振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「令和2年度ウィキペディアタウンin行田(Trial Version)」に参加する

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(写真)行田足袋。

2020年(令和2年)10月31日(土)、埼玉県行田市で開催された「令和2年度ウィキペディアタウンin行田(Trial Version)」に参加しました。

 

 

1. イベント概要

今回のイベントは行田市立図書館が主催し、NPO法人ぎょうだ足袋蔵ネットワークが共催しています。コロナ禍で開催されたため「Trial Version」であり、参加者の一般募集は行っていません。参加者は総合学科を有する埼玉県立進修館高等学校 - Wikipediaの生徒であり、本イベントは「行田学」と題した探究学習の一環でもあります。今回の題材となった足袋蔵とはこの地域の伝統産業である行田足袋の保管庫のことであり、「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」として日本遺産にも認定されています。日本遺産という制度は地域の固有性(オンリーワン)や優位性(ナンバーワン)を評価する制度だという話がありましたが、足袋製造において日本最大のシェアを占めるのが行田市であり(ナンバーワン)、足袋の保管庫が現存している事実上唯一の自治体(オンリーワン)でもあるようです。

主たる講師は埼玉県在住のウィキペディア管理者であるAraisyoheiさん、京都府の高校司書として普段から高校生と関わっている伊達深雪さんですが、私(かんた、Asturio Cantabrio)も講師に加えてもらいました。

なお、行田市立図書館が作成した2種類のチラシはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)で提供されています。アオリ補正を行った足袋蔵の写真もCCライセンスで提供されており、イベントの編集対象となった記事「足袋蔵 - Wikipedia」に用いています。

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(左)チラシA。(右)チラシB。CC BY-SA 4.0。行田市立図書館

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(左)行田市立図書館。(右)図書館内の会場。

 

2. まちあるきする

行田市立図書館に集合し、AraisyoheiさんからWikipediaの仕組みやルールなどの説明を聞きます。その後マイクロバスとワゴンに分乗し、中心市街地の足袋蔵があるエリアに向かいました。ガイドはNPO法人ぎょうだ足袋蔵ネットワークの中島洋一さん。足袋蔵まちづくりミュージアムで足袋蔵について俯瞰し、その後いくつかの足袋蔵を回って個別の蔵の説明を聞きました。

ミュージアム蕎麦屋・和菓子屋・パン屋などとして活用されている足袋蔵もあります。川越市の蔵とは違って足袋蔵は市街地に点在しており、構造は土造・石造・煉瓦造・モルタル造・木造・鉄筋コンクリート造と様々です。大部分は足袋の保管庫としての役目を終えており、市内に70-80棟も現存するということに驚いたのですが、NPO法人ぎょうだ足袋蔵ネットワークの尽力によるところが大きいようです。

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(写真)足袋蔵まちづくりミュージアム

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(左)ミュージアムで話を聞く参加者。(右)NPO法人ぎょうだ足袋蔵ネットワークの中島洋一さん。足袋蔵の内部。

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(左)蕎麦屋として活用されている忠次郎蔵。(右)呉服屋の店蔵だった十万石ふくさや行田本店。いずれも登録有形文化財

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(写真)十万石ふくさや行田本店で写真を撮る参加者。

 

3. Wikipediaを編集する

再びマイクロバスやワゴンで行田市立図書館に戻り、午後はパソコンでWikipediaを編集します。今回の編集対象記事は「足袋蔵」の1記事。足袋蔵について同級性などに説明することを想定してもらい、Araisyoheiさんが「どんなことを説明するべきか」と問いかけます。伊達深雪さんが議論の進行役となり、参加者にひとりずつ当てたりして意見を出してもらいます。こうして足袋蔵の定義や重要な要素について考え、続いて記事に必要な節構成も話し合いました。

「特徴」「歴史」「構造」「保存と利活用」「現地情報」の各節を一人ずつ担当し、図書館が準備してくれた文献を各自が読んだうえで、引率の先生や講師のサポートを受けながら記事を編集しました。

講師や行田市立図書館の職員も編集に関わっています。参加者が文献を読んでいる間に、私は記事の骨格のみを掲載した初版を投稿。複数の参加者が一つの記事を編集するときにありがちな編集競合を避けるために、全体編集ではなくセクション編集を行ってもらいました。

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(左)準備された文献。(右)パソコンで編集中の参加者。

 

講師や図書館員も含む参加者が撮影した写真は、Wikimedia Commonsの以下のカテゴリに収容しています。足袋蔵の写真(Category:Tabigura)はイベント前に7枚だったのが現在は74枚に、行田足袋の写真(Category:Gyoda Tabi)はイベント前に5枚だったのが現在は61枚に、いずれも大幅に増加しています。私も足袋蔵や行田足袋に関する約100枚の写真をWikimedia Commonsにアップロードしています。

Category:Tabigura - Wikimedia Commons

Category:Gyoda Tabi - Wikimedia Commons

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(写真)Category:Tabigura - Wikimedia Commons

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(写真)行田市立図書館によって提供された足袋蔵の写真。アオリ補正済。CC BY-SA 4.0。行田市立図書館
 

4. まとめ

題材

足袋蔵 - Wikipediaという題材はとても面白かった。ぐぐれば定義は理解できる、しかし詳細な解説をしているサイトはほぼ存在しません。"歴史"・"産業"・"建築"・"観光"など各分野にまたがっており、Wikipedia記事を書くには図書館の資料が必要、文献収集は図書館員の腕の見せ所、という題材でした。

・寺社仏閣などは "歴史" 要素が強く、ガイドの説明を聞いたり文献を読んだりして題材を理解するのが容易ではありません。参加者の予備知識の有無によって満足度が大きく変わってしまう傾向があり、ウィキペディアタウンの題材としては難易度が高い印象を持っています。"産業" や "地理" 要素が強い題材は要点をつかみやすく、まちあるきで視覚的な情報を得ることがWikipedia編集の際にも役立つような印象があります。

 

イベント進行

・進修館高校は行田市の高校であるものの、足袋蔵を見たのは初めてという参加者ばかりでした。「足袋蔵」は「行田足袋」から派生した題材。ガイドから足袋蔵の説明を受ける前に、ポプラディアなどで行田足袋の概要を頭に入れておけばよかったかもしれません。

・参加者が高校生ということで、事前に準備する文献はできるだけ絞り、(重い)自治体史と(軽い)パンフレットの数冊程度にしたほうがよかったかもしれません。参加者は引率の先生のサポートを受けながらパソコンに打ち込んでいましたが、先生の指導が情報の授業(ショートカットキーの使い方など)のような雰囲気を感じる場面もありました。文献を読んで自分の言葉でまとめるという、ウィキペディアタウンの本質的な点に目を向けてもらうのは難しい。