(写真)国立国会図書館関西館。
2020年(令和2年)2月1日、京都府相楽郡精華町の国立国会図書館関西館で開催された「関西館でWikigap」に参加しました。
1. イベント概要
1.1 ウィキギャップとは
2019年(令和元年)9月から一年間をかけて、世界各地で「ウィキギャップ」(WikiGap)イベントが開催されています。日本ではこれまでに東京、大阪、福岡、名古屋で開催されており、関西館が5か所目となります。私は2019年10月14日の「WikiGapエディタソン 2019 in 大阪」と、12月15日の「WikiGap名古屋」にも参加しており、名古屋ではウィキペディアの説明役や編集サポート役を務めました。
なお、2020年2月29日には京都府京丹後市で、3月1日には神奈川県横浜市でもウィキギャップイベントが開催される予定であり、その後も9月までの間に全国各地で開催されると思われます。
1.2 参加者
私は今回のイベントに、運営側や講師ではなく一般参加者として参加しました。主催者は京都府山城地域でウィキペディアタウンを多数開催しているCode for 山城であり、スウェーデン大使館が後援しています。会場は国立国会図書館関西館であり、会場提供(研究室)・資料提供・館内ツアーなどで関西館が関わっています。通常業務としてではなく個人的にイベントに参加した職員も何人かいました。
1.3 スケジュール
今回のスケジュールは以下の通り。Code for 山城の青木和人さんがCode for 山城やウィキペディアタウンについて説明した後、ウィキペディアンのMiya.mさんからWikipediaについての説明があり、その後は参加者がそれぞれに執筆対象記事を選んで編集を行いました。ウィキペディアタウンでは参加者数人がグループになってひとつの記事を編集することが多いですが、今回は参加者ひとりひとりがひとつの記事を編集する個人作業であり、Wikipedia編集に慣れていない方にはMiya.mさんらが編集サポートを行っています。
編集時間は10時30分から16時30分までの6時間。各自が思い思いの時間に昼食を取りました。編集時間内に希望者のみの館内ツアーが組み込まれていたことも特徴です。10時30分からは関西館職員による館内ガイドツアーがあり、12時からは関西館職員によるバックヤードツアーがありました。
10:00-10:10 開会あいさつ
10:10-10:20 Code for 山城の説明(Code for 山城 青木和人さん)
10:20-10:30 Wikipediaの説明(ウィキペディアン Miya.mさん)
10:30-16:30 編集時間
10:30-11:00 館内ガイドツアー ※希望者のみ
12:00-12:30 バックヤードツアー ※希望者のみ
16:30-17:00 成果発表・記念撮影
1.4 編集方法
メイン会場として共同研究室2が用意され、各種説明や成果発表などはここで行いました。サブ会場としてデータベース用端末が多数ある共同研究室3なども用意されたことで、Miya.mさんなどにWikipediaの編集サポートを受けたい方は共同研究室2を、国立国会図書館デジタルコレクションや新聞データベースを使いたい方は共同研究室3を使っています。
私は共同研究室3に拠点を置き、デジタルコレクションや各種新聞データベースを閲覧しながら自身のパソコンで編集を行いました。関西館では全国紙5紙の新聞データベースが閲覧できますが、愛知県内には産経新聞データベースを閲覧できる公共図書館がないこともあって、今回の編集対象以外の事物の検索にも利用させてもらいました。
(写真)メイン会場となった共同研究室2。
(左)Miya.mさんによるWikipediaの説明。(右)題材探しのために準備された文献。
2. 館内ツアー
私は10時30分からの館内ガイドツアー(開架部分)と12時からのバックヤードツアー(書庫部分)の双方に参加しました。館内は基本的に写真撮影不可ですが、書庫のみは撮影可能とのことです。なお、関西館の館内にはカメラの持ち込みが禁じられているため、以下の写真はいずれも職員の同伴の下、スマホで撮影しています。
開架書架の蔵書数は約10万冊しかないそうですが、書庫を含めた収蔵能力は600万冊であり、現在進行中の新書庫が完成すれば1,100万冊になるそうです。書庫は資料保存に適した温度22℃・湿度55%に保たれており、冬季ということもあってかなり温かく感じました。閲覧室の広さはサッカー場よりもやや小さい100m×45mとのことですが、書庫の広さはサッカー場よりもやや大きくて130m×70m、書架の長さはのべ135kmにもなるそうです。
国立国会図書館は長尾真館長時代(2007年-2012年)にデジタル化を強力に推し進めました。関西館や東京本館に直接来館する一番の利点は、国立国会図書館デジタルコレクションの「国立国会図書館内公開」資料を閲覧できることだと思われますが、地方紙のマイクロフィルムを多数所蔵していることも気になりました。例えば中日新聞三河版は1965年から2005年のフィルムを所蔵しており、東愛知新聞は1958年から1991年のフィルムを所蔵しています。
(写真)書庫にある雑誌書架。『婦人之友』。
(写真)博士論文の書架。左は湯川秀樹が1938年に博士号を取得した際の博士論文。
(写真)自動化書庫。
3. 編集記事
3.1 参加者の編集記事
参加者全員が人物記事の新規作成に取り組み、以下の24記事が作成されました。その職業における草分け的存在の女性が多く、その国で初めて何かを行った人物の記事が多い印象です。今回作成された記事のいくつかは、関西館の職員が個人的にイベントに参加して作成したものであり、イベント前から何日もかけて原稿を書いていた職員もいたようです。
ノエラ・ポントワ - フランスのバレエダンサー。
カーラ・ヘイデン - アメリカの図書館司書。米国議会図書館長。
ルース・ハークネス - アメリカの探検家。アメリカに初めてパンダを持ち帰った人物。
スタマタ・レヴィチ - ギリシャ人女性。1896年に初めてマラソンコースを走った女性。
エレン・スワロウ・リチャーズ - アメリカの化学者。
バーバラ・ルーシュ - 日本文学研究家。
三井殊法 - 江戸時代の商人。三井家の遠祖。
大沢豊子 - 速記者・ジャーナリスト。
阿武喜美子 - 化学者。
小倉末 - ピアニスト。
秋山十三子 - 随筆家。
岩波律子 - 映画館支配人。
牧瀬菊枝 - 女性史研究者・生活記録運動家。
山本佳世子 (情報学者) - 社会情報学者。
三井礼子 - 女性史研究者。
3.2 私の編集記事「岩波律子」
上記の編集記事のうち、私は「岩波律子 - Wikipedia」を作成しました。岩波律子さんは東京・神田神保町の映画館「岩波ホール」の支配人を務めている方です。岩波ホールと言えば「高野悦子 (映画運動家) - Wikipedia」さんが有名ですが、"総支配人" だった高野さんの下で1990年から "支配人" を務めているのが岩波さんであり、2013年に高野さんが死去してからは、岩波さんが高野さんの仕事を引き継いでいます。
"自身の興味のある分野の女性" かつ "関西館の所蔵資料やサービスが活かせる人物" の2点を併せ持つ方として岩波さんを選択しました。岩波さんは現役の映画館支配人であり、ぐぐっただけではその経歴が断片的にしかわかりません。各種受賞・受章歴のあり、なおかつ故人であるため経歴を回想されることの多い高野さんと比べると、経歴に言及している文献も多くありません。しかし国立国会図書館サーチで岩波さんを検索したところ、記事の核となりうる文献を見つけることができたため、Wikipediaに記事を作成するに値する人物だと判断して記事作成に着手しました。
記事の骨格は国立国会図書館デジタルコレクションで「国立国会図書館/図書館送信参加館内公開」となっている「映画を育てる最前線の人びと 11 岩波律子」(『シネ・フロント』1996年2月号)です。このほかに所蔵資料の書庫資料請求をおこない、「Interview 岩波律子 支配人」(『キネマ旬報』2018年2月号と「岩波ホール開設50周年 スクリーンの力を信じて」(『女性のひろば』2018年8月号)を閲覧しています。共同研究室のパソコンから書庫資料請求を行うと、10-15分後には書庫から閲覧室カウンターに届き、届いた旨がパソコンに通知されます。請求の際の時間ロスが少なく、快適に編集作業を行うことができました。
イベント中には閲覧できなかった文献として「インタビュー 岩波律子 高野悦子と私と岩波ホールの50年」(『映画と映画館の本 ジャックと豆の木』第4号)があります。関西館には所蔵されていない文献であり、愛知県内の公共図書館にも所蔵されていない文献ですが、自宅に戻ってから自前の文献を使って加筆を行いました。
記事「岩波律子」の参考文献
「映画を育てる最前線の人びと 11 岩波律子」『シネ・フロント』シネ・フロント社、1996年2月号 (デジコレ参加館公開)
「Interview 岩波律子 支配人」『キネマ旬報』2018年2月号 (関西館が所蔵する雑誌)
「インタビュー 岩波律子 高野悦子と私と岩波ホールの50年」『映画と映画館の本 ジャックと豆の木』2017年、第4号 (関西館は未所蔵だが個人的に所蔵)
岩波律子「岩波ホール開設50周年 スクリーンの力を信じて」『女性のひろば』2018年8月号 (関西館が所蔵する雑誌)
(写真)Wikipedia記事「岩波律子」。
(写真)「インタビュー 岩波律子 高野悦子と私と岩波ホールの50年」(『映画と映画館の本 ジャックと豆の木』第4号)。
4. まとめ
私の図書館資料に対する興味は郷土資料に偏っており、正直に言えば、国立国会図書館の所蔵資料やサービスにはそれほど魅力を感じていませんでした。しかし、今回のイベントで作成された人物記事には国立国会図書館の所蔵資料やサービスが大いに役立ちました。ほぼすべての参加者がデジタルコレクションを活用していたようであり、デジタルコレクションの有用性を再確認するとともに、あらゆる資料へのアクセスポイントとなる国立国会図書館サーチの意義を再確認するイベントとなりました。