(写真)八劔神社。
2020年(令和2年)3月、愛知県蒲郡市の三谷町を訪れ、映画館「三谷日活」「恵比寿映画劇場」の跡地などをめぐりました。「蒲郡市の映画館(1)」(形原町・西浦町)からの続き。
1. 蒲郡市三谷町を訪れる
愛知県蒲郡市は東三河地方に含まれる人口約8万人の自治体。三河湾に面しており、ラグーナテンボスや竹島水族館などの娯楽施設、西浦温泉や形原温泉などの温泉地で知られる観光地です。
1954年(昭和29年)に宝飯郡蒲郡町・三谷町・塩津村が合併して、愛知県下15番目の市として蒲郡市が発足しました。蒲郡市は1955年(昭和30年)に大塚村を編入、1962年(昭和37年)に形原町を編入、1963年(昭和38年)に西浦町を編入して現在の市域となっています。昭和の大合併以前の4町2村のうち、蒲郡町に4館、三谷町に2館、形原町に2館、西浦町に1館、計9館の映画館がありました。
(地図)愛知県における蒲郡市の位置。©OpenStreetMap contributors
(地図)蒲郡市における映画館の位置。©OpenStreetMap contributors
2. 三谷町を歩く
蒲郡市三谷町の中心市街地はJR東海道本線三河三谷駅の南西に広がっています。三河三谷駅は宝飯郡三谷町時代に設置された駅であり、1927年(昭和2年)の開業当初は豊橋駅=岡崎駅間に4駅しかない中間駅のひとつだったようです。
中心市街地一帯は壱舗から十舗までの数字を用いた地名があり、三谷日活跡地にいちばん近い交差点は「八舗」、恵比寿映画劇場跡地にいちばん近い交差点は「四舗」です。この一帯には車が入れない路地が多数あり、八劔神社の境内付近では2匹の地域猫を見かけました。
(写真)九舗付近。左は金物店 アラシマ、右は洋服店 ことぶき、正面奥はながさわ薬局。
(左)飲食店が集積している九舗・十舗付近。左は海鮮料理店 舟吉、右はカフェ つじや珈琲店(2020年3月29日閉店予定)。(右)九舗・十舗付近。神明神社の真南。
(左)八舗付近。右は三谷サイクルセンター、仕出し屋 やま弥。(右)三谷交差点付近。三河三谷駅の駅前通り。
3. 三谷町の映画館
かつて蒲郡市三谷町には「三谷日活」と「恵比寿映画劇場」という2館の映画館がありました。三谷日活は1970年頃、恵比寿映画劇場は1975年頃に閉館したようです。蒲郡市立図書館が所蔵している『蒲郡新聞』の映画上映案内を見ると、晩年は両者とも成人映画の比率が高く、恵比寿映画劇場はその傾向が顕著だったようです。
(地図)エビス座と三谷劇場が描かれている鳥観図「東海第一の遊覧地 三谷案内図絵」『今昔の三谷』竹内金六、1929年。
(写真)現在の三谷町中心部の航空写真。国土地理院 地理院地図
(写真)1960年代の三谷町中心部の航空写真。国土地理院 地理院地図
3.1 恵比寿映画劇場(1923年以前-1971年)
所在地 : 愛知県蒲郡市三谷町平口1(1973年)
開館年 : 1923年以前
閉館年 : 1971年
1950年の映画館名簿では「恵比寿座」。1955年・1960年・1963年の映画館名簿では「恵比寿映劇」。1962年の西宝地区住宅明細地図では「エビス座」。1965年のゼンリン住宅地図では「エビス座」。1966年・1969年の映画館名簿では「三谷恵比寿映画劇場」。1969年のアイゼン住宅地図では「エビス座」。1973年・1975年の映画館名簿では「恵比寿映画劇場」。1976年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は「八劔神社」社殿東側にある「音羽屋駐車場」。最寄駅はJR東海道本線三河三谷駅。
映画館「恵比寿映画劇場」は八劔神社の社殿のすぐ東側、現在の「音羽屋駐車場」の場所にありました。大正時代中頃、旅館を経営していた音羽家によって芝居小屋「恵比寿座」が開館。1923年(大正12年)には恵比寿座で活動写真が上映された記録がありますが、竣工年ははっきりとしません。
(写真)時期不明の恵比寿座。『三谷町誌』三谷町誌事業実行委員会、2007年。
(左)1929年の旅館としての恵比寿座の広告。『今昔の三谷』1929年。(右)1930年頃の恵比寿座の広告。『三谷町誌』三谷町誌事業実行委員会、2007年。
戦後には映写機を常設して「恵比寿映画劇場」に改称。恵比寿映画劇場は東映・松竹・東宝・新東宝、三谷日活は日活と洋画を上映してすみわけを行っていたようです。蒲郡市博物館の企画展「蒲郡にも映画館があった」によると1971年(昭和46年)に閉館したとのことですが、映画館名簿には1975年(昭和50年)まで掲載されています。
(写真)時期不明の恵比寿映画劇場。『三谷町誌』三谷町誌事業実行委員会、2007年。
駐車場の南東には喫茶店「珈琲館美楽」が、駐車場の北には名称不明のタバコ屋跡地があります。この駐車場周辺は路地が入り組んでおり、Google ストリートビューも対応していません。
(左)恵比寿映画劇場跡地にある「音羽屋駐車場」。左端は八劔神社の社叢。(右)恵比寿映画劇場跡地周辺。正面は喫茶店「珈琲館美楽」。右奥が音羽屋駐車場。
3.2 三谷日活(1928年以前-1972年)
所在地 : 愛知県蒲郡市三谷町8-92(1969年)
開館年 : 1928年以前、1960年8月10日(新装)
閉館年 : 1972年
1930年の映画館名簿では「三谷座」。1936年の映画館名簿では「三谷劇場」。1943年の映画館名簿には掲載されていない。1947年の映画館名簿では「三谷劇場」。1949年の映画館名簿では「三谷映画劇場」。1950年の映画館名簿では「三谷劇場」。1953年・1955年の映画館名簿では「三谷映画劇場」。1960年・1963年の映画館名簿では「三谷日活映劇」。1962年の西宝地区住宅明細地図では「三谷日活」。1966年・1969年の映画館名簿では「三谷日活映画劇場」。1965年のゼンリン住宅地図では「三谷日活館」。1969年のアイゼン住宅地図では「三谷日活」。1971年の住宅地図には掲載されていない。1973年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は1998年竣工のアパート「クレール八舗A・B」。国道23号「八舗」交差点西40m。最寄駅はJR東海道本線三河三谷駅。
国道23号「八舗」交差点の西40m、国道の南側に面した場所に映画館「三谷日活」がありました。戦前に三谷劇場として開館し、戦後に三谷映画劇場に改称。1960年(昭和35年)8月10日には三谷日活として新装開館し、1972年(昭和47年)に閉館しています。
(左)時期不明の三谷日活。『三谷町誌』三谷町誌事業実行委員会、2007年。
(写真)1960年の三谷日活。右端は名鉄バスの劇場前バス停。蒲郡市博物館の常設展示。2021年12月。
(右)1950年頃の三谷日活の広告。『三谷町誌』三谷町誌事業実行委員会、2007年。
跡地にはアパート「クレール八舗」A棟とB棟が建っています。静かな恵比寿映画劇場跡地とは異なり、とても交通量の多い国道23号に面しています。
(写真)三谷日活跡地にある「クレール八舗A・B」。
「蒲郡市の映画館(3)」(蒲郡市中心部)に続きます。
蒲郡市の映画館について調べたことは「東三河地方の映画館 - 消えた映画館の記憶」にまとめており、跡地については「消えた映画館の記憶地図」にマッピングしています。