(写真)神戸町立図書館。
2019年(令和元年)10月には岐阜県安八郡神戸町(ごうどちょう)を訪れました。かつて神戸町には映画館「神戸シネマ」がありました。
1. 神戸町を訪れる
神戸町は岐阜県安八郡の自治体。大垣都市圏に含まれ、大垣駅から養老鉄道養老線で訪れることができます。
(地図)名古屋市から見た岐阜県神戸町の位置。©OpenstreetMap contributors
明治時代の地形図を見てみると、その市街地は南北に長く、北端にある日吉神社 (神戸町) - Wikipediaが目につきます。大正時代に開業した養老鉄道線はまだ地形図に描かれていません。
(地図)明治時代の神戸町の地形図。今昔マップ on the web
(写真)1970年代の神戸町の航空写真。国土地理院 地理院地図
神戸市街地の最寄駅は養老鉄道線広神戸駅。駅前には「ごうど観光交流館ひよしの里」がありました。男性職員に映画館の場所を聞いてから神戸市街地を歩きました。
(左)ごうど観光交流館ひよしの里。
1.1 本町通り
神戸市街地のメインストリート、南北に延びる本町通りは2車線道路ですが、広い路肩や広い歩道があります。商店街としては異様にも見える道路幅ですが、近年の区画整理事業などで拡幅したわけではなく、昔からこの広さなのだそうです。明治時代の地形図でも広く見えますが、なぜ広いのかははっきりわからないらしい。駅名の "広神戸" は本町通りの広さに由来するという説もあるそうです。
(写真)神戸町の中心部。本町通り。
(写真)道幅が特徴的な本町通り。
本町通り南端部には「ようこそバラの町へ」というアーチがあり、日吉神社祭礼の三宮神輿蔵や「尾張藩領取締木戸跡」の石碑がありました。
(写真)本町通り南端部のアーチ。
本町通りの東100mには本町通りに並行する道路があります。中央部でクランク状になっており、またクランク部分には和菓子屋や仏壇店が健在であることからも、この道路のほうが往時のメインストリートらしい風情がありました。
(左)本町通りの東側に並行する道路。(右)この道路がクランクになった部分。
瑠璃光寺は最澄が開基したと伝えられる古い寺院であり、春日局もゆかりがあるそうです。神戸小学校の前身である玉成舎がこの地にあったという石碑もありました。鐘楼の覆いは現代アートのようです。
(写真)瑠璃光寺の本堂。
(左)瑠璃光寺の山門。(右)モダンなデザインの鐘楼。
本町通りの北端部には日吉神社の一の鳥居があり、ここから北は宮前通りと名を変えます。一の鳥居の脇には日吉神社の御旅所がありますが、日吉神社までの距離は450m程度と近いです。
(写真)本町通り北端部にある日吉神社一の鳥居。
(左)日吉神社御旅所。(右)袖壁のある民家と看板建築。
1.2 日吉神社
日吉神社の旧社格は県社。5つの社殿が横に並んでいるのが特徴で、境内には重要文化財の三重塔もあります。
(写真)日吉神社の大宮。
(左)屋根付きの二の鳥居。(右)三重塔。重要文化財。
1.3 神戸町の郊外
神戸町の南部には9,000m2の「ばら公園いこいの広場」があるようですが、線路沿いにも小さな「ごうどローズパーク」がありました。市街地を離れると農地が広がっており、水田だけでなく大豆畑も多数あるようです。
広神戸駅の西側にある豊島紡績の工場が目につきますが、農地を歩いているとイビデンの大きな工場がありました。帰ってから航空写真を眺めていると、揖斐川沿いには帝人、東レ、三菱マテリアルなどの巨大な工場が集まったエリアがあります。歴史的に神戸町は工業が盛んな町のようです。
(写真)イビデン神戸工場と大豆畑。
2. 神戸町立図書館
1995年(平成7年)開館の神戸町立図書館は、広大な敷地をゆったり使ったワンフロアの郊外型図書館です。設計は安井建築設計事務所。安井建築設計事務所は図書館も多く手掛けており、神戸町の6年後に設計した津島市立図書館とは外観に共通点があります。1996年度(平成8年度)には中部建築賞を受賞し、1997年(平成9年)に日本図書館協会建築賞を受賞しています。
(写真)神戸町立図書館。
(写真)図書館入口。
2.1 図書館の立地
養老鉄道広神戸駅から南東方向には、神戸町役場・神戸町中央公民館・日比野五鳳記念美術館・神戸郵便局・神戸交番などの公共施設が集まったエリアがあります。神戸町立図書館はこのエリアではなく、郊外の北神戸駅近くにあります。神戸町役場からは約2.5kmの距離があり、車がないと訪れるのがやや面倒な図書館です。
外観の写真を見ると確かに見栄えがするし、1990年代当時の町立図書館としてはとても洗練された建物ではあります。明るくて広くて居心地の良い、1990年代基準の滞在型図書館と言えます。とはいえ、学生や年配者が徒歩や公共交通機関で訪れにくいのは明らかで、2010年代に開館した図書館ではなかなか見られない立地の図書館でもあります。
ほぼ同時期の1996年(平成8年)には、隣接する池田町に池田町図書館が開館しています。神戸町の人口は約19,000人、池田町の人口は約24,000人。人口規模は似通っていますが、立地面で池田町図書館と神戸町立図書館は対照的です。池田町図書館は池田町役場や池田町公民館と同一敷地内にあり、人口の多い市街地から徒歩圏内にあるのです。
利用統計を見ると、池田町図書館と神戸町立図書館には大きな差があることがわかります。利用者数でも貸出冊数でも、2倍もの差がついているのです。立地面だけが理由ではないと思いますが、神戸町立図書館は実より名を取り、池田町図書館は名より実を取った、という印象が強く残りました。
神戸町立図書館
年間利用者数 約5万人
年間貸出冊数 約11万冊
1人あたり貸出冊数 5.8冊
池田町図書館(参考)
年間利用者数 約13万人
年間貸出冊数 約24万冊
1人あたり貸出冊数 10.0冊
3. 神戸町の映画館
3.1 神戸シネマ
所在地 : 岐阜県安八郡神戸町(1963年)
開館年 : 1955年頃
閉館年 : 1963年頃
1955年の映画館名簿には掲載されていない。1956年・1958年・1960年・1963年の映画館名簿では「神戸シネマ」。1964年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は「唐崎神社」から宮町通りを挟んで東側の民家。
広神戸駅前の「ごうど観光交流館ひよしの里」で映画館の位置を尋ねると、70代と思われる男性職員が住宅地図を使って場所を教えてくださいました。
「本町通りを北に行くと神戸町商工会がある。商工会から道路を挟んで東側、民家2軒分の敷地に映画館があった。子どもの頃に入ったことがある」とのことです。
観光交流館の近くに住むお兄さんにも聞きに行ってくれ、お兄さんの話によると「ある時期に枡席の芝居小屋から椅子席の映画館に転換した」とのことでした。
男性職員に教えてもらった民家2軒分の敷地を訪れてみると、本町通りに面した民家では「シロヤクリーニング」が営業していました。神戸町を歩いていた時にはこの民家2軒分の敷地が映画館だと思い込んで写真を撮ったのですが、家に帰ってから1970年代の航空写真を見返していると(ブログ冒頭の航空写真)、シロヤクリーニングの北側の民家2軒分の敷地に映画館らしき建物が写っています。もう一度神戸町を訪れて再確認したいところです。
(写真)神戸キネマ跡地のすぐ南側にあるシロヤクリーニング。
(写真)唐崎神社から見た一の鳥居と神戸キネマ跡地の位置関係。中央左がシロヤクリーニング。左端の建物の位置が神戸キネマ跡地。
神戸町の映画館について調べたことは「岐阜県の映画館 - 消えた映画館の記憶」に掲載しており、跡地については「消えた映画館の記憶地図(岐阜県版)」にマッピングしています。