2019年1月初頭、滋賀県米原市の米原市立山東図書館を訪れました。
1. 米原市山東地区を訪れる
滋賀県は平成の大合併で大きな変化があった。坂田郡・浅井郡・伊香郡の3郡からなる湖北地域には、かつて1市12町の13自治体がありましたが、平成の大合併で長浜市と米原市の2市に再編されています。
2005年2月に米原町(まいはらちょう)・山東町・伊吹町が新設合併して米原市(まいばらし)が発足すると、同年10月に近江町を編入して今日の米原市域が確定しています。愛知県から京都/大阪を訪れる際にいつも通過する米原市。聞きなれない「山東町」(さんとうちょう)という地名は、JRの駅で言うと近江長岡駅や柏原駅がある場所です。
米原市の図書施設は2図書館2図書室。山東地域に米原市立山東図書館が、近江地域に米原市立近江図書館があります。自治体中心部の米原地域に図書館はありませんが、自治体東部(山東図書館)と自治体西部(近江図書館)に1館ずつというのはバランスが良いし、いずれも2000年頃の開館で新しく、当分は中央図書館の建設計画は浮上しなさそうです。蔵書数は山東図書館が約14万冊、近江図書館が約13万冊で同規模。
(地図)滋賀県米原市の位置。©OpenStreetMap contributor。
JR東海道本線近江長岡駅から北に歩くと、ゲンジボタルの発生地である天野川 (滋賀県) - Wikipediaを渡る際に、この地域を象徴する伊吹山 - Wikipediaがきれいに見えます。なお、米原市山東地区はその名に反して、伊吹山の東側ではなく西側にあります。「山の東の土地」という意味ではなく「山が東にある土地」という意味なのかな。
米原市立山東図書館は米原市民交流プラザ「ルッチプラザ」の2階にあります。ルッチとはイタリア語で「蛍」を意味するlucciole(ルッチオーレ)や「光 / 希望」を意味するluce(ルッチェ)が由来。ゲンジボタルの天然記念物となっている全国の11か所の中で、“特別” 天然記念物は天野川だけだそうです。 建物の設計は長浜市の豊建築設計事務所であり、豊建築設計事務所は市立長浜図書館も手掛けています。
(左)天野川と伊吹山。(右)米原市民交流プラザ「ルッチプラザ」。右側の棟の2階が図書館。
2. 米原市立山東図書館を訪れる
2005年の合併時点で山東町の人口は13,000人。2018年時点で米原市の人口は38,000人。この人口規模からすると、米原市立山東図書館は人口に不釣り合いにも感じられる立派な図書館です。ワンフロアで天井が高く、入口以外の三方がほぼガラスなので開放感がある。冒頭の写真に見える観葉植物が雰囲気を落ち着かせているし、巨大なぬいぐるみを置く遊び心もある。元々の広さに加えて、インターネットコーナーや新聞雑誌コーナーを館外(の同一フロア内)に押し出しているおかげで、館内はとてもゆったりしています。図書館員の手が行き届いている感じがするのに、余計な張り紙などはありません。展示や小物のひとつひとつにセンスが感じられます。
旧山東町民以外の米原市民の中にはこの図書館を訪れたことがない方も多いはず。この図書館はすべての米原市民に知ってもらいたい。米原市立図書館公式サイトにも写真を載せるべきではないでしょうか。
『平成29年度版 図書館年報』によれば、米原市の住民1人あたり貸出数は10.5冊。滋賀県内の公共図書館の平均は東京都に次いで第2位の7.97冊だそうですが、10.5冊は全国的に見ても高い数字だと思われます。
(左)館内中心部。(右)巨大地球儀と展示。
(左)展示「2020年東京オリンピック」。イーゼルを使った新年の挨拶にセンスを感じます。後ろはお正月のラッキーナンバープレゼント。(右)展示「江戸時代小説」。
児童文学作家であり市立長浜図書館初代館長の中島千恵子 - Wikipediaは、開館準備中の山東町立図書館で顧問を務めたそうです。開館直前の1999年11月16日に死去し、死後には遺族から児童書など4,146冊が寄贈されました。2000年4月1日に山東町立図書館が開館した際には、開館記念展示として「中島千恵子展」を行ったそうです。
(左)図書館外同一フロアのおはなし室。(右)絵本。時計がかわいらしい。
(左)漫画本コーナー。(右)児童書。
最近までは入口脇の小部屋が郷土資料室だったみたい。現在は開架室に郷土資料があり、小部屋は視聴覚資料室となっています。郷土資料コーナーに展示されている写真は山東町域出身の郷土史家である中川泉三 - Wikipediaだそうです。
(左)郷土資料コーナー。中川泉三の写真がある。(右)据え付けの扇風機。
『平成29年度版 図書館年報』を読むと、山東図書館の購入雑誌数は49誌、スポンサー提供雑誌数は51誌、寄贈雑誌数は24誌であり、スポンサー提供雑誌数が購入雑誌数を上回っている。一般的に雑誌スポンサー制度の目的は「民間事業者の情報発信」と「図書館の新たな財源の確保や資料の充実」の2つだと思いますが、スポンサー提供雑誌数が山東図書館くらい多いと「民間事業者の情報発信」に役立っているような気がします。
読売新聞メディアデータ2018によると、滋賀県における朝刊の世帯普及率は『読売新聞』(23%)、『朝日新聞』(16%)、『京都新聞』(13%)の順だそうですが、滋賀県の中でも特に岐阜県に近い米原市ではどうなのでしょうか。図書館職員に聞けばよかった。新聞コーナーには全国紙5紙と『京都新聞』と『中日新聞』がありました。こちらのサイトによると米原市における朝刊のシェアは『京都新聞』3%、『中日新聞』62%とのことですが、『中日新聞』のシェアはそんなに高いのだろうか。行政資料をぱらぱらめくった限りでは、滋賀県長浜市/彦根市に加えて、岐阜県大垣市も主要な通勤先のようです。
(写真)図書館外同一フロアの新聞雑誌コーナー。
(左)図書館外同一フロアのAVコーナー。(中)視聴覚資料。館内。(右)図書館外同一フロアのインターネットコーナー。
(写真)同一フロアのカフェ。
3. 参考文献
伊藤尚典『みんなの図書館 山東町立図書館ができるまで』2004年
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