振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

福智町図書館・歴史資料館「ふくちのち」を訪れる(2)

ayc.hatenablog.com

 8月10日には福智町図書館・歴史資料館「ふくちのち」を訪れました。(その1)のつづき。ようやく1階から2階に上がります。館内については広報ふくちのフロアガイドも参照してください。

http://www.town.fukuchi.lg.jp/pdf/kouhou/170401/p02_09.pdf

 

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このブログにおける写真は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 3.0 非移植 ライセンスの下に提供されています。撮影者は「Asturio Cantabrio」です。ただしオリジナルサイズの写真の多くはCategory:Fukuchinochi - Wikimedia Commonsにアップロードしています。

 

 

 

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 (写真)2階から見た1階中央部と吹き抜け。

 

 

炭鉱に関する展示

 2階への階段を上がると、両側と正面には炭鉱に関する展示物が置かれていました。 ガラスケース入りの石炭もありましたが、直接さわれるむき出しの石炭もあります。隣にはおてふきが置かれていたものの、本を汚される可能性を考えると勇気がある展示。私にとって筑豊地方は社会の授業で習った「筑豊炭田」のイメージしかないのですが、筑豊の子どもたちにとって炭鉱とはどんな存在なんだろう。福智町にあった炭鉱では旧方城町の方城炭鉱の閉山年は1964年、旧赤池町の赤池炭鉱の閉山年は1970年ということで、炭鉱が稼働していたのは半世紀も前のことです。

 「炭鉱の小道」の裏はグループ学習室。座席は8席で両側がガラス張り。この町の規模を考えると中高生よりも大人の利用が多いかもしれません。

 

 公式サイトの「ふくちのちができるまで」によると、ふくちのちに近い赤池ニュータウンはかつてボタ山だったらしい。Google Earthでふくちのち周辺を見た時には赤池駅南西側のソーラーパネル群に気を取られましたが、このメガソーラーが立地している丘もボタ山だということには気づきませんでした。「ふくちのちができるまで」のまちあるきシリーズには赤池マーケットヤダレという何やら興味深い単語が登場する、ことに気付いたのは愛知に帰ってきてからです。

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 (左・右)「炭鉱の小道」。2階に上がってきた利用者が必ず目にする展示。展示の裏はグループ学習室。

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(写真)展示物。中央は手に取ってさわれる石炭。

 

2階南側の開架

 炭鉱に関する展示を中心にして、2階南側の回廊には文学以外の一般書が置かれています。各書架の中央通路側の側面には、それぞれの分類にあった漫画が置かれていました。ふくちのちの開館時の蔵書数は約5万冊で、ほぼすべて開架にあるようですが、6類の棚などは蔵書数の少なさを感じてしまいます。

 2類の236(スペイン)は計5冊。スペインに関する本が3冊、ポルトガルに関する本が2冊ありました。『ハプスブルク・スペイン 黒い伝説』(筑摩書房)と『喜望峰が拓いた世界史』(中央公論新社)は昨年から今年にかけて出た新刊ですが、5冊のうち2冊がこれなのか。各国の歴史については河出書房新社の「ふくろうの本」シリーズ、スペインやフランスなどの主要国の歴史は明石書店の「世界の教科書」シリーズが置かれています。

  ふくちのちの建物は福智町役場赤池支所(元の赤池町役場)をリノベーションしたとのことですが、言われなければ役場だったとは気づかないほど手が加えられている様子。赤池町役場はいつ竣工したのか気になりました。特に2階は役場だった時の様子が想像できなかったのですが、改修工事の写真が掲載されている館長日記を見ると劇的に変化しているのがよくわかります。

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(写真)2階南側の開架。(中)こち亀が置いてある3類の書架の側面。

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 (左)0類の棚。(右)236 - スペインの棚。

 

 

サイレントルーム

 2階南側の開架から時計回りに進むと、「サイレントルーム」という名称の読書室があります。ここはかつて福智町議会議場だった部屋で、椅子や机はもちろん「教育長」などの札もそのまま残されています。堅苦しい雰囲気で落ち着かないという方もいそうですが、ふかふかの椅子で鑑賞できる映画上映会は他館ではまねできない。公式サイトによると大人向け/子ども向け/乳幼児向けが毎月各1回ずつあり、7月からの2か月間の上映作品は以下のとおり。図書館による映画上映会としてはかなりの頻度です。

 筑豊地方にある常設の映画館はTOHOシネマズ直方だけのようです。『君に届け』(2010年公開)と『信さん 炭鉱町のセレナーデ』(2010年公開)は劇場公開時にも上映されたと思いますが、『きっと、うまくいく』(日本での劇場公開は2013年)は筑豊地方初上陸なのでは。素晴らしい映画です。

君に届け』(7/8、大人向け)

トムとジェリー 花火はすごいぞ』(7/15、子ども向け)

『かわいいミッフィー』(7/22、子ども向け)

『きっと、うまくいく』(8/12、大人向け)

『銀河がマロを呼んでいる』(8/19、子ども向け)

『ルルロロいろ』(8/26、乳幼児向け)

『信さん 炭鉱町のセレナーデ』(9/9、大人向け)

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(左)議長席からの視点。(中)教育長席。(右)議員席。

 

 

2階の歴史資料館ゾーン

 サイレントルームからさらに時計回りに進むと、1階にもあった歴史資料館ゾーンが2階にもあります。上野村(現・福智町)出身の音楽家である河村光陽、この地方の伝統工芸である上野焼(あがのやき)の展示がありました。Wikipedia記事「上野焼」は2016年11月24日に開催されたミニウィキペディアタウンで加筆された記事です。その時には文章だけの記事だったのですが、今年3月にはロシア人(?)利用者によってロサンゼルス・カウンティ美術館所蔵の徳利の写真が追加されて見栄えがよくなりました。

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 (左)河村光陽の展示。(右)上野焼の展示。

 

 

和室

 2階の歴史資料館ゾーンのそばには開放的な和室があります。ふくちのちではエリアごとに形の違う照明器具を使っていますが、ここでは丸い照明でほのぼのした雰囲気です。他館の畳コーナーは奥まった場所にあって学生の勉強場所になっていることも多いですが、ふくちのちでは畳コーナーに来るとのんびりとした気分になる。後で訪れた時にはお昼寝中の方がいました。

 フロアガイドを見るとわかるように、この建物にはかなり大きな吹き抜けがあり、1階で子どもが遊ぶ声は2階にも聞こえてきます。しかし、この和室部分も含めた2階の四隅に来ると雑音がぴたりと止みます。北東側の角では和室の壁、南西側の角ではグループ学習室、南西側の角では書架が音を遮る役割を果たしているようです。※隣接県の某TSUTAYA図書館では設計だけで外部からの音を聞こえなくしたスペースがあると宣伝していますね。

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2階北側の開架

 和室から更に時計回りに進むと、2階北側は9類の開架。スタッフのおすすめ本のコーナーや特集展示などもありました。

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(写真)2階のふくちのちカウンター。左側は自動貸出機。1階と2階に1台ずつ(だと思う)。

 

 

ふくトラ広場(YAコーナー)

 2階南東側の角はふくトラ広場(YAコーナー)。ヤングアダルト用の本や座席があるほかに、階段状の台とその正面の黒板が目に付きます。2016年夏には中高生が一週間も合宿して図書館の使い方を考えたとかで、他館のとってつけたようなヤングアダルトコーナーとは本気度が違う感じです。大学のラーニングコモンズに似た雰囲気がありますが、ホワイトボードではなく黒板なのが公共図書館的です。階段状の台でうまい具合に死角をつくっていますが、2階南側の書架からの一体感もあります。

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(左)黒板。椅子がかわいい。手前は台。(右)黒板の向かいにある階段状の台。

 

 

まとめ

 ふくちのちの館内をぐるりと回って各コーナーを紹介してきましたが、絶対的な蔵書数が少ないこともあって書架以外の部分に目が行きます。いちばん印象に残ったのは1階のものづくりラボです(ただし写真を撮るのを忘れました。あ~)。

 私の地元の愛知県でも、この6月1日に開館した安城市図書情報館が3Dプリンターを導入しました。塩尻市立図書館や山中湖情報創造館でどう使われているのかは知らないのですが、奥まった作業室に設置されている安城市図書情報館の3Dプリンターは限られた利用者のためのものに見えます。

 ふくちのちでは3Dプリンターが開放的な「ものづくりラボ」にあり、安城市図書情報館とはものづくり系機器を設置している意味合いがまったく違うように感じました。8月には11回も「工作チャレンジ」という子ども向けのものづくり教室が開かれており、(実際には使わなかったとしても)手の届く場所にこれらの機器が置かれている部屋でやるものづくり教室はこどもの想像力に大きな影響を与えているのではないかと思います。

 

 本ブログに掲載した写真にはほとんど利用者の姿が写っていませんが、実際には巨大ダンボール迷路の周りを走って遊ぶ子ども、床に直接座って本を読むやんちゃな風貌の少年、カフェで友達とおしゃべりする女子中学生、畳コーナーでいねむりするおじさん、サイレントルームで長時間読書するおじさんなどがいました。ふくちのちの淡い色合いの什器、裾が色鮮やかなカーテンなどからは、家にいるような安心感を感じます。

 ふくちのちは全国から注目を浴びている図書館ではありますが、TSUTAYA図書館のように全国的な知名度を持つ図書館には感じられない、「町民のための図書館」の雰囲気を感じました。ふくちのちができるまでの過程は今後生まれる町立図書館には大いに参考になるのだろうともいます。