振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

加西市の映画館

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(写真)松乃家食堂。

2022年(令和4年)3月、兵庫県加西市を訪れました。かつて加西市には映画館「住吉座」と「北条映画劇場」がありました。

 

1. 加西市を訪れる

1.1 北条の宿

加西市は5市1町(加西市西脇市三木市・小野市・加東市・多可町)からなる北播磨地域の自治体。酒見寺・住吉神社門前町や在郷町として栄えたのが北条町であり、古くからの市街地には「北条の宿」(ほうじょうのしゅく)という地区名称が付けられています。

 

2003年(平成15年)には北条鉄道北条町駅前に再開発ビル「アスティアかさい」が開業し、2008年(平成20年)にはやはり駅前にイオンモール加西北条が開業。周辺にはコーナンヤマダ電機などもあります。コンパクトな市街地を意識して大型商業施設を集めたのでしょうが、この影響でかつての中心街だった「北条の宿」の衰退ぶりは酷いものがあります。明治・大正の和風建築や昭和の店舗などが多数残っていますが、極めて人通りの少ない商店街になっていました。

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(写真)看板建築の植田鉱油店。

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(写真)北条の街並み。

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(写真)北条の街並み。

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(写真)北条の街並み。

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(写真)北条の街並み。

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(写真)北条の街並み。

 

「北条の宿」沿いのカフェ O cha no Ma(旧原田松栄堂)から路地を南に向かうと、手前川を越える前に松乃家食堂があり、和風建築の本館(?)と大広間棟(?)、アサヒビールの文字が目立つ食堂棟(?)が目立っています。食堂棟は活用が模索されているようですが、和風建築は取り壊されるのを待つだけなのだろうか。

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(写真)松乃家食堂。

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(写真)松乃家食堂。

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(写真)松乃家食堂。

 

1.2 住吉神社・酒見寺

「北条の宿」の西側には、播磨国の三宮である住吉神社天平17年(745年)創建と伝わる古刹の酒見寺(さがみじ)があります。それぞれ兵庫県指定文化財加西市指定文化財を多数有する歴史の深い寺社ですが、いずれも妙なくらい境内が殺風景なのは理由があるのかな。

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(写真)住吉神社

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(左)住吉神社。(中・右)大歳神社。住吉神社御旅所。

 

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(写真)酒見寺楼門。加西市指定文化財

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(右)酒見寺多宝塔。重要文化財。(右)酒見寺鐘楼。兵庫県指定文化財

 

2. 加西市立図書館

2.1 図書館の施設

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(写真)加西市立図書館が入っているアスティアかさい。

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(写真)加西市立図書館の館内。

 

2.2 図書館の館内

2021年(令和3年)3月には自動貸出機・自動返却機を導入しており、貸出・返却ともに有人カウンターを通さずに行わせる案内が整えられていると感じました。自動貸出機はマイナンバーカードを登録すれば貸出カードの代わりにもなるタイプですが、マイナンバーカードによる貸出利用がどれほどあるのか気になります。

このコロナ禍において、自動貸出機・自動返却機の導入が劇的に進むかと思っていましたが、期待通りには進んでいない印象です。新年度にはどれだけ進むかな。電子図書館サービスは一定程度導入が進んだ印象を受けます。

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(左)マイナンバーカード対応の自動貸出機。

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(左)郷土資料。(右)安藤忠雄関連書籍コレクション。

 

加西市立図書館には明確な学習室はありませんが、上階の一部エリアが実質的な学習スペースになっています。図書館内には加西市にある高校2校のポスターが貼られていたほか、使い終わった赤本が置いてあるコーナーもあり、高校生が利用しやすい図書館に見えました。

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(写真)実質的な学習スペース。

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(左)加西市内の高校の紹介。(右)大学情報コーナー(赤本コーナー)。

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(写真)屋外テラス。

 

2. 加西市の映画館

加西市には大正時代の芝居小屋から転換した「住吉座」と、戦後に開館したと思われる「北条映画劇場」の2館の映画館がありました。

 

『映画館名簿 1955』時事通信社、1955年

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『映画便覧 1970』時事通信社、1970年

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2.1 北条映画劇場(1955年頃-1964年頃)

所在地 : 兵庫県加西郡北条町北条819-1(1960年)、兵庫県加西郡北条町(1964年)
開館年 : 1955年頃
閉館年 : 1964年頃
1955年の映画館名簿には掲載されていない。1956年・1958年・1960年・1963年・1964年の映画館名簿では「北条映画劇場」。1965年・1966年の映画館名簿には掲載されていない。

 

2.2 住吉座(1919年-1970年頃)

所在地 : 兵庫県加西市北条町北条2448(1969年)
開館年 : 1919年
閉館年 : 1970年頃
『全国映画館総覧 1955』には開館年が掲載されていない。1950年・1953年・1955年・1960年・1963年の映画館名簿では「住吉座」。1966年・1969年の映画館名簿では「北条住吉座」。1973年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は「日本生命保険北条営業部」。最寄駅は北条鉄道北条町駅

1919年(大正8年)には芝居小屋の住吉座が開館。加西郡唯一の常小屋(常設芝居小屋)であり、戦後に映画館に転換しています。


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(写真)住吉座の外観。『ふるさとの想い出 写真集 明治大正昭和 三木』国書刊行会、1981年。

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(写真)住吉座の館内。『ふるさとの想い出 写真集 明治大正昭和 三木』国書刊行会、1981年。

 

『ふるさとの想い出 写真集 明治大正昭和 三木』(国書刊行会、1981年)には取り壊し間際の住吉座の写真が掲載されています。ファサードは看板建築風ですが、建物は1919年(大正8年)から変わらない和風建築だったようです。建物の前には神社も見えますが、現在のような千本鳥居はありません。この写真に見える木はすべて伐られているようであり、また社を囲む玉垣も残っていません。

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(写真)取り壊し間際の住吉座。『ふるさとの想い出 写真集 明治大正昭和 三木』国書刊行会、1981年。

 

跡地の広い敷地には円融会研修センター(旧・日本生命保険北条営業部)が建っています。

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(写真)住吉座跡地にある円融会研修センター。

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(左・右)住吉座の営業当時から残る北条稲荷神社。

 

かつて住吉座の観客は「北条の宿」から戎橋で手前川を越えてやってきたと思われます。

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(写真)北条の宿と住吉座を結ぶ戎橋。