(写真)クリムト「黄金の騎士」を鑑賞中の参加者。
2024年11月2日(土)、愛知県名古屋市中区の愛知芸術文化センター AOAAで開催された「Wikipedia ARTS(ウィキペディア アーツ)in AOAA」に参加しました。
1. 企画概要
1.1 AOAA
AOAA(エーオーエーエー、AICHI OPEN ART ATELIER)は愛知芸術文化センター地下2階にある多目的スペースです。
愛知県美術館などがある愛知芸術文化センターの活性化を目的として、愛知県が実証実験として実施しているのがAOAAの事業です。オアシス21地下のイベント広場と直結している立地の良さを生かして、オアシス21や地下鉄栄駅側から愛知芸術文化センターに人を呼び込もうという狙いがあると思われます。
(写真)会場のAOAA。
1.2 学びの文庫
一般社団法人学びの文庫は新刊・古書店 henn booksを運営している団体です。新栄の広小路葵交差点の南西角、1958年(昭和33年)竣工のシャインビル2階にhenn booksがあります。
henn booksは探偵小説家の小酒井不木、探偵小説の一ジャンルである変格をテーマとしており、(基本的に)無人でセルフレジが置かれている独立系書店です。専門性の高さや運営スタイルがこれからの書店の在り方を示しているように見えます。シャインビルにはhenn booksの他にも、レコード店など味わいのある店舗が多数入居しています。
学びの文庫はAOAAで書籍の販売や「一箱かきましギャラリー」(一箱本棚オーナー制度)の運営を行っているほか、イベントとして今回の「Wikipedia ARTS in AOAA」、ZINEの即売会である「あいち芸文ZINEの市」(2024年11月9日・10日)、短編の製作ワークショップ「ショートショートミュージアム みんなの言葉の美術館」(2025年1月19日・26日)などを開催しています。
(写真)イベントのチラシ。
2. イベントの進行
2.1 Wikipediaに関する説明
私(かんた)はWikipediaの説明や編集サポートなどを行う講師として参加しました。
PowerPointのスライドをAOAAの白い壁面に投影し、Wikipediaの仕組みや意義などの話をしました。その後、参加者は同一ビル10階の愛知県美術館に移動してコレクション展を鑑賞し、再びAOAAに戻ってアートに関するWikipedia記事の編集を行いました。
この段階で今回の題材3記事を明示して、コレクション展の鑑賞の際に意識してもらうようにしています。
編集する題材
・クリムトの絵画作品「黄金の騎士」(新規作成)
・愛知県美術館に3000点以上寄贈した美術品収集家「木村定三」(新規作成)
・「愛知県美術館 - Wikipedia」(既存記事の加筆)
(写真)Wikipediaに関する説明。
2.2 コレクション展の鑑賞
現在の愛知県美術館では企画展「相国寺展」を開催中ですが、今回の目的は愛知県美術館のコレクション展(≒常設展)であり、深山孝彰副館長の解説を聴きながらコレクション展をめぐりました。
愛知県美術館のコレクション展は3つの展示室にまたがる大規模なものです。展示室6は愛知県美術館の前身となった愛知県文化会館美術館に関する展示であり、展示室7は愛知県美術館に3000点以上の作品を寄贈した木村定三に関する展示です。
愛知県美術館公式サイトの沿革には、1952年(昭和27年)以降の沿革が一続きで書かれています。1955年(昭和30年)から1992年(平成4年)まであった前身の愛知県文化会館美術館まで含めて愛知県美術館であるということなのでしょう。愛知県文化会館美術館は現在のオアシス21の場所にあった複合施設であり、展示室6の中央部には愛知県文化会館の模型が置かれています。
一方、Wikipediaの既存記事「愛知県美術館」には前身館のことがわずかしか書かれておらず、不完全な状態となっていました。深山副館長は前身館時代を知っている方であり、愛知県図書館のWikipedia記事の貧弱さを気にされていました。
(写真)1992年まであった愛知県文化会館の模型。
(写真)展示室6で解説を聞く参加者。
「西洋近代美術の名品」と題された展示室5に並んでいるのは、パブロ・ピカソやグスタフ・クリムトの近代西洋絵画、オーギュスト・ロダンの彫刻、サム・フランシスやフランク・ステラの抽象表現主義作品など、近現代の著名な芸術家の作品ばかり。スペイン人芸術家としてはピカソとアントニ・タピエスの2人の作品がありました。
愛知県美術館の開館準備中だった1989年(平成元年)、愛知県が約18億円で購入したのがクリムトの『黄金の騎士』であり、日本の公立美術館として初めてクリムトの作品を所有したのが愛知県美術館です。コレクション展のチケットにも『黄金の騎士』が印刷されているように、愛知県美術館のコレクションを象徴する作品といえます。
深山副館長の解説はその作品のテーマや構成だけではなく、その作品が愛知県美術館に来るまでにたどってきた経緯なども含む多彩なものでした。学芸員によるギャラリートークをゆったりとした空間で聴けた素晴らしい機会でした。
(写真)展示室5でクリムト『黄金の騎士』の解説を聞く参加者。
2.3 準備された文献
文献の準備は主催者である学びの文庫の小林さんにお願いしました。
2012年には愛知県美術館など3館を展覧会『生誕150年記念 クリムト黄金の騎士をめぐる物語』が巡回し、その図録には『黄金の騎士』の詳しい解説がありました。木村定三はアート好きにもそれほど知られていない人物だと思われますが、愛知県美術館が刊行した『木村定三コレクション作品目録』などがあります。
(写真)準備された文献。
(写真)準備された文献。
2.4 Wikipedia記事の編集
編集前には参加者の希望によって「木村定三」「黄金の騎士」の2グループに分かれ、それぞれのグループにWikipedia編集のベテランが一人ずつ入ってサポートを行いました。私は2グループを巡回しつつ、「愛知県美術館」の加筆に取り組んでいます。
美術館のコレクションや企画展の題材については当該館の学芸員が日々研究を重ねているわけで、今回の題材でも「木村定三」「黄金の騎士」については愛知県美術館の学芸員が書いた文章が多数ありましたが、これらの文章を読んだことのある方は少なかったようです。
文学の分野では文学評論を読むのは一般的であり、評論に似た感想を書いている方も数多くいますが、アートの分野ではそうではありません。文学分野とアート分野のWikipedia記事を比較すると、アート分野は極端に貧弱で改善の余地が大きい。とはいえアートに興味のある方は数多くおり、「Wikipediaのアート関係記事を充実させる」というイベントは意義があると考えます。
編集記事
「木村定三 - Wikipedia」(新規作成)
「黄金の騎士 - Wikipedia」(新規作成)
「愛知県美術館 - Wikipedia」(加筆)
(写真)Wikipedia編集中の参加者。