振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

淡路島を訪れる

(写真)南あわじ市の玉ねぎ小屋。

2024年(令和6年)2月、兵庫県の淡路島にある淡路市南あわじ市を訪れました。「淡路市の映画館」「南あわじ市の映画館」に続きます。

 

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1. 淡路市を訪れる

1.1 淡路市立中浜稔猫美術館

淡路市浦の東浦ターミナルパークには淡路市立中浜稔猫美術館があり、津名郡東浦町(現・淡路市)出身の墨絵画家である中浜稔 - Wikipediaが描いたねこの墨絵作品が展示されています。

(写真)1階の展示。

(写真)淡路市立中浜稔猫美術館の建物。

(写真)展示されている作品。

 

2階の「猫浜物語」は中浜稔が創作した物語。朝廷で淳仁天皇に可愛がられていたねこの「こま」が、淳仁天皇が淡路島に流された後に天皇を慕って明石の浜にたどり着き、スナメリの背中に乗せてもらって淡路島にたどり着く話。淳仁天皇は既に没していましたが、同じく朝廷で飼われていた「チヨ」とともにその後も淡路島で暮らしたとのことです。

(写真)「猫浜物語」。スナメリに乗って明石海峡を渡るこま。

 

淡路市岩屋の岩屋商店街に近い観音寺下にはねこがたくさんおりました。

(写真)岩屋商店街のねこ。

(写真)岩屋の観音寺下にいたねこ。

(写真)岩屋の観音寺の石段とねこ。

 

2. 南あわじ市を訪れる

2.1 淡路島産玉ねぎと玉ねぎ小屋

淡路島を象徴する農作物と言えば玉ねぎであり、特に南あわじ市三原平野が一大産地となっています。三原平野では二毛作が行われており、夏季には稲作が行われる農地が、11月以後の冬季には玉ねぎ畑に変わります。

(写真)玉ねぎ畑。南あわじ市榎列西川。

 

夏季に玉ねぎを貯蔵する玉ねぎ小屋(吊り小屋)は淡路島特有の景観であり、南あわじ市だけで約700の玉ねぎ小屋があるそうです。壁がなく吹きさらしの玉ねぎ小屋に吊るすことで、暗所で貯蔵した場合と比べて糖度の減少を抑えることができるとのこと。鉄骨造でトタン葺の玉ねぎ小屋がほとんどですが、伝統的な木造で本瓦葺の小屋もありました。

(写真)玉ねぎ小屋。南あわじ市榎列西川。

 

すでに新玉ねぎが出回っており、一般的な玉ねぎとともに販売されていました。

(写真)淡路島産玉ねぎ。東浦ターミナルパーク。

(左)玉ねぎ小屋のある景観。南あわじ市山添。(右)淡路島産玉ねぎの天ぷら。

 

2.2 淡路瓦

愛知県の三州瓦島根県の石州瓦とともに、淡路瓦は「日本三大瓦」のひとつです。三州瓦は銀色の釉薬瓦が、石州瓦は赤色の釉薬瓦が多いのですが、淡路瓦は灰色のいぶし瓦が多い。無釉でいぶすことで表面に灰色の炭素膜を形成させる工法で、瓦ごとの色むらが釉薬瓦にはない特徴のようです。

淡路瓦の産地も南あわじ市であり、特に淡路島西岸(西浦)の津井や松帆などの地区で製造が盛ん。明治時代から湊地区は大阪-高松航路の寄港地であり、近隣の津井や松帆などで製造された淡路瓦が湊港から大阪方面に運ばれていたようです。

(写真)本瓦葺の民家。南あわじ市松帆。

(写真)淡路瓦。

 

2.3 淡路人形座

福良港がある福良地区や三原平野の三原地区では、伝統芸能として淡路人形浄瑠璃と呼ばれる人形芝居があり、国の重要無形民俗文化財に指定されています。福良地区には常設劇団・常設劇場である淡路人形座が、三原地区には展示施設である南あわじ市淡路人形浄瑠璃資料館があります。

淡路人形浄瑠璃は主遣い、左遣い、足遣いの3人で一体の人形を操る三人遣いの人形劇であり、頭(かしら)と手足の動きを完璧に調和させる人形遣いの技術が素晴らしい。淡路人形座TikTokYouTubeTwitterなどへの投稿も行っており、TikTok160万回再生された動画もあります。

(写真)淡路人形座。三人遣いの人形遣いの実演。

(写真)淡路人形座の建物と館内。

 

3. 淡路島の図書館

3.1 淡路市立津名図書館

組織としての淡路市立図書館は、津名図書館と東浦図書館の2図書館、3公民館図書室の5施設からなります。明確な中央館はありませんが、東浦図書館よりも津名図書館のほうが規模が大きいようです。1988年(昭和63年)に津名町立図書館として開館し、2005年(平成17年)4月に淡路市が発足して現行名称に改称、2021年(令和3年)3月28日に現行館が開館しています。

淡路市域の淡路島東岸(東浦)には、1970年代から1980年代に開発された佐野新島、生穂新島、志筑新島、塩田新島の4つの埋立地があります。佐野新島には総合運動公園とメガソーラー、生穂新島には淡路市役所、志筑新島には津名図書館や多目的ホールに加えてイオン淡路店やスーパーマーケット、塩田新島には淡路ワールドパークONOKOROやメガソーラーがあります。

(写真)淡路市立津名図書館。淡路瓦を用いた壁面。

 

設計者は大阪市の昭和設計。建物の形状は三角形に近い複雑な多角形であり、入口は狭くて内部の構造を見通せませんが、開架室に入ると柱が少ない大空間が広がっています。入口の正面には様々な用途に使えるエントランスがあり、エントランスと開架室の間にあるサポーターズルームにはカフェが出店していました。

(写真)淡路市立津名図書館。フロアマップ。

 

旧館時代に810m2だった延床面積が約2.5倍の1980m2に増えたとはいえ、数字だけ見れば小規模な図書館です。しかし、背の低い書架が中央部に集められていることもあって、実際の床面積以上に館内が広く見えました。

「あわじ出会いのみち」と名付けられた中央通路沿いの書架の通路側には、淡路島に関する様々なものが展示されたガラスケースが設けられています。書架・椅子・机などの什器は軽やかさを感じる木製です。

(写真)淡路市立津名図書館。館内。

(写真)淡路市立津名図書館。「生穂名所絵葉書」の展示。

 

3.2 淡路市立東浦図書館

東浦図書館は1997年(平成9年)に東浦町立図書館として開館した施設であり、淡路市立サンシャインホールに併設されています。この日は蔵書点検期間で休館中でした。

(写真)淡路市立東浦図書館。

 

3.3 南あわじ市立図書館

1996年(平成8年)6月に南淡町立図書館として開館したのが南あわじ市立図書館です。2005年(平成17年)1月に南あわじ市が発足した際、南淡町立図書館が南あわじ市南淡図書館、三原町立図書館が南あわじ市三原図書館となりますが、2016年(平成28年)には三原図書館が三原公民館図書室に格下げされ、南淡図書館が南あわじ市立図書館に改称しています。

延床面積2655m2の南あわじ市立図書館は、3191m2の洲本市立洲本図書館に次いで淡路島で2番目に大きな図書館です。淡路市立津名図書館と比べると利用者は少なくて落ち着いた雰囲気。入口近くには1990年代の公共図書館にしばしばみられるステンドグラスがあります。

(写真)南あわじ市立図書館。淡路人形浄瑠璃や鳴門の渦潮が描かれたステンドグラス。

 

郷土資料の大部分は鍵付きの木製書架に収まっており、「郷土資料を閲覧される方は、『郷土資料申請書』(カウンター前にあります)に資料名等を記入し、カウンターまでお願いします」という注意書きがありました。鍵付き書架である必要性が感じられず、この郷土資料の扱いは残念に思います。

南あわじ市を象徴する文化である淡路人形浄瑠璃は別置されているほか、全国の人形浄瑠璃に関する文献も収集しているようです。ネコ・パブリッシングの淡路交通に関する特集号やムック本などを所蔵されていることからも、郷土資料の収集には力を入れているように感じられました。

(写真)南あわじ市立図書館。郷土資料コーナーにある淡路人形浄瑠璃の別置資料。

 

2024年(令和6年)2月29日には図書館コンサルタントで地域情報化アドバイザーの岡本真さんを招いたワークショップを開催するようです。

(写真)南あわじ市立図書館。図書館デザイン会議の案内。