各地のミニシアター
旅行したときにはその土地のミニシアターを訪れる。
函館ではシネマアイリスで、札幌ではシアターキノで、福岡ではKBCシネマで、大分ではシネマ5で映画を観た。札幌ではシアターキノ(狸小路)と蠍座(札幌駅北)のどちらに行こうかと迷ったが、結局シアターキノで『屋根裏部屋のマリアたち』を観た。
「次に札幌に来る時には蠍座」と決めていたが、蠍座は2014年12月で閉館となった。この2016年夏には『札幌の映画館<蠍座>全仕事』(寿郎社、952ページ、4860円)が刊行された。大きな書店に行くと映画コーナーで存在感を放っている。
函館・五稜郭そば。繁華街から一歩引いた住宅街のアパート1階にあるシネマアイリス。『かぞくのくに』を観た。撮影者:DecKeYE。CC BY-SA 4.0。
鹿児島市の映画館
鹿児島市にはミニシアターが1館、シネコンが3施設ある。ミニシアターのガーデンズシネマに加えて、ティ・ジョイ系列のミッテ10、TOHOシネマズ与次郎、天文館シネマパラダイス。天文館シネマパラダイスはシネコンといえども、事業費の4割が国や鹿児島市からの補助金。富山市のフォルツァ総曲輪に近い。
日本最小、座席数39席のミニシアターがガーデンズシネマ。天文館シネマパラダイスとガーデンズシネマはそれぞれ、天文館と呼ばれる繁華街にある。
何年か前に鹿児島を訪れた。天文館シネマパラダイスとガーデンズシネマの番組編成を見比べて、天文館シネマパラダイスにノルウェー映画を観に行った。大西洋ではなく大平洋を航海(実質的には漂流)する話だった。シネマパラダイスは繁華街にあるが、驚くほど客が少なかった。公費の投入が問題視されるのも当然だと思った。
天文館シネマパラダイス。撮影者:At by At。CC BY-SA 3.0。
『39席の映画館』
藤井さんのFacebookで、2016年4月に刊行された『39席の映画館』(燦燦舎)という本のことを知った。2010年に開館したガーデンズシネマについての書籍で、著者は「ガーデンズシネマ部」。上映した作品のコラムが3/4を占めており、残りの1/4は支配人の黒岩美智子さんが映画館の歩みを書かれている。
黒岩さんは1958年生まれ。鹿児島大学を卒業後に鹿児島でOLをしていたが、1989年に上京して東京テアトルの子会社に勤めた。1995年に鹿児島に戻ると天文館の映画館は衰退しており、2006年には2館が閉館したことで映画館がなくなった。
黒岩さんは2007年に自主上映団体「鹿児島コミュニティシネマ」を立ち上げる。2010年に三越鹿児島店がマルヤガーデンズに生まれ変わる際、マルヤガーデンズに常設映画館の設置を決意する。映画館設立の経緯はシネマ尾道の河本清順さん(女性)に似ている。
巻末には開館後に行ったイベントの一覧が掲載されている。2014年度までの5年間でざっと200近いイベントを開催している。監督や俳優の舞台挨拶/トークイベント/ティーチインはもちろん、映画評論家や鹿児島大学の教授を招いた講演会や、上映作品に関連するイベントが多数ある。ただの展示会は少なく、ゲストを招いて話をさせるイベントが多い。
開館時の手持ち資金は10万円、初回上映作品の観客数は1人、開館時のスタッフは専任1人(黒岩さん)とパート2人、座席数はデジタル対応している映画館では日本最小の39席。この規模のミニシアターがこれだけのイベントを開催していることに驚いた。
『39席の映画館』を刊行しているのは、鹿児島県の燦燦舎という出版社。著者の「ガーデンズシネマ部」は、映画館の常連が集まってワイワイ楽しむ緩やかな団体らしい。刈谷日劇の「語る会」の発展版をイメージしている。
2010年開館当初のマルヤガーデンズと2016年のマルヤガーデンズ。この中に映画館がある。蔦が伸びたがタクシーは変わっていないらしい。撮影者:Sanjo。CC BY-SA 3.0。