振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

日進市立図書館を訪れる

名古屋市豊田市に挟まれて、北から順に長久手市日進市東郷町の3自治体が並んでいる。近くて遠い存在の日進市立図書館(と長久手市中央図書館)を訪れた。

 

1. 日進市立図書館を訪れる

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名鉄豊田線日進駅から約25分歩いた。約2kmの距離があり、途中で笠寺山という丘を越える。日進市には明確な中心エリアがなく、図書館が市民の生活動線上にあるのかは怪しい。

この建物は2008年完成。設計は2014年に亡くなった岡田新一(設計事務所)。岐阜県立図書館、徳島県立図書館小田原市立かもめ図書館なども手掛けているらしい。四隅の塔が目立つが、デザインを機能に活かしきれているとは思わない。

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入口近くには予約図書の時間外貸出ロッカーが設置されていた。最近は特に首都圏で増えているらしいが、現物を見たのは初めて。駅前型図書館のほうが効果的な気はする。名古屋市徳重図書館にもあるらしい。

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現在の日進市立図書館は2008年に開館した。愛知県内では稲沢市中央図書館(2006年)と同時期。日進市の人口は約9万人で、人口増加率は全国トップクラス。延床面積(6,100m2)は同規模自治体と比べてかなり広く、さらなる人口増加を見越しているように思われる。

右の写真はテーマ展示の書架。没後100年の漱石、没後400年のシェイクスピアに加えて、近年に亡くなった作家の作品を展示していた。図書館ではなくておしゃれな書店に見える。写真写りがいい。この図書館はTRCが業務を受託している。

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興味深かったのは2階の一角にある「IT講習室」。コワーキングスペースのような雰囲気で、オフィスソフトが入ったデスクトップPC、データベース用PC、コピー機、プリンターなどが設置されていた。有料(1回あたり400円台-600円台)で利用できるようで、何人かが長時間作業していた。

 

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1階にはインターネット/データベース用パソコンが数多く設置されている。利用者カードを持っていないと使えず、利用者カードの作成可能自治体は多くない。事業年報を見ると、日進市民の登録者数が約21,000人であるのに対して、名古屋市民の登録者数は約9,000人。名古屋市東部から車で来館する人が多いのかもしれない。

9万人の自治体としては珍しく、この図書館では中日・朝日・日経などのデータベースを利用できる。どれだけ利用されているのか司書さんに聞いてみたが、1か月あたり2-3人だという。

新聞の置き方もおしゃれ。中日・朝日・読売・産経・日経・中部経済新聞の過去1か月分がすぐ手に取れる。

 

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四隅にある塔のひとつは学習室になっている。三角形や半円形の窓から太陽光が入る。

建物内には社会福祉法人が運営する「スローカフェゆったり」がある。店員さんに運営形態を聞いていたら、たまたま管理者の方が来店され、挨拶された。カフェの棚には大村愛知県知事と管理者の方が一緒に写った写真が並べられていた。

 

2. 長久手市中央図書館を訪れる

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日進市の北には長久手市がある。2005年の愛知万博に合わせてリニモが開通したことで名古屋市豊田市への交通が便利になりました。はなみずき通駅から北に550m、「図書館通り」を標高約10m分のぼると図書館が見えてきます。特徴的な外観も合わせてちょっとしたランドマークになっています。

 

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2階には鍵の掛かった郷土資料・参考図書室がありました。愛知万博関連資料や戦国時代に関連する資料が豊富ですが、事務室に声をかけないと開けてもらえない。

1階では「漱石没後百年の百冊」というテーマ展示を行っており、漱石の著書はもちろん、没後に出版された漱石本が集められていました。

 

 

「伊勢春慶」がメインページに掲載された

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Wikipediaメインページ下部の「強化記事」欄に「伊勢春慶 - Wikipedia」という記事が掲載された。12月10日23:00(日本時間)から約72時間メインページに掲載される。

 

「伊勢春慶」は2010年に作成されていた記事。今年9月17日に皇學館大学の岡野先生とふみくら倶楽部の方がイベントで加筆し、その後9月下旬には図書館司書の方が、11月にはウィキペディアンがこの題材について調べて加筆した。(言い方が回りくどい)

一つの編集が他の編集を呼ぶ流れがウィキペディア的だと思ったし、丁寧な出典付けで品質が向上したので「強化記事」に推薦した。

 

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伊勢春慶の田楽箱。撮影:kmsnk。Wikimedia Commonsより。

 

メインページに掲載される3日間には間違いなくアクセス数が増加する。11月末に「強化記事」に選ばれた「富山市立図書館 - Wikipedia」の場合は、平常時の平均が20アクセス/日、メインページ掲載中は170アクセス/日。170アクセス/日というのはたいした数字ではないが、平常時との差は大きい。「伊勢春慶」もより多くの一般閲覧者に存在を知ってもらえるかもしれない。

編集者に対する効果の方が大きい。「強化記事」に興味を持つような方は熱心な編集者ばかりなので、オフラインイベントの存在を知ってもらえるかもしれない。図書館のように同一分野でメインページへの掲載が続けば、「最近の図書館分野は活気がある」と思ってもらえる。

 

上のような効果を期待して、Asturio氏は自分が関わった記事をわりと頻繁に「新着記事」「強化記事」「良質な記事」に推薦したり、投票したりしている。自薦を煙たがる人もいるけれど、「他薦されるまで待つ慎み深さが日本人の美徳」のような考えはWikipediaにそぐわないと思う。

一宮市立図書館の地域資料

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正面から撮ったi-ビル。撮影はAsturio Cantabrio氏。

 

一宮市立中央図書館にはたまに行く。JR尾張一宮駅・名鉄一宮駅に直結していて、21時まで開いていて、 ゆったりとした持ち込みPC席があって、公衆無線LANが使える。同じビル内にタリーズなどの飲食店がいくつもある。

 

 

テーマ展示「一宮と濃尾地震

一宮市立中央図書館では11月22日から来年2月19日まで、「一宮と濃尾地震」というテーマ展示を行っている。1891年の濃尾地震に関連する文献が集められていて、書籍だけでなく活断層図まで展示している。

この中には1892年刊行(?)『THE GREAT EARTHQUAKE OF JAPAN 1891』の復刻版(1993年)、1893年刊行『濃尾大震災寫眞帖』の復刻版(1973年)などの写真集があった。このテーマ展示がなかったら書庫から出されることがない文献も何冊かありそうだった。

『THE GREAT EARTHQUAKE OF JAPAN 1891』には鮮明な写真が多数掲載されている。面展示されたこの機会に、すべてスキャンしてWikimedia Commonsに上げてしまいたいと思った(しないけど)。

 

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歌川国利『岐阜市街大地震之図』1891年

 

 

地域資料の館外貸出
一宮市図書館は地域資料の館外貸出にとても寛容だと思う。

各種自治体史が、特に『名古屋市史』(1915-1916)、『渥美郡史』(1923)、『岡崎市史』(1926-1930)などの古めかしい自治体史が、館外貸出可能な状態で地域資料コーナーに置かれている。

豊橋市図書館100年のあゆみ』『津島市図書館編年資料集成 1895-2015』などの図書館史、各図書館の各年の事業年報も、やはり館外貸出可能な状態で地域資料コーナーや書庫に置かれている。明らかに複本がなさそうな地域資料でも館外貸出ができる。

こんな文献は多くの図書館で禁帯出になっているはず。一宮市図書館が館外貸出可能にできるのはなぜだろう。

猪谷千香氏講演会「つながる図書館・最前線!」を聞く

安城市/猪谷千香氏講演会「つながる図書館・最前線!」

 

2016年12月4日(日)、安城市中央図書館で開催された猪谷千香さんの講演会に行った。前半の1時間は猪谷さんの講演会、後半の1時間は猪谷さんと神谷学安城市長の対談で、岡本真さんがコーディネーターを務めた。

 

新館への移転間近の安城市図書

現行の安城市中央図書館は1985年開館。2017年1月末で現行館が閉館し、6月1日には新館(複合施設)が開館する。現行館の閉館まで2か月を切っており、新館への期待が高まっている。新館の図書館部分はもう内装工事に入っているらしい。

twitterには図書館の公式アカウントと非公式アカウント(?)がある。公式アカウントのほうは前からフォローしていて、新館の建設状況の「定点観測」を楽しみにしている。公式キャラクター的な女の子はイチジクの被り物をしているのだが、他地域の人にはナスにしかみえないと思う。非公式アカウントは12月1日に「安城でもウィキペディアタウンイベントやりたい」とつぶやいてくれていた。

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安城市中央図書館に行く

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安城市中央図書館の南側には公園がある。左の写真はこの日撮影。公園の奥に見えている白い建物が図書館。右の写真は夏に撮ったもの。見ての通りまだ新しい。1985年開館なので31年しか経っていない。

猪谷さんの講演会の定員は80人だった。図書館総合展の翌日に申し込んだときは12番目だった。集客をやや心配していたが杞憂に終わる。図書館2階の会議室に並べられた椅子はほぼすべて埋まった。年齢層は高めであり若者はほとんどいなかったが、新図書館に関心のある市民が多いようだ。

 

講演会&対談を聞く

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前から2列目に座る。壁際には本日の講演会に関連する書籍が並べられていた。猪谷さんの講演の内容を踏まえて、講演会中にも新しい本がどんどん追加されていたらしい。行動力と司書力の高さ。

講演会終了後に確認すると、ライブラリー・リソース・ガイドが全冊置いてあった。愛知県内でLRGを置いている公共図書館は県図書名古屋市鶴舞豊橋・大府と安城だけらしい。なお、1階の雑誌コーナーには『図書館雑誌』『国立国会図書館月報』『図書館の学校』『現代の図書館』などが置いてある。永年保存の雑誌が多い。蔵書だけ見てもこの自治体は図書館に力を入れていることがよくわかる。

 

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安城市中央図書館【猪谷千香講演会「つながる図書館・最前線!」】 2016/12/4 - Togetterまとめ

 

講演会&対談の内容はふむさんがTogetterにまとめてくださっている。猪谷さんの講演は、昨今の図書館を取り巻く状況について説明した後に、武蔵野市富山市、海老名市、伊万里市舟橋村瀬戸内市海士町紫波町などの事例を紹介していく。この時期にやるべき内容の講演だったのだろうか。現行館閉館間際、新館移転半年前というタイミングでは、講演のテーマも難しいのだろうかと感じた。

 

猪谷さんと神谷学安城市長の対談では、市長が新複合施設の状況や、アメリカ&韓国&北欧の図書館を視察した経験談を紹介。新複合施設をまちの核としたいという熱い思いが伝わってくる。

日本各地の図書館も多数視察されているよう。もっとも印象残っているのは「武雄市図書館」で、武雄がまちづくりの起爆剤としてメディアに取り上げられたことが安城市の新図書館構想の追い風になったという。ただし武雄の評価についてはとても慎重な言い方をされているし、安城市は新館も直営を選択している。

現行館は駅からやや遠く、書庫もいっぱいであるとはいえ、現行館開館からたった31年で新館移転を決めたのは大きな決断だったと思う。もともと西三河地方では随一の図書館。能力のある方たちが新館で何をするのか期待している。

 

おわりに

司書さんや館長さんに挨拶するタイミングがあった。司書さんはウィキペディア安城市図書館 - Wikipedia(3か月前に作成)というページが作成されたことを知ってらした。この記事が「ある」ことではなく、「さいきんできた」ことを知ってらした。前述の非公式twitter「りぶっくま」の中の人も「さいきんできた」ことを知ってらした。

たったこれだけのことでも、これらの方々がウィキペディアに興味を持ってくださっていること、とても感度の高い方々であることがわかる。来年度には安城市でもウィキペディアタウンが開催できるかもしれない。