座(昭和初期-1965年頃)

所在地 : 滋賀県伊香郡木之本町(1963年)
開館年 : 昭和初期
閉館年 : 1965年頃
『全国映画館総覧 1955』には開館年が掲載されていない。1947年の映画館名簿では「日吉館」。1950年・1953年・1955年・1960年・1963年・1965年の映画館名簿では「日吉座」。1966年の映画館名簿には掲載されていない。映画館時代の建物は割烹・仕出し店「日吉座」(日吉屋)として現存。

木之本町には映画館「日吉座」がありました。日吉座は伊香郡唯一の映画館であり、昭和初期から1965年(昭和40年)頃まで営業していたようです。日吉座の建物は北国街道の西側に並行する通り沿いに現存し、「凸」型のモルタル壁が目印です。母体は同一地点にあった料理旅館であり、「旅館に併設された映画館」という位置づけだったようです。

2017年(平成29年)公開の映画『カメラを止めるな』で有名になった映画監督の上田慎一郎木之本町出身。1984年(昭和59年)生まれの上田が育った時代の木之本町に映画館はなく、長浜市にも映画館がなかったため、彦根市のビバシティシネマ彦根まで映画を観に行っていたそうです。

2017年(平成29年)7月には木之本地区地域づくり協議会の主催で「第1回きのもと映画祭」が開催され、2018年(平成30年)には第2回映画祭が、2019年(令和元年)には第3回映画祭が開催されています。

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(写真)北から見た日吉座跡地。

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(写真)南から見た日吉座跡地。 

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(写真)日吉座跡地。地理院地図

 

木之本町にあった映画館について調べたことは「滋賀県の映画館 - 消えた映画館の記憶」に掲載しており、その所在地については「消えた映画館の記憶地図(滋賀県版)」にマッピングしています。

hekikaicinema.memo.wiki

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