振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

浜松市立水窪図書館を訪れる

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(写真)浜松市水窪小学校北側から見た水窪市街地。

2019年(令和元年)12月、静岡県浜松市天竜区水窪町(みさくぼちょう)を訪れました。「水窪町の映画館」に続きます。

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1. 水窪町を訪れる

1925年(大正14年)から約80年に渡って磐田郡水窪町という単独自治体だった町。 2005年(平成17年)に浜松市編入され、2007年(平成19年)に浜松市政令指定都市に移行したことで天竜区の一部となりました。自治体として消滅した2005年時点の人口は約3,200人でしたが、2019年(令和元年)10月時点では1,973人にまで減少しています。

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(地図)愛知県名古屋市から見た静岡県浜松市天竜区水窪町の位置。©OpenStreetMap contributors

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(地図)水窪盆地の色別標高図。国土地理院 地理院地図

 

往路は愛知県豊橋市方面からJR飯田線で訪れ、復路は静岡県浜松市中心部方面にバス&遠州鉄道で帰りました。豊橋駅=水窪駅の列車は1日12往復であり、6時ちょうどに豊橋駅を出る始発を逃すと、2時間後まで水窪駅にたどり着く列車はありません。水窪市街地=天竜市街地のバスは1日4往復であり、16時前に水窪バス停を出る便が最終便です。ここは政令指定都市浜松市の一部ですが、公共交通機関で区役所を訪れるには1日4便のバスに頼らざるを得ません。
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(写真)JR飯田線水窪駅

 

JR水窪駅天竜川の支流である水窪川の東岸にあり、名称不明の歩行者用吊り橋を渡って左岸にある水窪市街地に向かいます。水窪川の流れは穏やかであり、また歩行面と川面の標高差も少ないため、まったく怖さは感じません。

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(写真)水窪川に架かる吊り橋。水窪駅前。

 

2. 浜松市水窪図書館

2.1 浜松市水窪文化会館

水窪町の公共施設は国道152号沿いに集まっており、天体観測ドームが目につく浜松市水窪文化会館の1階に水窪図書館が入っています。この日のホールではアマチュアミュージシャンによる「Live Fes in Misakubo」というイベントを開催しており、JA職員によるバンドなどが演奏していました。

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 (左)浜松市水窪文化会館。(右)浜松市水窪文化会館の入口。

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(写真)浜松市水窪文化会館のホール。

 

水窪文化会館の建物に入ってすぐの場所にあるロビーは水窪図書館の一部のようになっていました。書架には多数の漫画本が並べられ、机・椅子・ソファー・こたつが置かれています。

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(写真)浜松市水窪文化会館のロビー。

 

2.2 水窪図書館

24館で構成される浜松市立図書館の中でもっとも北に位置するのが水窪図書館です。浜松市編入合併した地域の図書館を公民館図書室に格下げすることなく、すべて公共図書館として扱っているため、蔵書数/貸出数/利用者数などの差が激しいのが特徴です。

「第二の中央館」と位置付けられている浜松市城北図書館は蔵書数約50万冊・年間貸出数約55万冊であるのに対して、旧龍山村にある浜松市立龍山図書館は蔵書数約9000冊・年間貸出数約400冊でしかありません。水窪図書館の蔵書数は約1万6000冊で24館中23位、年間貸出数は約3000冊でやはり24館中23位です。

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(左)水窪図書館の入口。(右)利用者用検索機と新聞コーナー。中日新聞静岡新聞を購読。

 

水窪図書館の床面積は200m2に満たないと思われます。西面に窓があり、東面と南面には文芸書などの壁面書架となっています。館内中央部の低い書架には行政資料・水窪町の郷土資料・写真アルバムなどが並べられ、高い書架には一般書や児童書などが並べられています。閲覧席の間の床にストーブが置かれているのが山間部の図書館らしく感じます。

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(写真)水窪図書館の館内。

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(左)一般書の書架。(右)書架と閲覧席。ストーブがある。

 

利用者用蔵書検索機の隣には新着図書コーナーがありますが、新着図書と同じくらいの量の寄贈本がありました。その一部は耳塚英一氏による寄贈と表示されています。Google検索すると愛知県内の企業で代表取締役をされている方がヒットしますが、同一人物でしょうか。耳塚という姓は水窪町に多いようで、土産物店や酒屋でもこの姓を見かけました。

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(左)新着図書・寄贈本コーナー。(右)耳塚英一氏の寄贈本。

 

浜松市立図書館公式サイトの図書館紹介に「スナップ」と書かれているのは、水窪町民から図書館に寄託(?)されている約30冊の写真アルバムのことです。戦後の水窪町各地で撮影された写真が分野ごとにアルバム化されており、貴重な郷土資料と言えます。残念ながら水窪町にあった劇場/映画館を撮影した写真はありませんでした。

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(写真)写真アルバムコーナー。

 

3. 水窪町を歩く

3.1 国道152号沿い

静岡県浜松市街地から長野県の上田市街地まで北北東に一直線に伸びているのが国道152号です。国道152号は北遠や南信の山間部で中央構造線に沿っており、さらに北上すると長野飯田市遠山郷大鹿村伊那市の高遠などの盆地があります。

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国道152号沿いには道の駅のような施設として土産物店兼レストランの「国盗り」があります。2018年(平成30年)5月には国盗りの250m南に、神奈川県からの移住者が「ライオンカフェ」を開店させています。国道152号沿いの何か所かには水窪商店街(みさくぼ商店街)への来訪を促す看板がありました。

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(写真)土産物店・レストラン「国盗り」。

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(写真)国盗りの店内。

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(左)ライオンカフェ。(右)水窪商店街の看板。右は浜松いわた信用金庫水窪支店。

 

3.2 小畑区

水窪町の旧市街地は南北に延びる1本の通りに面して形成されており、北から小畑、大里、神沢、本町の各区からなります。浜松市水窪民俗資料館を訪れた後、北から南に向かって歩きました。

水窪市街地にコンビニはなく、食料を調達できそうな唯一の店がスーパーやまみちでした。各家庭にしめ縄を飾る風習がまだ残っているようで、歴史的には玄関前に建てた杉の木にしめ縄を架けていたようです。

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(左)スーパーやまみち。(右)販売されているしめ縄。

 

スーパーやまみちから西に延びる道路を歩いて商店街に向かいます。店舗は多いもののシャッター通りとなっています。日曜日のお昼だったからか、すでに廃業しているのかはよくわかりませんでした。水窪町で唯一と思われる丸山書店もシャッターが下ろされていました。小畑区の北部には、正月明けに「田遊び」という神事が行われる附属寺があります。

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(左)小畑地区北部の街並み。(右)丸山書店。

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(写真)附属寺。(左)本堂。(右)庫裏と蔵。

 

松屋製菓

小畑区の中央部には1926年(昭和元年)創業の「小松屋製菓」があります。大正15年ではなく昭和元年とは珍しい。1997年(平成9年)には洋菓子店で学んだ3代目に世代交代し、2015年(平成27年)に建て替えた店舗は洋菓子店のような雰囲気です。建て替えの際にイートインスペースが設置され、国号152号沿いの「ライオンカフェ」とともに若い世代が集まる場になる可能性を秘めています。

もともと小松屋製菓では栃もちが看板商品でしたが、2018年(平成30年)には栃や粟を練り込んだパンを商品化。2019年(平成31年)には第28回優良食料品小売店等表彰で最高賞の農林水産大臣賞を受賞し、「栃の実を独自の技術で現代に通用する商品に仕立てることに成功」という短評が付されています。小松屋製菓では水窪町にあった映画館に関する話も聞くことができました。栃もちを買って帰りましたが、何個食べても栃がどういう味なのかよくわかりません。

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(写真)小松屋製菓。

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(左)商品。(中)店内に掲示された沿革。(右)栃もち。

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(写真)小畑地区南部の街並み。薄利屋、小松屋製菓、うるしや呉服店など。

 

3.3 大里区

小畑区の南側は大里区。水窪町の公共施設群からもっとも近い区であり、現在の水窪商店街の中でもっとも店舗が多い印象を受けました。大里区の北部には押出沢(おんだしさわ)という小河川が流れていますが、山地から一気に下って水窪川に注いでいます。"押出" という怖い字面の通り、1991年(平成3年)9月の台風18号による集中豪雨では、土石流によって死傷者2人・全半壊8戸・床上/床下浸水計79戸を出したそうで、砂防工事が完成して現在の姿になったのは1998年(平成10年)とのことです。

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(写真)大里地区の街並み。押出沢以北。(左)さかいや食堂など。(右)丸正鈴木呉服店など。

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(左)押出沢。(右)押出沢以南の大里地区の街並み。中村屋食堂など。

 

3.4 神沢区

標高約260mの通りに沿っている小畑区・大里区・水窪区とは異なり、標高約300-320mの高台にあるのが神沢区です。浜松市水窪小学校や八幡宮があり、また水窪茶の茶畑の多くが神沢区にあります。八幡宮は小畑区を除く大里区・神原区・水窪区の産土神であり、社殿は1938年(昭和13年)改築。このブログ冒頭の写真は神沢区から北側の小畑区や大里区を撮った写真です。

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(左)八幡宮の鳥居。(右)八幡宮の社殿。

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(左)神沢区の茶畑。左下の家並みは水窪区。(右)神沢区の茶畑。

 

3.5 水窪区(本町)

4区の中でもっとも南側にあるのが水窪区(本町)です。水窪区/本町という名称の通り、かつてはこの地区が水窪町の中心地だったと思われ、1本の通りに沿って商店が並んでいます。八幡屋製菓の創業は1911年(明治44年)で小松屋製菓よりも古い。水窪郵便局近くにはみさくぼ交流所という無人の施設があり、水窪町を写した写真が展示されていました。

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(左)水窪区北部にある「塩の道」の階段。(右)水窪区の通り。右は八幡屋製菓。

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(写真)水窪区にあるみさくぼ交流所。 

 

3.6 水窪町の旅館

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(左)小畑区にある「中村館」。現役。(右)小畑区にある「のぼりや」。たぶん現役。

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 (左)大里区にある「ふくもと旅館」。廃業。水窪劇場跡地の正面。(右)水窪区にある「和泉屋」旅館。2013年廃業

 

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