（写真）現代アート作品「伊吹の樹」。
2024年（令和6年）8月、香川県観音寺市の伊吹島を訪れました。「伊吹島を訪れる（1）」「伊吹島を訪れる（2）」からの続きです。
1. 伊吹島の映画館
各年版の映画館名簿によると、伊吹島には日之出館（日之出座）と伊吹映劇という2館の映画館がありました。映画館名簿に記された日之出館の定員は800、伊吹映劇の定員は300であり、両館の規模には差があったことが分かります。
なお一般論として、同一自治体に2館ある映画館の片方が「〇〇映劇」（〇〇映画劇場）という名称の場合、既存の「△△劇場」（△△座/△△館）と対比させて映画専門館であることを強調する意味があると思われます。
（写真）日之出座と伊吹映劇が掲載されている『映画便覧 1964』時事通信社、1964年。
香川県には多数の有人島があり、2020年（令和2年）の国勢調査の人口順に並べると小豆島（25,881人）、直島諸島の直島（3,071人）、直島諸島の豊島（768人）、伊吹島（323人）、塩飽諸島の本島（292人）となります。
この中でかつて映画館があったのは小豆島（5館）、直島（2館）、伊吹島（2館）の3島のみであり、豊島や本島にはありませんでした。現在の伊吹島の人口は豊島の半分以下ですが、映画館という観点からは往時の繁栄度で豊島を上回っていたことが示唆されます。
2.1 日之出館（1918年4月-1964年頃）
所在地 : 香川県観音寺市伊吹町（1964年）
開館年 : 1918年4月
閉館年 : 1964年頃
『全国映画館総覧 1955』には開館年が掲載されていない。1950年の映画館名簿には掲載されていない。1953年・1955年の映画館名簿では「日の出座」。1958年の映画館名簿では「日之出館」。1960年・1963年・1964年の映画館名簿では「日之出座」。跡地は「観音寺市伊吹公民館」。
日之出館が映画館名簿に初登場するのは1950年代初頭のことですが、『伊吹島民俗資料館だより』によると1918年（大正7年）4月にこけら落としを行った芝居小屋だそうです。
日之出館は廻り舞台を有する本格的な芝居小屋であり、「金丸座は別格であったとしても内子座とはそん色はないとも思われる」と紹介されています。比較の対象となった金丸座は香川県琴平町に、内子座は愛媛県内子町に、いずれも重要文化財に指定されて現存しています。
（写真）日之出館に言及している『伊吹島民俗資料館だより』伊吹島民俗資料館、2004年。
（写真）日之出館に言及している『伊吹島の民俗』香川民俗学会、1991年。
（写真）日之出館の設計図。『伊吹島民俗資料館だより』伊吹島民俗資料館、2004年。
伊吹島民俗資料館には日之出館に関連する2枚の写真が展示されていました。日之出館の建物そのものを写した写真は展示や文献で見つけられていません。
日之出館の跡地には1966年（昭和41年）竣工の伊吹公民館が建っていますが、伊吹公民館の玄関は北東にあります。日之出館も同じ向きで建てられていたとするならば、舞台は南西にあったことになります。
（写真）伊吹島民俗資料館に展示されている日之出館の館内の写真。
（写真）伊吹島民俗資料館に展示されている日之出館跡地の伊吹公民館の写真。
2.2 伊吹映劇（1956年頃-1964年頃）
所在地 : 香川県観音寺市伊吹町（1964年）
開館年 : 1956年頃
閉館年 : 1964年頃
1956年の映画館名簿には掲載されていない。1957年・1958年の映画館名簿では「伊吹映画劇場」。1960年・1963年・1964年の映画館名簿では「伊吹映劇」。1965年の映画館名簿には掲載されていない。
1957年（昭和32年）から1964年（昭和39年）の映画館名簿には日之出館のほかに伊吹映劇（伊吹映画劇場）も掲載されています。日本の映画観客数のピークは1958年（昭和33年）、映画館数のピークは1960年（昭和35年）であり、1960年を挟んだ数年間のみ営業していた映画館は全国に数多くありました。
伊吹映劇の経営者は合田福久、支配人は合田茂信。伊吹島には合田姓と三好姓が多いとのことです。
（写真）日の出座と伊吹映画劇場が掲載されている『映画便覧 1957』時事通信社、1957年。
伊吹島の映画館について調べたことは「香川県の映画館 - 消えた映画館の記憶」に掲載しており、跡地については「消えた映画館の記憶地図（香川県版）」にマッピングしています。
