振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「Wikipediaブンガク12安部公房」に参加する

(写真)準備された『安部公房全集』。

2024年(令和6年)11月3日(日)、神奈川県横浜市で開催された「Wikipediaブンガク12安部公房」に参加しました。

 

1. 開催概要

1.1 ウィキペディアタウン

地域(タウン)を題材としてWikipediaウィキペディア)編集に取り組む市民参加型ワークショップとして、2013年(平成25年)から全国各地でウィキペディアタウンが開催されています。

ウィキペディアタウンの開催意図は主催者によって様々ですが、図書館が所蔵する郷土資料や司書のレファレンススキルが活きるイベントであることなどから、2017年(平成29年)には地域資源イニシアティブが主催するLibrary of the Year 2017で優秀賞を受賞しました。受賞の際の短評として「地域情報資源を活用した公共情報資産の共創活動」が挙げられています。

(写真)2024年10月に開催された「Wikipediaタウン in 半田運河」。

 

1.2 「Wikipediaブンガク」

地域を題材とするウィキペディアタウンの派生形として、文学を題材とするイベントとしてWikipediaブンガク実行委員会が横浜市において主催しているのがWikipediaブンガクです。

2018年(平成30年)2月の第1回は山川方夫を題材として開催。以後も神奈川近代文学館が開催する企画展/特別展に合わせて、第2回は寺山修司、第3回は松本清張、第4回は中島敦と開催を続け、今回が第12回のイベントとなりました。私は山川方夫の回と2021年(令和3年)の『新青年』の回に参加しており、今回が3回目の参加です。

 

2. 午前:神奈川近代文学館安部公房展」

Wikipediaブンガクは午前と午後で会場が異なります。午前中の会場は企画展が開催される神奈川近代文学館。2階の中会議室に集合し、企画展の内容について学芸員に説明を受けてから、各自で特別展「安部公房展」を鑑賞しました。

Wikipediaブンガクでは編集する記事が参加者にゆだねられており、鑑賞中に気になった作品や人物について編集することになります。今回の特別展は生誕100年を迎えた安部公房が題材であり、安部公房が関わった人物や地域、著した作品や手がけた企画など、様々なものが編集記事候補となります。

(写真)「安部公房展」を開催中の神奈川近代文学館

(写真)神奈川近代文学館2階の中会議室。

 

3. 午後:神奈川県立図書館 Wikipedia編集会

3.1 準備された文献

特別展の鑑賞後には約3km離れた神奈川県立図書館まで各自で移動し、その間に昼食も済ませます。2022年(令和4年)9月には神奈川県立図書館の新館が開館。2023年(令和5年)には個人的な調査に新館を訪れたことがありますが、新館が会場となるWikipediaブンガクへの参加は初めてです。

4階にある「学び⇔交流エリア」という多目的スペースが会場です。実行委員会が事前に想定した編集記事候補に関する文献が数百冊(?)も並べられており、会場前部に並べられた30冊の『安部公房全集』(新潮社)が圧巻でした。

(写真)準備された文献。書籍類。

(写真)準備された文献。書籍類。

(写真)準備された文献。雑誌記事類。

 

大宅壮一文庫も文献の複写などで協力しているとのこと。東京都世田谷区にある大宅壮一文庫は雑誌専門図書館であり、強力なキーワード検索機能を持つWeb OYA-bunkoは全国のメディアや研究者の役に立っています。

Web OYA-bunkoを使える公共図書館は首都圏に多く、東海4県では岐阜県図書館のみなのであまり利用することがないのですが、調査するテーマによっては最後の頼みの綱にもなるのが大宅壮一文庫だと思います。

(写真)準備された文献。雑誌記事類。

 

3.2 Wikipedia編集

実行委員会メンバーで講師の田子環さんからWikipediaに関する講習を受けた後、参加者全員が編集したい題材を申告して編集作業に入りました。

既存記事「安部公房 - Wikipedia」を数人で編集するグループもあれば、熟練ウィキペディアンと初編集者で「モナミ (東中野) - Wikipedia」を新規作成するグループ、単独で「タデウシュ・カントル - Wikipedia」を新規作成する方、北海道からの遠隔参加で「旭川市立近文第一小学校 - Wikipedia」を新規作成する方など、参加の方法は様々でした。

神奈川県立図書館が共催であり、司書がWikipediaブンガクのために待機してくださっているため、実行委員会が想定していない題材を編集する場合でもその場でレファレンスを行うことができます。また、熟練ウィキペディアンが多数参加しているほか、実行委員会のメンバーも初編集者を手厚くフォローしているため、初編集者が参加しやすいイベントとなっています。

(写真)講師の田子環さんによるWikipediaの講習。

(写真)編集記事候補の説明。

 

3.3 映画記事「箱男」の作成

私はこの2024年(令和6年)夏に公開された『箱男 (映画) - Wikipedia』を新規作成しました。安部公房によって1973年(昭和48年)に発表された小説を原作としており、1997年(平成9年)には製作途中で映画化が断念されたこともある作品です。

この作品の主人公は段ボールを被った男であり、主人公をつけ狙うニセ医者、主人公やニセ医者の間に割って入る看護師などが登場します。安部公房原作の映画は『砂の女』など7作品ありますが、『箱男』が最後の映画化作品になるのではないでしょうか。安部公房らしい寓意に満ちた物語ですが、映画化の際に現代風にアップデートされた部分も多数読み取れます。

私は岐阜市シネックスで『箱男』を鑑賞し、ぜひこの映画のWikipedia記事を作成したいと思ったため、事前に愛知県図書館などで雑誌記事などを収集し、文章の下書きをした状態でWikipediaブンガクに参加しました。神奈川県立図書館では新聞記事データベースなどを利用し、下書きに新聞の出典を追加して投稿しています。

全国紙のデータベースは愛知県図書館等でも利用できますが、神奈川新聞WEBマイクロフィルムは初めて利用しました。年月日を指定することで指定日の紙面を閲覧することができます。将来的には見出しのキーワード検索や記事本文の全文検索の機能も期待します。

(写真)神奈川新聞WEBマイクロフィルム

(写真)神奈川新聞WEBマイクロフィルム

 

日本の近代文学についてはWikipedia内にWikipedia:良質な記事 - Wikipediaも多いのですが、現代文学英米文学を中心とする海外文学については発展途上であるように思えます。

著作家や文学作品については、書籍・雑誌記事・学術論文など様々な形で膨大な量の文献が蓄積されています。Wikipediaと文学はとても親和性が高い。横浜市以外でもWikipediaブンガクに類する企画が広がることを期待しています。

 

イベント終了後には横浜駅前の崎陽軒本店 アリババで行われた懇親会にも参加しました。懇親会の時間帯には横浜スタジアムプロ野球日本シリーズ第6戦が開催されており、横浜DeNAベイスターズ福岡ソフトバンクホークスに勝利して優勝を決めています。

(写真)崎陽軒本店 アリババでの懇親会。

(写真)BAYSTORE横浜ジョイナス