振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

辰野町の映画館

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(写真)辰野駅前の本町通り。2018年10月。

 

2018年10月28日(土)に諏訪市図書館で開催された「信州・酒ペディア in 上諏訪」の前日、長野県上伊那郡辰野町を訪れました。

 

辰野町を訪れる

近世の辰野村は小規模な農村であり、1906年明治39年)の国鉄中央本線(現・JR中央本線辰野駅開業、また1909年(明治42年)の伊那電気鉄道(現・JR飯田線)開業を機に発展しました。大正時代から昭和戦前までがもっとも華やかだったそうですが、現在でも味のある街並みが残っています。

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(地図)愛知県から見た辰野町の位置。©OpenStreetMap contributors

 

JR辰野駅前の本町商店街を歩き、街並みの写真を撮りながら辰野町立図書館を訪れたのですが、辰野町警部交番(旧・辰野警察署)の外観を撮ったら小走りで近づいてきた警察官に職務質問を受けました。愛知県から何をしに来たのか聞かれたので、「諏訪市図書館でWikipediaを編集する怪しいイベントのために来た」「(今日は観光だけど)明日は観光とも仕事ともいえない」と伝えましたが、「まちあるき」という趣味を理解してくれない警察官だったようで、こちらの意図は伝わってなかったと思います。平日の昼間から観光地とは言えない地方都市を歩いていると怪しまれるので気を付けましょう。

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(写真)伊那警察署辰野警部交番。2018年10月。

 

辰野町の映画館

辰野劇場(-1970年代初頭)

所在地 : 長野県上伊那郡辰野町1672(1969年)
開館年 : 1930年以前
閉館年 : 1969年以後1973年以前

1930年・1950年・1953年・1960年・1963年・1966年・1969年の映画館名簿では「辰野劇場」。

詳細は「伊那地方の映画館 - 消えた映画館の記憶

 

1930年の映画館名簿にはすでに辰野劇場が登場します。まだ長野県には長野市松本市上田市の3市しかなかった時代。当時の長野県に映画館は28館しかありませんでしたが、うち12館が南信地方にありました。これ以後、1969年の映画館名簿までは辰野劇場が掲載されていますが、1973年の映画館名簿には掲載されていません。

 

日本の映画館客数がピークを迎えたのは1958年。日本の映画館数がピークを迎えたのは1960年。『伊那毎日新聞』には「今週の映画案内」が掲載されていますが、1959年9月2日に映画案内は以下の通りでした。高遠文化会館(上伊那郡高遠町、現・伊那市)、赤穂銀映(駒ヶ根市)、赤穂キネマ(駒ヶ根市)、伊那電気館(伊那市)、伊那旭座(伊那市)、伊那中央劇場(伊那市)、松島映劇(上伊那郡箕輪町)、辰野劇場(上伊那郡辰野町)の8館が掲載されています。

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(写真)「今週の映画案内」『伊那毎日新聞』1959年9月2日


私が辰野町を訪れるすぐ前に出た『広報たつの』2018年10月号には、1949年6月29日に辰野劇場が第1回信州辰野ほたる祭りの会場となったとする言及があります。辰野町立図書館で辰野劇場の場所についてレファレンスしたところ、図書館の文献ではお手上げといった感じでしたが、『広報たつの』の製作スタッフに電話で連絡を取ってくれました。「辰野駅前の本町通(商店街)、スワ時計店の角を南東に入った場所」とのことです。 現地を訪れてみると整地されたばかりでした。

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(写真)辰野町立図書館。左側の緑屋根は近年に増築したスペース。

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(写真)辰野劇場跡地。「立入り禁止」の文字の辺りが建物入口だった。2018年10月。

 

Google ストリートビューを見てみると、2014年8月撮影のストリートビューには辰野劇場の建物が写っています。「N●●●● SHOPPERS 辰野店」という文字が見えるため、スーパーマーケットとして使用されていたのでしょう。

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 (写真)2014年8月時点の辰野劇場。Google ストリートビュー。©Google

 

国土地理院地理院地図にも辰野劇場の赤い屋根が写っています。整地されてしまった辰野劇場跡地ですが、数年前までは建物が建っていたようです。

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(写真)辰野市街地における辰野劇場の位置。地理院地図 空中写真 2016年4月撮影

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(写真)辰野市街地における辰野劇場の位置。地理院地図

 

辰野劇場に関するより詳しい言及は期待できないと思っていましたが、意外な雑誌から見つけました。日本地図センターが刊行している『地図中心』2017年6月号の特集は「辰野町」。2009年に辰野美術館が作製した「たつのロマンを歩く」という地図が掲載されており、本町周辺の近代化遺産に混じって辰野劇場も掲載されています。昭和30年代の写真を見ると、近年まで建っていた建物とは異なるようです。ウェブ検索してもこの地図のことは出てこないし、私が辰野町を訪れた際もこの地図の存在には気づきませんでした。とても良い地図なので辰野駅や観光案内所などで配布してほしいし、辰野町立図書館に所蔵されていてほしいと思いました。

『地図中心』に寄稿された文章を読む限り、2017年時点ではまだ辰野劇場の建物が健在でした。私が辰野町を訪れるのが1年早かったら、映画館時代の建物に出会えていたかもしれません。残念。

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(地図)「たつのロマンを歩く」。中央左に辰野劇場。©辰野美術館

 

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