（写真）近鉄大阪線榛原駅。
2021年（令和3年）11月、奈良県宇陀市の榛原地域（旧・宇陀郡榛原町）を訪れました。戦後の榛原町には映画館「榛原映画劇場」があり、戦前から戦後には劇場「鳥見座」がありましたが、両者は同一施設の可能性があります。「宇陀松山の映画館」からの続きです。
1. 榛原町を訪れる
2006年（平成18年）には宇陀郡榛原町・大宇陀町・菟田野町・室生村が合併して宇陀市が発足。近代に宇陀郡役所が置かれていたのは大宇陀町ですが、合併後に宇陀市役所が置かれたのは榛原町。榛原市街地には近鉄大阪線榛原駅があり、宇陀市の各地域に向かう交通の拠点となっています。
（写真）近鉄大阪線榛原駅。
近世の榛原町は宿場町でもあり、奈良平野方面から来た街道は榛原町で伊勢本街道と伊勢街道に分岐していました。本居宣長が宿泊した旧旅籠「あぶらや」は宇陀市歷史文化館として現存しており、あぶらや付近を中心として「Y」字型に市街地が形成されています。
（写真）旧旅籠「あぶらや」。
あぶらやから北に向かうと宇陀市立中央図書館が入る榛原総合センターがあります。中央図書館という名称ではありますが、1987年（昭和62年）に開館した榛原町立図書館が合併を機に改称した図書館であり、床面積は約700m2、蔵書数は約10万冊というコンパクトな図書館です。
（写真）宇陀市立中央図書館が入る榛原総合センター。
榛原駅から東に向かう道路は榛原駅前商店街であり、中間付近には2004年（平成16年）に開館した大衆演劇場「やまと座」があります。
（写真）榛原駅前商店街。
（写真）榛原駅前商店街にある大衆演劇場「やまと座」。
2. 榛原町の映画館
2.1 榛原映画劇場（1953年12月-1970年代初頭）
所在地 : 奈良県宇陀郡榛原町萩原1125（1970年）
開館年 : 1953年12月
閉館年 : 1970年以後1973年以前
『全国映画館総覧 1955』では1952年7月開館。『全国映画館総覧 1955』では1953年12月開館。1953年の映画館名簿には掲載されていない。1954年の映画館名簿では「榛原映劇」。1955年の映画館名簿では「榛原劇場」。1958年・1960年の映画館名簿では「榛原映画劇場」。1963年の映画館名簿では「榛原映劇」。1966年・1969年・1970年の映画館名簿では「榛原映画劇場」。1973年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は「榛原新町郵便局」南西70mにある建物と駐車場。最寄駅は近鉄大阪線榛原駅。
映画館名簿
映画館名簿には宇陀郡榛原町の映画館として榛原映画劇場が掲載されています。1955年版によると1953年（昭和28年）12月開館とのことですが、映画館名簿における "開館" が "組織としての設立" と "建物の竣工" のどちらを指しているのかはわかりません。最後に掲載が確認できる1970年版によると、経営者は日高武夫、定員200の映画館だったようです。
（写真）榛原映画劇場が掲載されている『映画館名簿 1970』時事映画通信社、1970年。
郷土資料
『榛原町史』（榛原町役場、1959年）には「榛原中心部商店街図」が掲載されており、榛原駅前商店街と宇陀川商店街を短絡する路地に "劇場" という文字が見えます。『榛原町史 本編』（榛原町役場、1993年）には戦前の1935年（昭和10年）に「鳥見座」という劇場が開館したことが記されており、1959年（昭和34年）の地図における "劇場" は「鳥見座」であると想像できます。
戦前から1950年代の郷土資料には劇場「鳥見座」が登場し、1950年代から1970年代初頭の映画館名簿には映画館「榛原映画劇場」が登場するわけですが、この2施設が同一移設であるのかどうかはわかりません。
（地図）「榛原中心部商店街図」『榛原町史』榛原町役場、1959年。
「榛原中心部商店街図」に掲載されている "劇場" の場所には2階建ての建物が建っており、1階部分が飲食店などの商店、2階部分が住居となっています。榛原駅前商店街にある五差路を南東に曲がった場所にあります。
（写真）鳥見座の跡地。
（写真）榛原駅前商店街の五差路。右の道路を進むと鳥見座跡地に至る。
榛原町の映画館について調べたことは「奈良県の映画館 - 消えた映画館の記憶」にまとめており、跡地については「消えた映画館の記憶地図（奈良県版）」にマッピングしています。
