振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「ウィキペディアタウンin美浜」に参加する

(写真)美浜町の特産品であるへしこ。

2022年(令和4年)10月1日、福井県三方郡美浜町で開催された「ウィキペディアタウンin美浜」に参加しました。

 

1. イベント概要

1.1 主催者・協力者

主催者は美浜町立図書館ですが、図書館の方以外にも様々な立場の方が関わっています。

事前準備やイベント進行の協力として、なびとしょ栞Lib(しおりぶ)、福井県立図書館、チーム福井ウィキペディアタウン。さらに3つの題材それぞれの協力者として、若狭国吉城歴史資料館の大野康弘館長、美浜町教育委員会美浜町レガッタ担当者、へしこ料理研究家の伊達美鈴さん。加えてWikipediaの編集講師として、edit Tangoの伊達深雪さん、東京ウィキメディアン会のかんた(私)が参加しています。

(写真)イベントのチラシ。

 

1.2 イベント趣旨

美浜町立図書館の基本理念は「町民の暮らしに役立ち、未来を照らす図書館」。"地域の発見、調べること、書くこと、発信することの楽しさを体験してもらう" ためにウィキペディアタウンが開催されました。会場は美浜町立図書館が入る美浜町生涯学習センターなびあすの多目的室です。

2021年(令和3年)3月13日には小浜市で「ウィキペディアタウンin小浜」が開催されています。この際の主催者は福井県立若狭図書学習センター・福井県立図書館であり、美浜町と同じくチーム福井ウィキペディアタウンが協力しています。美浜町福井県内で5回目、嶺南地域では2回目のウィキペディアタウンです。

(写真)美浜町立図書館が入る美浜町生涯学習センターなびあす。

 

1.3 スケジュール

午前中にまちあるき、午後に文献調査やWikipedia編集というのは一般的なウィキペディアタウンと同じですが、まちあるき要素には工夫がなされていました。「佐柿」「美浜町レガッタ」「へしこ」という3つの題材のうち、歩いて巡ったのは佐柿の街並みのみであり、75分というまちあるき時間も控えめです。その後は会場のなびあすに戻り、美浜町レガッタについては美浜町教育委員会の方に、へしこについてはへしこ料理研究家の方に説明を聞いて、題材に対する興味を膨らませていきました。

 

10:00-10:15 主催者挨拶

10:15-11:30 佐柿界隈のまち歩き

11:30-12:00 美浜町レガッタとへしこに関する説明

12:00-13:30 昼食

13:30-14:00 編集方法などに関する説明

14:00-16:00 文献調査・Wikipedia編集

16:00-16:30 成果発表・講評・記念写真

 

2. まちあるきと講義

2.1 佐柿のまちあるき

まずは各自の車で若狭国吉城歴史資料館に移動。大野康弘館長のガイドで佐柿の街並みを巡りました。この資料館は「国吉城と佐柿の街並み」がテーマであり、城だけではなく城下町についても取り上げているのが特徴です。なお、今回は資料館自体には入館していません。

(写真)若狭国吉城歴史資料館。

(写真)国吉城があった城山。

 

大野康弘館長の説明で気になったのは「明治初期の佐柿には三方郡役所も警察署も小学校もあった」という点。現在の佐柿にはひとつも残っていないし、それらの存在を感じさせる規模の集落ではありません。ウィキペディアタウンで取り上げる意義のある集落だと感じました。

集落の中心には丹後街道が折れ曲がる地点があります。かつてこの辻には高札場があり、この地点から東側が武家地、西側が町人地でした。辻の北西角には佐柿の街並みでひときわ目立つ小畑家住宅があり、かつては造り酒屋だったそうです。立町川に沿って北上すると若狭国吉城歴史資料館があります。

(写真)佐柿の街並み。丹後街道が折れ曲がるこの地点には高札場があった。

(写真)日吉神社で大野康弘館長の説明を聞く参加者。

(写真)佐柿の街並み。かつて関所もあった丹後街道。

 

2.2 美浜町レガッタとへしこの講義

まちあるきから会場に戻り、美浜町教育委員会の方による美浜町レガッタの講義と、へしこ料理研究家の伊達美鈴さんによるへしこの講義を聞きました。それぞれ近年の美浜町が推している題材ですが、講義を聞いたことで深い歴史の存在を知りました。

(写真)へしこ料理研究家の伊達美鈴さんによるへしこの講義。

 

2.3 へしこ弁当

昼食はへしこをふんだんに使った弁当。焼いたへしこや生のへしこ(刺身)などの一般的な食べ方はもちろん、へしこをソースに使ったパスタ、へしこを混ぜたチヂミのたれ、へしこを混ぜたディップなどがありました。なお、へしことはサバの糠漬けのことであり、西洋料理におけるアンチョビに似た使い方ができます。

昼休み中には「へしこ工房 女将の会」代表の加藤美樹子さんからも話を聞くことができました。美浜町日向(ひるが)にある民宿の女将4人による事業所だそうで、輸入したノルウェー産サバを日向湖畔で漬けて出荷しているとのこと。美浜町のへしこは漁村である日向を中心に製造されています。

8月には個人的に美浜町を訪れ、「日向 (美浜町) - Wikipedia」と「早瀬 (美浜町) - Wikipedia」の集落記事を作成しています。日向についてはまずまずバランスよく書けたと思っていましたが、へしこ製造という重要な産業を見落としていました。ウィキペディアタウンで説明を聞きながらまちを歩いたり、キーパーソンの話を実際に聞いてわかることは多い。

(写真)へしこ弁当。

 

会場にはへしこちゃんも登場。"樽に漬けられているサバ" というシュールな姿ですが、「ゆるキャラアワード2009」でグランプリを獲得している実力者です。中の人はサバの口から外を見ているようです。

(写真)会場で踊るへしこちゃん。

 

3. Wikipedia編集

3.1 Wikipediaの講義

文献を手に取ったりパソコンを開く前に、edit Tangoの伊達深雪さんからWikipediaの特徴や編集方法に関する講義を聞きます。Wikipediaに関する説明や講評については伊達深雪さんと私(かんた)で役割分担をしています。

(写真)伊達深雪さんによるWikipediaの講義。

(写真)ウィキペディアタウンの様々なねらい。

 

3.2 Wikipedia編集

参加者の希望によって「佐柿」、「美浜町レガッタ」、「へしこ」(へしこちゃん)の3グループに分かれて編集を行いました。私は佐柿のグループに入って文章の作成や編集サポートなどを行いました。編集の方向性については事前に伊達深雪さんと相談し、レガッタについては「美浜町」の記事に加筆する方向で検討していましたが、講義や準備された文献から単独記事化が可能だと判断したようです。

 

昼休み中には佐柿のグループの事前準備として、記事の骨格だけ列挙したものにTemplate:工事中を貼り付けて投稿していますが、日向や早瀬の記事を作成していた経験が役立ちました。

佐柿のグループはWikipedia編集経験者が多かったため、単純に節ごとに役割分担を行いました。日吉神社についてはAさん、小畑家住宅についてはBさん、准藩士屋敷跡についてはCさんというように担当を決め、全体編集ではなく節編集を行うことで編集競合を回避しています。Wikipedia未経験者の方はテキストエディタ上で文章を書いてもらい、Wikipediaに投稿する段階でフォローに入って出典を付けました。

佐柿のグループには佐柿在住のなびとしょ栞Lib(しおりぶ)の方も加わってくださいました。地元の方がグループにいてくれるのはとても心強く、「国吉城がある"御嶽山"は何と読むのか?」(正解は "おたけやま")など、ちょっとした疑問につまづくことなく文章の作成ができました。

(写真)会場に準備された文献。

 

3.3 編集記事

佐柿 - Wikipedia(新規作成) - 2022年10月5日にメインページ掲載

美浜町民レガッタ - Wikipedia(新規作成)

へしこ - Wikipedia(加筆)

へしこちゃん - Wikipedia(加筆)

(写真)3グループに分かれた会場。

 

3.4 編集サポート、修正と加筆

地理節と歴史節については担当がいなかったため、私が文章を作成しています。これまでに20以上の集落記事を作成しており、集落記事に書くべきことがある程度わかってきました。地理節と歴史節の主な参考文献は『角川日本地名大辞典』であり、さっと図書館で閲覧して文章を作成しました。事前に準備された文献以外の文献を閲覧しやすい環境は助かります。

寺社や町並みの写真は誰よりも多く撮り、昼休み中にWikimedia Commonsにアップロードしました。また、まちあるき時に訪れていない青蓮寺と圓行寺についても、寄り道して撮ったものをアップロードしています。イベント開始時点のCategory:Sagaki, Mihama - Wikimedia Commonsには国吉城の写真が8枚あるだけで、城下町である佐柿の寺社や街並みの写真は1枚もありませんでしたが、私が撮ってアップロードしたのが約25枚、他の参加者がアップロードしたものが計10枚程度あり、一機に佐柿の写真が充実しています。

 

複数の参加者がひとつの記事を編集するウィキペディアタウンでは、出典表記方法のずれは必ず発生します。例えば、佐柿のグループにおける参考文献として佐柿国吉ブックレットの1巻『佐柿の街並み』や2巻『佐柿の寺社と町家』がありますが、AさんとBさんとCさんで異なる出典表記方法になりました。これらの修正はWikipedia講師の役割だと思っており、イベント後には他の部分も併せて記事の修正を行っています。

Aさんが追加した出典

美浜町教育委員会 『佐柿の寺社と町家~見どころ編2~』美浜町教育委員会、2015年、7頁。

Bさんが追加した出典

美浜町教育委員会 『佐柿の寺社と町家~見どころ編2~ 佐柿国吉ブックレット 歴史の町・佐柿の章 第2巻』美浜町教育委員会、2015年3月30日、14-15頁。

Cさんが追加した出典

美浜町教育委員会「佐柿国吉城ブックレット 歴史の町・佐柿の章 第一巻 佐柿の町並み~見どころ編一~」12~13項、2013

また、修正と同時に全体のバランスを整える加筆も行いました。ウィキペディア内の推薦と投票を経て、10月5日には「佐柿」がメインページに掲載されています。メインページは1日約50万ビューの閲覧回数があるページであり、メインページに掲載されると作成した記事の閲覧回数が劇的に増えるほか、誤字脱字の修正なども行ってもらいやすくなります。「佐柿」については今後も加筆を行っていきます。

 

4. まとめ

とてもおもしろいイベントでした。「佐柿」「美浜町レガッタ」「へしこ」という題材は完全に分野が異なっています。イベントの進行次第で参加者の集中力が散漫になりかねない題材ですが、それぞれ専門家に話を聞けたことでどれかに偏ることなく参加者が分散しました。どの題材も美浜町の "推し" の強さを感じたし、それぞれに深い歴史があることを知ることができました。イベント終了後にも参加者による修正や加筆などが行われており、題材選択のうまさを感じています。