振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「ウィキペディアタウンinおたり村」に参加する

(写真)旧千国宿の街並み。

2022年(令和4年)9月17日、長野県北安曇郡小谷村で開催された「ウィキペディアタウンinおたり村」に参加しました。

 

1. イベント概要

運営

ウィキペディアタウンとはまちあるきとWikipedia編集を組み合わせたワークショップ型イベントであり、"地域への愛着"を高めることなどを目的としています。北アルプス地域では今回が4例目であり、これまでに松川村白馬村、池田町で開催されています。イベントの主催は長野県の機関である北アルプス地域振興局。小谷村、小谷村教育委員会、県立長野図書館が共催です。

www.pref.nagano.lg.jp

 

スケジュール

10:00-10:40 各種説明(北アルプス地域振興局・小谷村公民館・Wikipedia・県立長野図書館)

10:40-12:40 まちあるき

12:40-13:30 昼食

13:30-15:30 文献調査・Wikipedia編集

15:30-16:30 成果発表、追加編集、講評

(写真)会場のおたりつぐら。手前はまちあるきに用いたマイクロバス。

 

大まかな流れとしては、午前中にマイクロバスを用いたまちあるき、午後に文献調査やWikipedia編集などを行っています。まずは小谷村複合拠点施設 おたりつぐらで北アルプス地域振興局からイベントの趣旨やスケジュールに関する説明を聞いた後、小谷村公民館の丸山さんによる小谷村の紹介、かんたによるWikipediaの説明、県立長野図書館の干川さん・小谷村図書館の松澤さんによる図書館の紹介を聞きました。

(写真)文献準備を担当した小谷村図書館と県立長野図書館。

(左・右)講師席。

 

私(講師:かんた)はWikipediaの説明や編集サポートなどを行う立場で参加しており、午前中にはまちあるきの際に気に掛けるポイントなどを話しました。Slide Shareには今回のイベントで用いたPower Pointスライドをアップロードしていますが、1枚目から5枚目が午前中に用いたスライドです。

www.slideshare.net

 

2. まちあるき

2.1 小谷村郷土館

まちあるきでは参加者全員が1台のマイクロバスに乗って移動します。今回はWikipediaの編集対象として「千国宿」「栂池高原」「稗田山崩れ」の3記事が設定されており、小谷村郷土館、旧千国宿・牛方宿、栂池高原(前山百体観音)、稗田山崩れの碑の順にスポットを巡りました。

(写真)まちあるきスポット。地理院地図

 

まちあるき時のガイドは塩の道研究家の田中省三さん。まずは小谷村郷土館で小谷村の歴史について概観します。小谷村郷土館は明治時代に建築された入母屋民家であり、その後は1971年(昭和46年)まで小谷村役場として使用されていました。茅葺屋根は2018年(平成30年)に全面葺き替えされたばかりで新しい。

(写真)小谷村郷土館。

 

室内に入ってすぐの場所には恐竜足跡化石があります。1994年(平成6年)に小谷村で発見された化石だそうで、2003年(平成15年)には長野県天然記念物に指定されています。恐竜そのものの化石は発見されていないようですが、道の駅おたりの敷地内には恐竜のモニュメントも設置されていました。

(左)小谷村郷土館の民具。(右)恐竜足跡化石の説明。

 

2.2 千国宿と千国街道

旧千国宿(千国本村)

姫川河岸から標高で約80m上った場所に、かつての千国街道の宿場である旧千国宿(千国本村)があります。姫川は急流かつ岩盤がもろいため、河岸には街道を整備できなかったとのこと。近世の小谷村域ではもっとも規模の大きな町だったようで、「L」字型の集落に立派な入母屋屋根の民家が点在しています。

(写真)旧千国宿。

 

小谷村ではいろいろな集落に火の見櫓が現存しており、旧千国宿にも赤い塗装があせた火の見櫓があります。その脇には千国番所跡の石碑が建っており、近くには千国の庄史料館があります。

(左)旧千国宿にある石碑。(右)旧千国宿を通る千国街道

 

牛方宿

旧千国宿から千国街道を標高で約150m上った場所には、牛の背に塩を乗せて運んだ牛方(牛飼い)の宿があります。千国にある牛方宿は現存する唯一のものであり、「牛方宿(県宝旧千國家住宅)」という名称で長野県指定文化財となっています。外観や座敷は豪農の母屋のようですが、牛が入る空間を視界に入れながら寝られる中二階があったり、敷地内に塩蔵があったりします。

(写真)牛方宿。

(左)牛方宿の内部。(右)牛方宿と塩蔵の説明。

 

2.3 栂池高原

小谷村には3つのスキー場があり、観光業が基幹産業となっています。最も規模の大きなものが栂池高原スキー場であり、標高800m台の高原にホテル街が形成されています。

小谷村について予習するために、イベントに先立って小谷村のスキー - Wikipediaという記事を作成しました。小谷村域には大正時代にスキーが持ち込まれ、小中学校から住民に広まっていったようです。昭和30年代にはスキー場の整備が進み、栂池高原スキー場では学生年代の全国大会も開催されています。

(写真)栂池高原

 

前山百体観音

(写真)前山百体観音。

(左・右)前山百体観音。

 

2.4 稗田山崩れ

稗田山崩れとは1911年(明治44年)に発生した土砂災害であり、江戸時代の大谷崩れや鳶山崩れとともに「日本三大崩れ」(崩れ=山体崩壊による災害)とされています。姫川支流の浦川を土砂が埋め尽くし、来馬集落が壊滅して26人の死者を出しています。

(写真)稗田山崩れの説明。

浦川は川幅の割に土砂が多い。もともと脆い地盤の山だそうで、現在でも多量の土砂が流出するため、常にどこかで砂防ダムの建設工事が行われている状況だそうです。日本初のスーパー暗渠砂防堰堤である浦川スーパー暗渠砂防堰堤など、形式の異なる様々な砂防ダムがあるとのことで、小谷村砂防ダムツアーなるものまで開催されているそうです。

(左)砂防ダム工事が行われている浦川。(右)稗田山崩れの説明。

(写真)浦川スーパー暗渠砂防堰堤

 

昼食は小谷村郷土館の隣にある蕎麦屋のおたり名産館。

(写真)小谷村郷土館脇のおたり名産館。かぼすそば。

 

3. ワークショップ

3.1 文献

観光パンフレットのような薄い文献から自治体史などの厚い文献まで、県立長野図書館と小谷村図書館によって多数の文献が準備されました。その題材に関する基本的な文献は自力でも探し出せますが、広い視野から探し出した多様な種類の文献があるのは図書館司書が協力しているイベントならではです。

どれだけ多くの文献を集めてくださっても、たった数時間のイベントで反映できる情報は少ない。イベント後の加筆はWikipediaの編集サポート役として参加している者の役目だと思っています。イベント中にできるだけ多くのページをコピーしており、記事の加筆に役立てていきます。また、Wikipediaの編集サポート役としては、文献一覧が配布されたことで後日のフォローがしやすくなって助かります。

(写真)準備された文献。(左)稗田山崩れなど。(右)千国宿など。

 

2020年(令和2年)には北アルプス地域5市町村(大町市・池田町・松川村白馬村・小谷村)で新聞記事データベースの共同利用を開始しました。県紙である信濃毎日新聞、全国紙である朝日新聞のデータベースを5市町村で共同契約し、図書館内のパソコンで閲覧することができるようです。

地域情報が満載の信濃毎日新聞を利用できる意義は大きい。今回のイベントでも関連する記事がコピーされて文献置き場に並べられていました。新聞記事には書籍と異なる情報が掲載されていることが多く、地域記事を編集するウィキペディアタウンとは相性が良い。

(写真)準備された文献。(左)雑誌『信濃』など。(右)『信濃毎日新聞』データベースのコピー。

 

3.2 編集

今回のイベントではイベント開始前に参加者のグループ分けがなされており、3グループに分かれて「千国宿」(新規作成)、「栂池高原」(加筆)、「稗田山崩れ」(加筆)の3記事を編集しました。いずれもウェブ上に充実した情報がある題材ではなく、この地域の図書館や県立長野図書館を訪れないと編集が難しい。まちあるきで写真を撮ったり、郷土資料を閲覧したりするウィキペディアタウンで扱う意義のある題材です。

編集記事

千国宿 - Wikipedia」(新規作成)

栂池高原 - Wikipedia」(加筆)

稗田山崩れ - Wikipedia」(加筆)

(写真)各グループの作業スペース。

(写真)文献を閲覧する参加者。

 

ワークショップの流れを記したプリントを配布し、各グループの進行についてはファシリテーター役の方に主導してもらいました。本当はどこかのグループに入ってがつがつ編集するのが好きなのですが、私はグループを巡回して編集サポートを行いました。

また、イベント終了後数日の間には、マークアップなどWiki記法の修正、文章表現の修正、画像の追加などを行っています。まちあるき中には参加者の誰よりも多くの写真を撮っており、Category:Otari, Nagano - Wikimedia Commonsに約100枚の写真をアップロードしています。

(写真)議論中の参加者。

(写真)編集会場。

 

4. 小谷村図書館

イベント後には個人的に小谷村図書館「どんぐり」を見学させてもらいました。図書館の床面積は約300冊、蔵書数は約3万冊、貸出数は約1万4000冊と、人口2500人の村立図書館としては立派な施設です。

(写真)雑誌。

(写真)フロア入口。新着図書など。

(写真)フロア中央の通路。

(左)絵本コーナー。(右)新着図書。