振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

設楽町民図書館を訪れる

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(写真)設楽町役場の議場・図書館棟。左側の屋根が低い部分が設楽町民図書館。

 

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(地図)愛知県における設楽町の位置。OpenStreetMapより。作者 : OpenStreetMap contributor。

 

 愛知県北設楽郡設楽町までの所要時間は、車を使えば豊橋からも浜松からも名古屋からも1時間30分前後。公共交通機関では豊鉄バスが田口新城線を運行しており、新城市の中心部(新城市民病院)と旧鳳来町の中心部(本長篠駅)と設楽町の中心部(田口)を1日9往復結んでいます。本長篠駅から田口までのバスの乗車時間は約40分、片道920円。

 バスは途中まで豊川本流の隣の谷を通り、稲目トンネルを抜けてからは豊川本流(海老川)と並行して田口に向かいます。バスは標高80mの本長篠駅前から470mの田口まで400m近くも上ります。田口地区は山間に開けた盆地であるものの、500mほど西側にある豊川本流の谷よりは100m近く高いため、今後設楽ダムが建設されても田口地区は水没せずに済むようです(設楽ダムの完成予想図)。

 

田口地区をあるく

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 Google Mapで設楽町田口地区を見ても建物の形は表示されません。OpenStreetMapは建物まで描かれていますが、2014年に移転した設楽町役場やその脇の都市計画道路が反映されていないのが気になり、OSMサーベイもしつつ図書館を目指すこととしました。バスターミナルの前にある休憩所で田口集落の観光パンフレットをもらい、集落を一周してから設楽町民図書館を訪れました。

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(左)豊鉄バスの田口バスターミナル。(右)バスターミナル前の無料休憩所。

 

 田口地区は伊那街道(現在の国道257号線)に沿って発達した町であり、下流側から「本町」、「栄町」、「大田口」の3つの町に分かれているようです。地図には書かれていないのですが、おそらく “鹿島川に架かる田口橋” と “役場北交差点” が3町の境界だと思われます。バスターミナルや「蓬莱泉」で知られる関谷醸造があるのは「本町」。

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(左)関谷醸造の店舗。(右)関谷醸造の本社蔵。いずれも本町。

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(写真)昭和初期までの田口地区の中心地、本町の中心部にある設楽警察署南交差点。

 

 昭和初期以後に発展したらしい「栄町」には旅館が3軒残っているほか、三菱東京UFJ銀行(新城支店田口特別出張所)があったり、書店が2軒あったりします。設楽町役場は2014年の移転の前も後も「栄町」にあります。

 3町の中でもっとも東側にあるのが「大田口」。商店の数自体は3町の中でもっとも多く、また設楽中学校や田口小学校などがあります。

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(写真)「栄町」バス停付近のカーブを別角度から2枚。

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(左)「栄町」と「大田口」を隔てる役場北交差点。(右)大田口。

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(写真)2001年に設楽町内の3中学校を統合して開校した設楽中学校。設楽町役場と同じく伊藤建築設計事務所の作品で地元産木材が多用されている。

 

 田口地区南部の高台には設楽町三河郷土館があります。田口地区のこの建物は2016年9月末で閉館しており入れませんでしたが、旧田口線の車両はまだ展示されていました。2020年には5km下流の清崎地区に新館が開館する予定です。

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(左)旧田口線の車両。(右)設楽町三河郷土館。この建物は2016年9月に営業を終了。

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田口地区の本屋

 田口地区の「栄町」には本屋が2件ありました。福田寺の参道入口に松屋書店が、三菱東京UFJ銀行東側に福沢書店があります。

 松屋書店は2本の書架と3本の通路を持つこじんまりとした本屋。右側の通路の両側は面展を中心とした絵本のコーナーであり、左側の通路の奥には人文科学と社会科学の本がありました。高齢化率が50%を超える町で絵本を主力にしている点、ほとんど売れないだろう学術書に一定の面積を割いている点には挑戦的な印象を受けました。

 もう片方の福沢書店は三菱東京UFJ銀行の横にありますが、店名の看板が掲げられていないため、Google Mapにも記されていません。地図を見て歩かないと見落とすこと必至の書店です。こちらは成人向け雑誌がかなりの面積を占めており、松屋書店では見かけなかった一般向けのコミック雑誌も多い、よくある地方の本屋という感じです。

 おそらく松屋書店のほうが後発。松屋書店の店主は都市から移り住んできた方なのではないかと思いました。福沢書店に不満があって開店させたのでは。

 

 設楽町役場から徒歩3分の喫茶店「花の樹」でお昼ごはんを食べました。役場職員が愛用する店のようで、奥のテーブルではどこかの部署のミーティングが行われていました。

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(左)松屋書店。OSMでは松下書店と誤記されている。(右)福沢書店。三菱東京UFJ銀行の隣。書店はいずれも栄町。

 

設楽町役場

 田口地区の中心部に位置する設楽町役場は2014年1月竣工。北側の役場棟、西側の議場・図書館棟、東側の子どもセンター棟の3施設からなり、それぞれの入口は別ですが内部ではつながっています。

 図書館内で閲覧した住宅地図によると、1990年までこの場所には設楽町立田口小学校があったそう。移転後には木造の校舎は解体されましたが、鉄筋コンクリート造の特別室校舎は残され、1991年に設楽町民図書館(現在と同名)と教育委員会が特別室校舎内に設けられたようです。

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(写真)設楽町役場の内部。地元産集成材を多用。

 

設楽町民図書館

 ようやく設楽町民図書館に着きました。設楽町役場議場・図書館棟の1/3弱が図書館になっています。土足厳禁の図書館は愛知県では他に見たことがありません。床面積は235m2であり、蔵書数は2013年12月時点で16,000冊だそうです。移転前の床面積は75m2だったようです。北側には一般書が、中央にはカウンターや閲覧席が、南側には児童書があります。

  設楽町民図書館(設楽町民図書館条例)は図書館法でいうところの「図書館」ではないので、日本図書館協会刊行の『日本の図書館』には掲載されていません。ただ、ゼンリン住宅地図をコピーできるかどうか尋ねたら、役場内のコピー機で取って来てくれました。よかったのかな(たぶんよくない)。

 館内の写真撮影について尋ねたら、総務課に内線をかけてくれた上で「まったく問題ない」とのことでした。設楽町公式サイトによる図書館紹介ページには写真などいっさい掲載されていませんので、雰囲気を伝える写真を以下に掲載しました。

 

 設楽町民図書館の正確な利用者数はわかりませんが、『図書館だより』最新号を見ると2017年9月は300人台だったようなので、年間に約4,000人、1日に10-15人といったところでしょうか。この日訪れたのは昼休みの時間帯だったこともあり、90分ほどの間に自分も含めて8人の利用者がいました。

 設楽町の人口は4700人ということで、最近訪れた図書館では浜松市天竜区佐久間地区(旧佐久間町、現在の人口3700人)の浜松市立佐久間図書館と地域性が似ていると思われます。設楽町民図書館は「人口が中心地区に偏っている」「新館」「役場に併設」という要素がありながら、利用者数では佐久間図書館よりやや多い程度で、旧館時代と大して変わらない(推測)というのは気になります。

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(写真)図書館内部。床面積の2/3くらいが見えている。右側がカウンター。

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(左)児童書。(右)一般書。

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(写真)右側は新刊本。左側は愛知県図書館貸出文庫。愛知県図書館から定期的に巡回してくるらしい。