振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

笠間市の映画館

(写真)笠間昭和館の廃墟。

2023年(令和5年)7月、茨城県笠間市を訪れました。

現在の笠間市には映画館「ポレポレ笠間シネマズ」(笠間ポレポレホール)があります。かつて笠間市には「笠間昭和館」「笠間演芸館/笠間宝塚」「友部松竹映画劇場」「岩間映画劇場」がありました。

 

1. 笠間市を訪れる

1.1 笠間市立図書館

2006年(平成18年)には旧・笠間市友部町岩間町の1市2町が合併して新・笠間市が発足。旧自治体の図書館を継承した計3館の図書館があり、合計で約60万冊の蔵書を有しています。貸出カードの作成には居住地制限がなく、また貸出冊数の制限もないことが特徴のひとつ。

2008年度の貸出冊数は127万冊であり、市民1人あたり16冊という貸出密度は全国の791市の中で第1位でした。新館効果で貸出密度を伸ばす自治体が多いのですが、笠間市立図書館はその後も高い貸出密度を維持しています。約110市区が入る「人口8万人未満の自治体」という区分では、最新のランキングまで10年連続で全国第1位となっています。

(写真)笠間市立図書館。

(写真)笠間市立図書館。

 

特色ある蔵書としては笠間焼が挙げられ、郷土資料コーナーの中に充実したコーナーがあります。また、全国の陶芸産地に関する蔵書も目立ちます。

(写真)郷土資料コーナーにある笠間焼に関連する蔵書。

(写真)郷土資料コーナーにある全国の陶芸産地に関連する蔵書。

1.2 笠間昭和館の廃墟

笠間市笠間昭和館 - Wikipediaは建物の廃墟が残っていることで知られています。1937年(昭和12年)に現在の建物が建てられ、1983年(昭和58年)頃まで営業していました。Wikipediaによると2011年(平成23年)の東日本大震災で倒壊したとのことで、2016年(平成28年)時点で少しずつ解体作業が行われているとのことでした。2023年(令和5年)7月にはもう建物の形がなく、トイレと思われる部分のタイルなどの実が残っている状況でした。

(写真)笠間昭和館の廃墟。

(写真)1979年-1983年の笠間昭和館周辺。地理院地図

(写真)2019年の笠間昭和館の廃墟周辺。地理院地図

 

笠間昭和館の東側の敷地にも廃墟があります。

(写真)笠間昭和館の東側の敷地の廃墟。

(写真)笠間昭和館の東側の敷地の廃墟。

 

2. 笠間市の映画館

1964年の映画館名簿

現・笠間市域の映画館が最も多かった1964年(昭和39年)の映画館名簿を見ると、笠間市昭和館と笠間宝塚劇場の2館、西茨城郡友部町に友部松竹映画劇場、西茨城郡岩間町に岩間映画劇場が掲載されています。

 

1983年の映画館名簿

笠間昭和館が最後に掲載されているのは1983年(昭和58年)版の映画館名簿。この後1999年(平成11年)版までは笠間市がなく、2000年(平成12年)版になって笠間ポレポレホール(ポレポレ笠間シネマズ)が登場します。

 

2.1 岩間映画劇場(1950年代初頭-1964年頃)

所在地 : 茨城県西茨城郡岩間町下郷4439(1964年)
開館年 : 1950年以後1953年以前
閉館年 : 1964年頃
『全国映画館総覧 1955』には開館年が掲載されていない。1950年の映画館名簿には掲載されていない。1953年・1955年の映画館名簿では「岩間映劇」。1958年の映画館名簿には掲載されていない。1960年の映画館名簿では「岩間映劇」。1963年・1964年の映画館名簿では「岩間映画劇場」。1965年の映画館名簿には掲載されていない。

 

2.2 友部松竹映画劇場(1940年代-1965年頃)

所在地 : 茨城県西茨城郡友部町栄町1470(1965年)
開館年 : 1943年以後1947年以前
閉館年 : 1965年頃
1943年の映画館名簿には掲載されていない。1947年の映画館名簿では「友部松竹映劇」。1950年・1953年・1955年の映画館名簿には掲載されていない。1958年・1960年・1963年・1964年・1965年の映画館名簿では「友部松竹映画劇場」。1966年の映画館名簿には掲載されていない。

 

2.3 笠間演芸館/笠間宝塚(1925年以前-1966年頃)

所在地 : 茨城県笠間市喜楽町(1966年)
開館年 : 1925年以前、1947年
閉館年 : 1966年頃
『全国映画館総覧 1955』によると1947年開館。1925年の映画館名簿では「松竹演芸館」。1927年・1930年の映画館名簿では「笠間演芸館」。1934年・1936年の映画館名簿では「演芸館」。1941年・1943年・1947年の映画館名簿には掲載されていない。1950年の映画館名簿では「笠間演芸館」。1953年・1955年の映画館名簿では「演芸館」。1958年の映画館名簿では「銀映館」。1960年の映画館名簿では「笠間銀映劇場」。1963年の映画館名簿では「笠間宝塚映画劇場」。1966年の映画館名簿では「笠間宝塚」。1967年の映画館名簿には掲載されていない。

1966年(昭和41年)の「笠間市詳図」には、笠間稲荷の西側に笠間昭和館と思われる「映画館」が描かれています。笠間稲荷の南東にも「映画館」が描かれており、これが笠間宝塚(笠間演芸館)だと思われます。

(地図)1966の笠間市街地の地図。『茨城県市街地図集』人文社編集部、1966年。

2.4 笠間昭和館(1937年-1983年)

所在地 : 茨城県笠間市笠間町46(1983年)
開館年 : 1937年
閉館年 : 1983年
『全国映画館総覧 1955』によると1935年開館。1934年の映画館名簿では「昭和館」。1936年の映画館名簿では「笠間昭和館」。1941年の映画館名簿では「昭和館」。1943年・1947年の映画館名簿には掲載されていない。1950年の映画館名簿では「昭和館」。1953年の映画館名簿では「笠間昭和館」。1955年・1958年・1960年・1963年の映画館名簿では「昭和館」。1966年・1967年・1968年・1969年・1973年・1975年・1978年・1980年・1982年・1983年の映画館名簿では「笠間昭和館」。1984年の映画館名簿には掲載されていない。廃墟として建物の痕跡が残る。最寄駅はJR水戸線笠間駅

1950年代の映画館名簿における笠間昭和館の定員は600から800であり、芝居小屋に由来する大きなホールを有する映画館だったと思われます。映画館名簿における構造欄が木造3階建てという表記なのも珍しい。3階部分に映写室がある映画館は一定数ありますが、そのような場合も構造欄では2階建てと表記される場合が多い。笠間昭和館はどのような構造だったのでしょう。

(写真)時期不明の笠間昭和館。『笠間市史 下巻』笠間市、1998年。

 

映画館名簿の1965年(昭和40年)版には木造3階建てで定員536と掲載されていますが、1966年(昭和41年)版には木造2階建てで定員177と掲載されています。この頃に建てかえたという記録は発見できていないのですが、大規模な改修を行って座席数を減らしたのでしょうか。最晩年の座席数も180席です。

(写真)笠間昭和館の廃墟。

 

2.5 ポレポレ笠間シネマズ(1998年4月-営業中)

所在地 : 茨城県笠間市赤坂8 笠間SC内ポレポレホール(2020年)
開館年 : 1998年4月
閉館年 : 営業中
1999年の映画館名簿には掲載されていない。2000年・2002年・2005年・2008年・2010年・2015年・2020年の映画館名簿では「笠間ポレポレホールA・B」(2館)。笠間ショッピングセンター ポレポレシティ(イオン笠間店)。最寄駅はJR水戸線笠間駅

1983年(昭和58年)頃の笠間昭和館の閉館の約15年後、1998年(平成10年)には大型商業施設内に2スクリーンのポレポレ笠間シネマズが開館します。経営会社は第三セクターの笠間商業開発株式会社です。1980年代から1990年代にかけて、笠間市民が映画を観るためには水戸市街地まで出向く必要があったわけで、ポレポレ笠間シネマズが開館した意義は大きかったと思われます。

2005年(平成17年)には笠間市に近い場所に8スクリーンのTOHOシネマズ水戸内原が開館し、これを機にターゲット層を親子連れと年配者に絞ったようです。2023年(令和5年)8月後半現在の上映作品は、若者向け映画『TOKYO MER~走る緊急救命室~』、アニメ映画の『名探偵コナン 黒鉄の魚影』と『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、ミニシアターと一部シネコンで公開されている『怪物』の4作品。シネコンで上映される話題作を中心にした手堅い選定です。

(写真)ポレポレ笠間シネマズが入るポレポレシティ。photo : あばさー - Wikimedia Commons

 

笠間市の映画館について調べたことは「茨城県の映画館 - 消えた映画館の記憶」に掲載しており、その所在地については「消えた映画館の記憶地図(茨城県版)」にマッピングしています。

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