振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

五ヶ所地区の映画館

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(写真)南伊勢町役場。

2020年(令和2年)2月、三重県度会郡南伊勢町の五ヶ所地区を訪れました。かつて五ヶ所地区にあった映画館「南勢劇場」や「五ヶ所劇場」の跡地などをめぐっています。

 

 

1. 南伊勢町五ヶ所地区を訪れる

南伊勢町(みなみいせちょう)は三重県伊勢志摩地方にある人口約11,000人の自治体。2005年(平成17年)に南勢町(なんせいちょう)と南島町(なんとうちょう)が合併して発足しました。南勢町は "南西" ではなく "東側" にあり、南島町は "南東" ではなく "西側" にあるのがややこしい。五ヶ所(ごかしょ)地区は旧南勢町の中心地区であり、南伊勢町の町役場が置かれている地区でもあります。市街地の正面にはリアス式海岸の五ヶ所湾が広がっており、湾の形がカエデの葉のように見えることから、楓江湾という別名を持ちます。

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(地図)愛知県から見た南伊勢町の位置。©OpenStreetMap contributors

 

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(地図)旧南勢町の地勢図。国土地理院 地理院地図

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(写真)旧南勢町の地形模型。愛洲の館の展示物。

 

 

2. 五ヶ所地区を歩く

2.1 五ヶ所港

五ヶ所地区は市街地と港が近接しているのが特徴であり、五ヶ所バスターミナルから国道260号を渡ればすぐ五ヶ所港に出ることができます。湾口部が狭く水深が深い五ヶ所湾は天然の良港であり、大規模な埠頭や突堤などはありません。南伊勢町の海面漁業の漁獲量は三重県全体の46%(第1位)、特にまき網漁によるいわし類とさば類の漁獲量が多いようです。

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(写真)五ヶ所港に停泊している漁船。

 

五ヶ所湾は概して水深の深い一方で、五ヶ所川の河口部には浅瀬が広がっており、三重県ではおなじみのあおさ海苔の海苔そだ(養殖用網)が見られます。冬季はあおさ海苔の収穫の季節であり、緑色の海苔そだが青い海や空に映えていました。

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(写真)五ヶ所川河口部の海苔そだ。

 

2.2 五ヶ所市街地

旧南勢町の主要な集落はすべて五ヶ所湾に面しており、かつては五ヶ所湾巡航船など海上交通が発達していたようです。一方で鉄道路線は町域を通っておらず、また道路交通も便利とは言い難い。伊勢市宇治山田駅前)と志摩市志摩磯部駅前)から五ヶ所地区に向けてバス路線がありますが、それぞれ7往復/日と9往復/日のみです。五ヶ所地区を東西に国道260号が貫いていますが、この国道が開通したのは1970年代後半になってからのことでした。

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(写真)五ヶ所バスセンター。

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(写真)国道260号。(中)国道と商店街が交差する五ヶ所交差点。奥は五ヶ所大橋。(右)1979年架設の五ヶ所大橋。

 

2.3 五ヶ所商店街

国道260号は五ヶ所交差点で五ヶ所商店街と交差しています。国道の開通前はこの商店街がメインストリートだったようであり、1970年代の航空写真を見ると五ヶ所川が形成した州の上に市街地が形成されています。現在は主要な交通路としての役割を完全に国道260号に譲っており、商店街や商店街の東西をつなぐ楓江橋を通る車はほとんどありません。

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(左)五ヶ所川に架かる楓江橋。両岸は商店街。(右)五ヶ所川。左は五ヶ所神社、右は五ヶ所浅間山〈五ヶ所富士〉。

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(写真)五ヶ所商店街。(左)国道南側。(右)国道北側の楓江橋西側。

 

国道260号の五ヶ所交差点のすぐ北側には、奇妙なドームを持つ木造3階建ての建物がありました。この建物は旧太吉屋旅館(楓江館)という名前であり、1913年(大正2年)に建てられた洋風建築だそうです。現在は内部に立ち入ることができませんが、五ヶ所川の河岸にあって目立つため、何かしら活用されることを期待します。

旧太吉屋旅館の西75mには旅館「二葉」があり、1935年(昭和10年)頃に建てられた建物の棟梁は旧太吉屋旅館と同じだそうです。旅館二葉の南には喫茶店「珈琲塔ファイブ」がありますが、かつて銭湯だった建物の内部を改装して喫茶店にしており、店内には銭湯時代の名残りが見られました。

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(写真)五ヶ所商店街。(左)国道北側の楓江橋西側。右は旧太吉屋旅館。左は五ヶ所川に架かる五ヶ所大橋。(右)楓江橋東側。

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(左)青龍寺。(中)旅館「二葉」。(右)喫茶店「珈琲塔ファイブ」。

 

2.4 みなみいせ図書室

南伊勢町三重県に5ある図書館未設置自治体ですが、南伊勢町町民会館にはみなみいせ図書室が設置されており、町民会館はNPOみなみいせ市民活動ネットが指定管理者となっています。「(2012年度から)みなみいせ図書室の充実を進めています」とも、「(2018年)9月で開設3年となる」ともあり、いつ頃からある図書室なのかも判然としません。なお、図書館紹介ページにはOPACのページがありません。

三重県図書館の統計によると、2018年度末の蔵書冊数は9,091冊、2018年度の入館者数は5,880人、2018年度の貸出数は8,779冊とのこと。三重県の図書館未設置自治体の中では入館者数が多いように見えますが、どの程度町民に使われているのでしょう。2014年(平成26年)には子どもの本専門店「メリーゴーランド」店主の増田喜昭さんなどが出演したトークイベント「わたしたちの町に図書館ができた!」が開催されています。

なぜか建物の正面入口ではなく、建物の裏手に図書室の入口がありますが、建物内から図書室には入館できないのでしょうか。私が訪れたのは祝日で閉館日でした。

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(写真)みなみいせ図書室の入口。

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(左)みなみいせ図書室がある南伊勢町町民文化会館。(右)建物裏手にあるみなみいせ図書室入口。

 

 

3. 五ヶ所地区の映画館

かつて南勢町五ヶ所地区には、「南勢劇場」「五ヶ所劇場」という2館の映画館がありましたが、いずれも1970年代初頭に閉館したと思われます。

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(写真)1960年代の五ヶ所地区の航空写真。国土地理院 地理院地図

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(写真)1970年代中頃の五ヶ所地区の航空写真。国土地理院 地理院地図

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(写真)2013年の五ヶ所地区の航空写真。国土地理院 地理院地図

 

3.1 南勢劇場(-1970年代初頭)

所在地 : 三重県度会郡南勢町五ヶ所(1969年)
開館年 : 1958年以後1960年以前
閉館年 : 1969年以後1973年以前
1958年の映画館名簿には掲載されていない。1960年の映画館名簿では「南勢東映」。1963年・1966年・1969年の映画館名簿では「南勢劇場」。1973年の映画館名簿には掲載されていない。1974年のゼンリン住宅地図では跡地に「元南勢劇場」。現在の跡地は「南伊勢町商工会館」。

南勢劇場跡地には1976年(昭和51年)頃に南勢町商工会館が建ちました。国道260号の南側は商店街の雰囲気がすっかりなくなり、町の中心にあるべき商工会館の存在が異質な印象を受けるほど寂れています。

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(左)南勢劇場跡地にある南伊勢町商工会館。(右)南勢劇場跡地前の道路。中央左が南伊勢町商工会。

 

3.2 五ヶ所劇場(-1970年代初頭)

所在地 : 三重県度会郡南勢町五ヶ所(1969年)
開館年 : 1958年以後1960年以前
閉館年 : 1969年以後1973年以前
1958年の映画館名簿には掲載されていない。1960年・1963年・1966年・1969年の映画館名簿では「五ヶ所劇場」。1973年の映画館名簿には掲載されていない。1974年のゼンリン住宅地図では跡地に「元五ヶ所劇場」。1980年時点では建物が現存していた。跡地は「五ヶ所児童公園」西側の駐車場。

五ヶ所劇場跡地は駐車場になっています。今でこそ五ヶ所劇場跡地周辺は五ヶ所地区の中心地の雰囲気がありますが、映画館があった当時の五ヶ所川右岸は人家も少なく、映画館は水田に囲まれていたようです。二村高史さんによるウェブサイト「二邑亭駄菓子のよろず話」には、1980年時点の五ヶ所劇場の建物の写真が掲載されています。

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(写真)五ヶ所劇場跡地にある駐車場。右奥は五ヶ所浅間山

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(左)五ヶ所商店街から見た五ヶ所劇場跡地。(中)五ヶ所劇場跡地。(右)五ヶ所劇場跡地の東側にある五ヶ所児童公園。

 

南勢町の映画館について調べたことは「三重県の映画館 - 消えた映画館の記憶」にまとめており、跡地については「消えた映画館の記憶地図(全国版)」にマッピングしています。

hekikaicinema.memo.wiki

www.google.com

 

宿田曽地区の映画館」に続きます。

ayc.hatenablog.com