振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

WikipediaLIB@信州#02【小諸編】に参加する(2)

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WikipediaLIB@信州#02【小諸編】に参加した記録。(その1)のつづき。

 

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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編集ワークショップ

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(写真)この日用意された文献。

 

 WikipediaLIB@信州は長野県の図書館に焦点を当てたエディタソンということで、今回の編集対象記事は以下の7記事です。

 県立長野や松本市は大規模自治体の図書館。市立小諸や中野市立は長い歴史を有する館。その他の3館は新規作成で、市立岡谷は現行館が日本図書館協会建築賞を受賞している点、池田町図書館は新館の建設が計画されている点、松川町図書館は「図書部員」というユニークなボランティアがいる点で編集対象に選んだと聞きました。主催者は地域的なバランスや自治体規模(小規模自治体の館も編集対象に入れる)も考慮しています。

県立長野図書館 - Wikipedia(加筆)・・・北信

松本市図書館 - Wikipedia(加筆)・・・中信

市立小諸図書館 - Wikipedia(加筆。第1回で作成した記事)・・・東信

中野市立図書館 - Wikipedia(加筆。第1回で作成した記事)・・・北信

市立岡谷図書館 - Wikipedia(新規作成)・・・南信

池田町図書館 - Wikipedia(新規作成)・・・中信

松川町図書館 - Wikipedia(新規作成)・・・南信

 

 主催者は参加申込時に所属館/所属団体とWikipediaの編集経験を聞いています。これをもとにイベント当日までにグループ分けを行い、参加者は指定された記事を編集することになりました。ウィキペディアの編集経験者を各グループに分散させたり、図書館員が自館を編集しないようにしたり(小諸図書館の職員は小諸図書館を編集するグループには入らない)といったこと以外に、リーダーシップの取れる方を分散させたりもしていたかもしれません。 前回は各グループに6人前後がいましたが、今回は各グループ4人。やはりこのイベントの適正人数は1グループ4人程度だと思います。

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 (写真)ワークショップの進行も小澤さん。

 

 WikipediaLIBが他のウィキペディアタウンと異なるのは、主な参加者に「ウィキペディアタウンを開催したい図書館員」を想定していること。一般市民の参加も可能ですが、今回も前回と同じく2/3程度の参加者は図書館員。図書館員の研修に近い性格を持っているようです。

 ワークショップの2時間は主催者によって「記事の構成を考える時間」、「必要な出典を考える時間」、「PCに打ち込んでいく時間」に分けられています。これによって参加者が何をすべきか(≒イベント主催者は参加者に何をさせるべきか)明確になり、その時間の作業に集中できる効果があると思われます。イベントによってはワークショップ中の時間の使い方をまったく制限しないこともありますが、WikipediaLIB方式のほうが「イベントの空気になじめずに終わってしまう参加者」を出さずに済む気がします。

 各グループにはホワイトボードが用意されました。記事の構成についてグループ内で議論しながらボードに書き込んでいくことで、主催者側としても各グループの進捗状況を把握するのに役立ちます。

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(写真)各班の作業風景。

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(右) 外からもイベントの様子がよく見える部屋でした。

 

松川町図書館」のグループ

 今回の編集対象となった7記事のうち、明らかに難易度の高い記事が2記事ありました。池田町図書館 - Wikipedia松川町図書館 - Wikipediaです。概して町立図書館は歴史が浅く、サービスの規模も小さいため文献に残りにくいものです。特に松川町図書館のグループは文献集めに苦戦しているようだったため、ウィキペディアンの小賢しいテクニックで少しでも見栄えのする記事にしたいと思い、少しだけこのグループの編集に加わりました。文章自体にはノータッチ。

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(画像)「松川町図書館」の初版。ワークショップ終了2時間前。

 

 私はWikipediaの記事で写真や図を重視しています。今回は松川町図書館の写真を掲載することができなかったため、「長野県における松川町の位置を示す地図」、「松川町中心部における図書館の位置を示す地図」を掲載することとしました。

 結局写真を掲載するには至らず。図書館の知り合いに電話して今すぐに撮ってきてもらうという妙案、図書館の絵を描いて写真の代用とするという珍案もありましたが、最終的にはイベント2日後にグループのメンバーが現地で撮影した写真が掲載されました。イベントが終わってからも(ウィキペディアン以外のメンバーの)編集が続いたのは池田町・市立岡谷と松川町だけです。

 

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(左)ワークショップ終了1時間前の「松川町図書館」。(右)ワークショップ終了時の「松川町図書館」。

 

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(地図)OpenStreetMapより作成した松川町中心部の地図。左の図→右の図の順に地図を書いていった。

 

成果発表

 加筆したグループでは、「県立長野図書館」のグループは「PTA母親文庫」について、「松本市図書館」のグループは既存の文章への出典の追加と分館について、「中野市立図書館」のグループは既存の文章への出典の追加と歴史について、「市立小諸図書館」のグループは出典の追加と、各グループが1つか2つのポイントに絞って既存の記事の質の向上に取り組んだことがわかります。

 新規作成したグループでは、「市立岡谷図書館」のグループは建物について大セクションを設けた上で館内の写真を効果的に用いています。「池田町図書館」のグループも松川町同様に苦戦した様子がうかがえます。新館移転についての記述はワークショップの時間内に書ききれなかったとのこと。NDLサーチでも長野県内図書館横断検索サービスでもめぼしい文献がヒットしませんが、池田町図書館のOPACでヒットする『池田町図書館十年のあゆみ』(池田町図書館にしか蔵書がない?上に貸出不可)と『図書館雑誌』1983年9月号(池田町図書館の新館紹介?)が気になりました。

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(写真)各班の成果発表。

 

まとめ

 3月の前回に引き続き、私Asturio Cantabrioもイベント中に30分の時間をもらって前でしゃべらせてもらいました。とてもありがたいこと。プロの図書館員の方々に聞いてもらう価値がある話だったかどうかは怪しいのですが、1回目よりは多少マシだっただろうと振り返っています。

 前回・今回のイベントに参加したAさんによると「WikipediaLIBは図書館員の研修の場、ウィキペディアタウンは図書館員の研鑽の場」(大意)。研修だけで終わってしまっては意味がありません。今回のWikipediaLIBがどこかの地域でウィキペディアタウンの開催につながることを期待しています。

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(写真)平賀館長によるまとめではちずぶらりが登場。

WikipediaLIB@信州#02【小諸編】に参加する(1)

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(写真)会場の市立小諸図書館。

 

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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再び小諸市を訪れる

 2017年8月19日(土)、県立長野図書館が主催する「WikipediaLIB@信州#02【小諸編】」に参加しました。3月20日に開催された「WikipediaLIB@信州」は県立長野図書館を会場としていましたが、今回は長野市を飛び出して東信の市立小諸図書館を会場としています。

 前日8月18日の長野県は不安定な天気。局地的な豪雨でJR中央西線大糸線が止まりました。まちあるきで少々の雨は気になりませんが、どしゃぶりや横殴りの雨はスケジュールにもモチベーションにも影響します。

  18日の夜には県立長野図書館で開催された「県庁夜講座」を見学しました。その後はKumi Asakuraさんに上田まで送ってもらい、長野市よりも小諸市に近い上田駅前のホテルに泊まります。3時頃に起きだして原稿の準備に取り掛かりました。明け方から空は明るく、時間が経つにつれて晴れ間も見えてきました。

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(上の写真)当日朝7時の上田駅。(下の地図)佐久地域の地図。OpenStreetMapより。

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午前中の様子

 9時頃に小諸図書館に着きました。7月に訪れた時は完全に曇天だったのですが、晴天だと図書館の屋根裏側に使用されている木材や芝生が映えます。小諸駅から歩いてきた人は誰もが目にする三角形部分は小布施町立図書館まちとしょテラソに似ている。

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(左)こっちは小諸の図書館。(右)こっちは小布施の図書館。

 

 10時にイベント開始。前回よりは人数が少なく、見知った顔も多いので安心します。県内では上田市飯田市公共図書館、県内の大学図書館学校図書館、県外では福井県や東京都や千葉県の公共図書館などからも参加者がいました。小諸図書館の職員さんも何人か編集グループに入ってくださっています。

 主催者である県立長野図書館の平賀館長の挨拶、開催間である小諸図書館の小泉館長の挨拶、県立長野図書館の篠田さんによる開催趣旨説明と続き、午前中のメインはらっこさんによるウィキペディア/ウィキペディアタウンの講義です。

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(左)主催者である県立長野図書館の平賀館長。(右)開催館である市立小諸図書館の小泉館長。

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(写真)会場の様子。司会進行は県立長野図書館の小澤さん。

 

 らっこさんの講義でいちばん気になったのは、「北井伸宏」という架空の自転車競技選手の記事について。この人物の記事は2014年5月にWikipediaに作成され、3年間も存続していたものの、2017年7月3日にtwitter上で架空の選手ではないかと指摘されると、7月6日にはWikipedia:削除依頼/北井伸宏 - Wikipediaにかけられ、一週間後の7月12日にはもう削除されたということです。だれでも参加できるというWikipediaの特性を利用して悪意のある参加者も紛れ込むこともある。けれどコミュニティの力で少しずつ改善が図られる、ということを象徴する出来事だったようです。

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(写真)らっこさんの講義。40分の予定がなぜか20分に?

 

 らっこさんの講義の後、10時55分から11時25分までが私の出番でした。主催者の県立長野図書館からはざっくりと「あなたにとっての図書館」について話してほしいと言われていたので、好きなことを話していいのだろうと都合よく解釈し、「図書館と写真、図書館とWikipedia」について、「図書館をひらくこと」という視点での話をしました。

 私のトークで使用したスライドと原稿は下のリンクから。人前で話すのはやはり苦手。口をパクパクさせて苦しんでいるフナみたいな感じでした。ウィキペディアタウンを自分で主催、もしくは地域のウィキペディアタウンに協力しようとする人の参考になればいいなあ。

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小諸のまちあるき

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(上の地図)今回のまちあるきコース。OpenStreetMapに加筆。(下の地図)配布されたコース図。

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 7月に初めて小諸に来て驚いたのは、小諸駅から徒歩10分圏内に見どころが集まっていること。ポイントとポイントを自動車やバスで移動するのではなく、歩いて見どころを訪れる意味のある町だと思いました。

 今回はまちあるき前にコース図が配布されました。これはとても良かった。どれくらいの距離を歩くのか、どんなスポットを訪れるのかを頭に入れてから歩くことができました。まちあるきに慣れていない人や膝の痛みを抱えている人などにとっては、開催告知の段階で大まかな距離やコースなどを知りたいものです。

 

 まずは小諸駅のすぐ南側にある小諸義塾記念館。1894年(明治27年)に長野県最初の図書館である小諸図書館が設置された建物です。この図書館は小諸義塾の閉塾とともに1906年(明治39年)には閉鎖されます。

 懐古園入口にある三の門は国指定重要文化財。7月に訪れた時にはこの門をくぐって懐古園を歩き、藤村記念館に入って閉館時間までねばりました。今回のまちあるきでは懐古園に入ることなく線路をくぐって北上します。

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(左)小諸義塾記念館の解説を聞く参加者。(右)小諸義塾記念館。

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(写真)懐古園入口の三の門。重要文化財

 

 小諸駅の北側には「停車場ガーデン」「せせらぎの丘」と呼ばれる公園があります。駅前にこれだけ広い公園があることを不思議に思っていたのですが、かつては操車場や建物・道路があったとか。長野新幹線の開通後に中心市街地が衰退したことが、公園をつくる余裕につながったのかもしれません。

 7月に来た時には小諸図書館で「小諸キネマ - Wikipedia」と「小諸中央映画劇場 - Wikipedia」についてのレファレンスを行いました。1993年に閉館した小諸中映は大手門南側の駐車場にあったそうです。文献上では1980年代の住宅地図で所在地を確認していましたが、実際に歩いてみるとその存在を身近に感じます。小諸駅前から伸びる相生町商店街からは、スナックやら居酒屋やらが集まる路地を歩いた先に映画館があったようです。

 三の門とよく似た大手門は北国街道からすぐの場所にあります。「東日本を代表する大手門建築」であり、2008年に復原修理が完了したそうです。休日には2階に上がることも可能。観光客の姿がほとんど見られなかったのが不思議なくらい立派な建築物です。

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(右)線路北側の大手門。重文。

 

 小諸市中心市街地を囲むように北国街道が通っています。地図で見ると主要な道路のように見えますが、自動車は少なく歩きやすい。ほんまち町屋館などの観光施設はあるものの今回は素通り。まちあるき後半では藤村旧栖地の石碑と小諸学校跡の石碑で解説を聞きました。北国街道のあたりからは40人の集団が間延びし、移動に時間がかかりました。ガイドを務めてくださった図書館の方にはつらかったかも。図書館近くにはかつて図書館が置かれていた「小諸学校跡」の石碑があります。また2015年まで旧図書館があった場所(現在は小諸商工会議所駐車場)も見えます。

 Wikipediaに図書館記事を書く際には「旧館がどこにあったか」文献で調べることは容易ではなく、常に悩まされています。「小諸学校跡」の石碑はこもろプラザ建設の際に移動しているようす。また、小諸義塾記念館も移築された建物であり、かつての場所とは異なるようです。このあたりは家に帰ってからぐぐった程度ではわからず、まちあるきの際にガイドさんに聞いておけばよかったと思いました。

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(写真)北国街道。車は少なく歩きやすい。

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(左)島崎藤村旧栖地の石碑。(右)小諸学校跡の石碑。

 

  60分のまちあるきのあとはお昼ごはん。参加申込段階でお弁当の斡旋がありました。地元産食材をふんだんに使った地元の店のお弁当だそうです。お弁当を注文せずに、近くの店まで蕎麦などを食べに行った方もいたようです。

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(左)ケーブルテレビの取材を受ける平賀館長。(右)地元の食材を使ったおべんとう。

 

その2に続きます。

WikipediaLIB@信州#2【小諸編】で使用したスライドと原稿

 8月19日の「 WikipediaLIB@信州#2【小諸編】」では、10:55から11:25(30分間)の時間をもらい、参加者の前で話をさせてもらいました。その際のスライドと原稿のようなものです。ただし準備不足で2/3くらいしか原稿が完成していなかったため、「3 図書館とウィキペディア」についてはしゃべったことを後から文字にしたものです。

 

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www.slideshare.net

 見出し

1 ロバと図書館

1.1 自己紹介

1.2 これまでに訪れた図書館

2 図書館と写真

2.1 カーリルスタンプラリーへの記録

2.2 Google マイマップへの記録

2.3 Wikimedia Commonsへのアップロード

3 図書館とWikipedia

3.1 記事「多治見市図書館」

3.2 記事「高梁市立図書館」

4 まとめ

 

 

1. ロバと図書館

1.1 自己紹介

自己紹介。東京ウィキメディアン会、関西ウィキメディアユーザ会、オープンデータ京都実践会という団体に所属し、ほかの講師であるらっこさんやくさかさんと同じく趣味としてWikipediaに関わっている個人。現在は愛知県に住んでいる。(スライド1)

 

「かんた」というのはWikipediaのアカウント名に由来するニックネームであり本名ではない。2014年春からWikipediaに参加しており、その年の12月に初めてウィキペディアタウンに参加した。その時は京都に住んでおり、京都ではオープンデータ京都実践会という団体が3カ月に1回位の頻度でウィキペディアタウンを開催している。2014年や2015年はウィキペディアタウンが全国に広まりつつある年だった。京都でウィキペディアタウンに何度か参加してみて、ほかの地域のイベントの内容が気になり、2016年春からはいろんな地域のウィキペディアタウンに参加してみることにした。(スライド2)

 

こうやって参加してみる中で、このイベントはまだまだ発展途上、各地域で少しずつスタイルが違うということがわかってきた。もっとウィキペディアタウンを広めたい、特に図書館の方に知ってもらいたいと思っている。ウィキペディアタウンの告知とか開催報告とかはFacebook上で活発に行われているが、私は参加するたびにブログに参加レポートを書いている。(スライド3)

 

2014年末からの3年弱でいろんなウィキペディアタウンに参加した。関西のイベントは主催者も参加者もみんなで楽しもうという意識が強い。一方で関東のイベントはWikipediaの理念やイベントの主旨をしっかり理解しようという意識が強い。この地域差は主に講師を務める方のスタンスの違いによるものであり、長野は関東に近く、私の住んでいる愛知は関西に近い。京都では市民団体がイベントを主催しているが、図書館が中心的な立場にいるとうまくいく。そんな中で瀬戸内市の嶋田さんや伊那の平賀さんと出会い、京都府立図書館の是住さんも含めて「図書館の世界にはおもしろい方がたくさんいる」ということに気づく。このようにまずは図書館の中の人に興味を持ち、そのあと図書館自体にも興味を持つようになった。(スライド4)

 

今回私が前で話をしているのは、主催者から見て私は図書館の使い方が少し変わっているからだろう。私は主に調べもののために図書館を使う。私の場合は調べたことを他の人と共有する。特にウェブ上のWikipediaに書いて共有するために図書館を使っている。Wikipediaを編集する人としてウィキペディアタウンに関わるようになったので、オープンデータという観点から図書館の情報発信が出きないかと思った。具体的には、図書館に行って写真を撮る、あるいは図書館に行ってその図書館自身のことを文献で調べ、その後Wikimedia CommonsやWikipediaで公開する、ということをしている。(スライド5)

 

1.2 これまでに訪れた図書館

6枚目から10枚目のスライドは、私が「図書館と写真」というテーマで取り組んでいることの紹介。図書館に興味を持つようになった昨年以降、あちこちの図書館を訪れて写真を撮った。6枚目のスライドは伊那市立図書館と松本市中央図書館。7枚目の左上は小布施町のまちとしょテラソ。右下はいま我々がいる市立小諸図書館の書架。8枚目の左上がぎふメディアコスモス、右下がTOYAMAキラリ。いずれも2015年に開館した。9枚目は瀬戸内市民図書館「もみわ広場」の館内と、同じ岡山県高梁市図書館の入口。10枚目の左上は京都府福知山市立図書館中央館。右下は私地元愛知県に6月に開館したばかりの安城市図書情報館。いま見せた写真には建物を外から撮った写真と図書館内の写真の2種類がある。図書館の情報を公開するという観点で館内の写真はとても重要だと思っているため、一般人ではあるが図書館の館内の写真を撮っている。(スライド6-10)

 

2 図書館と写真

2.1 カーリルスタンプラリーへの記録

ここからは撮った写真をどうするかについて。撮った写真を後から見返すとその図書館の記憶がよみがえってくるわけだが、撮った写真を自分のパソコンにしまっておくのはもったいないと考えている。そこで、ブログやFacebookなどに図書館の写真を掲載することに加えて、二次利用がしやすいサイトに写真をアップロードして、見るだけではなく使ってもらえないか。そのうちの一つが図書館検索サイトカーリルのサイト内にあるカーリルスタンプラリーというページ、ただし最終的に行きつくのはWikipediaの姉妹サイトであるWikimedia Commonsであると思っている。ここにおられる方にはカーリルについて説明するまでもない。カーリルスタンプラリーというのは全国の図書館好きが図書館の写真をアップロードしたりコメントをしたりするページ。マイページには今までに訪れた図書館を記録して地図化することもできる。これは私のマイページと訪れた図書館の地図。(スライド11-14)

 

図書館についてコメントする機能では、市立小諸図書館についてもコメントが掲載されている。ただ現時点ではたった2件しかコメントが書き込まれていない。これを図書館の中の人が知ると悲しくなるので、きょう家に帰ったら小諸図書館の印象をコメントしてあげてほしい。(スライド15)

 

2.2 Google マイマップへの記録

カーリルスタンプラリーのほかに、私はGoogle マイマップでも訪れた図書館の記録を管理している。誰でも見られるページとして「図書館での写真撮影の許可状況」というページを作成しているので検索してみて。私が訪れた図書館が「写真撮影についてどのような対応を取っているか」という観点も含めた地図。青色は館内での写真撮影が認められた図書館。赤色は写真撮影を禁じている図書館です。黄色は写真撮影は可能だけど、SNSなどに掲載を断られた図書館。(スライド16-18)

 

青や黄色や赤のマーカーをクリックすると、簡単なコメントが出てくる。TOYAMAキラリの場合は写真撮影申請書があり、申請書に記入すると腕章を渡してくれる。スライド左側上の写真は二次利用可能なライセンスでアップロードしている写真。逆にこれは写真撮影を断られた図書館の例。愛知県の瀬戸市立図書館では、「規則で決まっているので写真撮影はお断り」と言われた。残念。(スライド19-20)

 

2.3 Wikimedia Commonsへのアップロード

TOYAMAキラリも瀬戸市立図書館も、キャプチャ画面の左下にはWikimedia Commonsへのリンクを貼っている。このリンクをクリックすると、Wikipediaの姉妹プロジェクトであるWikimedia Commonsに飛ぶ。Wimedia Commonsの「Category:Toyama KIRARI」には私がTOYAMAキラリで撮影した写真が何十枚かアップロードされている。例えば書架の写真、OPACの写真、建物の外観の写真などがある。Wikimedia Commonsの一番の特徴は「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」であること。著者名さえ表示すれば、ブログでもFacebookでも自由に掲載することが可能。つまり「Category:Toyama KIRARI」にある写真はすべて二次利用可能ということ。(スライド21-24)

 

この7月には静岡県立中央図書館の床のヒビ割れが問題となった。私が2016年に撮ってWikimedia Commonsにアップロードしておいたこの写真はデイリー新潮の記事に掲載された。写真の右下には、この写真の引用元がWikimedia Commonsであること、写真の著者が「Asturio Cantabrio」であることをきちんと書いてくれている。(スライド25)

 

こちらの写真は、2016年に撮った安城市中央図書館の写真です。利用者も多いし雰囲気のよい図書館であることがわかる。この図書館は2017年1月に閉館してしまい、もう館内の写真を撮ることができない。撮れる時に写真を撮っておく、そしてできるだけ二次利用しやすいライセンスでアップロードしておく。(スライド26)

 

こちらはこの市立小諸図書館の写真。小諸図書館の公式サイトには館内の写真が何枚も掲載されていますが、公式サイトよりもいろいろな場所の写真をWikimedia Commonsにアップロードしている。(スライド27)

 

3 図書館とWikipedia

3.1 記事「多治見市図書館」

今までは図書館の写真をWikimedia Commonsに上げることについてだった。次は図書館にある図書館の文献の情報をWikipediaに書いて記録することについて。私が書いたWikipediaの記事「多治見市図書館」と「高梁市図書館」を例に挙げる。スマホタブレットなどを持っている方はWikipediaの記事をざっと眺めてみて。図書館の歴史について公式サイトでわかることは多くない。ウェブ検索して得られる情報も少ないが、小諸のように歴史のある都市の図書館は面白いエピソードを持ってることも多い。近年の取組みは脇役程度に、歴史に重点をおいて書いたWikipediaの記事が「多治見市図書館」や「高梁市図書館」。

 

多治見市図書館は2015年にLibrary of the Yearを受賞した館。山ほどある陶磁器コレクションをひとつひとつ足で稼いで集めたことが評価された。最近の取組みは横に置いといて、私は歴史について調べました。すると、図書館が設立されたのが1947年という戦後すぐの時期だったこと、図書館の設立を提唱したのが一般市民だったこと、この厳しい時期に多くの寄付や寄贈があったことが分かった。『週刊たぢみ』に掲載された文章にはハッとさせられる。(スライド28-30)

 

3.2 記事「高梁市立図書館」

高梁市立図書館は2017年2月に新館がTSUTAYA図書館として開館した。CCC絡みで批判されることも多い図書館だが、歴史や文化は岡山県有数の町である。備中松山城の城下町には早くから藩校があり、岡山県で2番目に設置された図書館があった、ということが図書館の文献からわかる。スライド32は2017年の新館開館時の報道。(スライド31-32)

 

4. まとめ

今回の私の発表は午後の編集ワークショップに役立つものではない。しかし皆さんが地元でウィキペディアタウンを開催するときに少しでも役に立てばと思う。

「沼津市立図書館」を加筆する

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このブログにおける写真は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 3.0 非移植 ライセンスの下に提供されています。撮影者は「Asturio Cantabrio」です。ただしオリジナルサイズの写真の多くは今後Category:Numazu City Library - Wikimedia Commonsにアップロードします。

 

沼津市立図書館を訪れる

 Code for Numazuが主催するWikipedia Town 沼津にはなかなか参加できていないものの、この7月には静岡県東部の沼津市立図書館を訪れた。地上4階・地下1階建、延床面積11,440m2という圧倒的なボリュームに驚いた。静岡県では唯一10,000m2を超えている図書館だそうで、愛知県で言うと豊田市立中央図書館(12,500m2)や名古屋市鶴舞中央図書館(11,300m2)に近い。静岡県の延床面積のランキングは静岡県立中央図書館(8,800m2)、富士市立中央図書館(8,800m2)、静岡市立南部図書館(7,200m2)、浜松市城北図書館(6,500m2)とつづく。静岡市浜松市も、中央館がいちばんではないのですね。沼津市立図書館の中身についてはそれほど魅力を感じなかったものの、広い郷土資料室から図書館の歴史の古さを感じた。

 8月12日には別の方によってWikipediaに「沼津市立図書館 - Wikipedia」という記事が作成された。宣伝のためにメインページに掲載すべく、まずは8月15日、次に9月2日をめどに加筆を行うことにした。初版作成者のYaritsusozaiさんやその後加筆している SigureUさんはWikipedia Town 沼津の運営側の方でしょうか。

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 (写真)知恵の象徴であるフクロウをモチーフにしている外観。

 

 

沼津市立図書館の歴史

 沼津市の図書館サービスは、1888年明治21年)に小学校長の間宮喜十郎が中心となって設置された沼津尋常小学校付属沼津文庫に始まる。沼津市は沼津文庫が「静岡県で初めて設立された公立図書館」であると主張している。沼津文庫は太平洋戦争の沼津空襲で焼失し、1952年には沼津市が図書室「沼津文庫」を設立。1962年には図書館「沼津市駿河図書館」が開館した。「駿河」という名称は建設費を寄付した岡野喜太郎駿河銀行会長、現在のスルガ銀行)に因むもの。1993年には現行館「沼津市立図書館」が開館した。

 

 なお、静岡県では1915年(大正4年)に設立された熱海市立図書館 - Wikipediaが「静岡県に現存する最古の図書館」を自称している。熱海市の図書館は戦後に空白期間がない(戦中に休館していた時期はある)。熱海市は「戦後の7年間は沼津市に図書館が存在しなかった」ととらえているんだろう。沼津市熱海市も歴史が古いことには違いない。熱海市立図書館を訪れたことはないが、沼津と同じく歴史の古さは伝える価値があると思ったので、愛知県図書館から熱海市立図書館に何冊か相互貸借した上で、2016年9月に記事を作成した。 

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(写真)3階から吹き抜けを通して見た2階・1階。

 

 

加筆前の記事

 私が加筆する前の記事は、公式サイトの「図書館の概要・沿革」をほぼそのままWikipediaにコピーしている。事実の羅列にすぎないので著作物たりえないという判断なのだろう。著作権のことはよくしらない。この方法だと文章は図書館が提示した情報だけなので、面白みに欠けるものの、重要な歴史をもらさないので手堅い。

 

 記事の範囲や記事名をどうするかは悩ましい。公式サイトを見ると「沼津市立図書館」という組織があるように見える。沼津市には「沼津市立図書館」と「沼津市立戸田図書館」の2館があるので、組織としての沼津市立図書館と館名としての沼津市立図書館がややこしい。

 一方で、図書館条例の名称は「沼津市図書館条例」であり、かつて「沼津市立図書館条例」だったものを現行館開館時にわざわざ改称している。正確な組織名は「沼津市図書館」なのだろう。とすれば、Wikipediaの記事名は「沼津市図書館」とすべきなのかもしれない。

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(写真)沼津市名誉市民コーナー。5人。新しい順に大岡信長倉三郎井上靖芹沢光治良岡野喜太郎

 

 

加筆する

 沼津市立図書館公式サイトの「図書館の概要・沿革」では起点が1952年になっているし、私が加筆する前の記事でもそうなっていたが、郷土資料室で調べた限りでは歴史を1888年からはじめている文献が多い。そんなわけでWikipediaでも1888年から1945年までをざっくり「前史」という節とした。「沼津文庫」は単独記事が成立する分量が書けるので、いずれ分割したほうがよいかもしれない。

 歴史節や基礎情報などの骨格がしっかりしているので、この骨格に『沼津市新図書館建設基本構想』や新聞記事でバランスよく肉を付けていくことを心掛けた。沼津市立図書館を訪れた時には静岡新聞データベースを使う時間がなかったので、のちに磐田市立図書館を訪れた時にデータベースを使わせてもらった。余談だが、磐田市立図書館のコピー機は10円玉にしか対応していない。350円分の文献をコピーする際に1000円札を10円玉100枚に両替してもらったものの、コピー終了後に650円分65枚もの10円玉が残ってしまって困った。

 全国的に知られた図書館でない限り、図書館で探せる文献は『沼津市図書館網に関する基本調査』『沼津の教育 平成28年度』などの固い文献に限られる。おもしろいエピソードはたいてい新聞記事にあり、その地域の大きな図書館には必ずある静岡新聞岐阜新聞信濃毎日新聞山梨日日新聞などのデータベースはとても役に立つ。京都新聞神戸新聞などは図書館で使えるデータベースがないようなのが残念。

 1993年7月の開館から1か月間の「貸出・返却図書総数」は浦安市立図書館を上回って日本一だったらしい。「貸出・返却図書総数」なる基準は初めて聞いたが、開館すぐということで貸出数と返却数に大きな差があったらしい。新聞記事にありがちなうさん臭い記述だとは思ったけれどWikipediaに書き加えた。1998年2月には公式サイトを開設するとともにOPACも開始。貸出や返却がリアルタイムに反映されるOPACは当時としては珍しかったらしい。2018年度からは指定管理者制度が導入される予定だったが、2016年に市長が交代して白紙になったいう。

 

 沼津文庫の設立にかかわった間宮喜十郎 - Wikipedia駿河図書館の建設費を寄付した岡野喜太郎 - Wikipedia沼津市立図書館にとって重要な人物だと思い、単独記事を作成した。沼津市名誉市民第1号でもある岡野についてはコトバンク(日本人名大辞典)に記述があり、沼津市ウェブサイトでも顕彰されている。間宮についてのまとまった情報は、ウェブ上ではWikipediaが初めてだ。

 

「沼津文庫」の蔵書は一部が沼津市立図書館に引き継がれている。図書室「沼津文庫」の建物がまだ残っているのかどうかはウェブでは判然とせず、沼津市立図書館にレファレンスしてみたい。TRCほんわかだよりや建築系雑誌はまだ確認していない。写真のアップロードも含めてまだまだ加筆中。

 しかし沼津市立図書館の公式サイトに掲載されている館内の写真にはエプロンを着たいかにも図書館員という感じの女性職員しかいないし、懐かしい髪型だし重そうなパソコンを使ってる。公式サイトのデザインは変化していても、写真は1998年に公式サイトを立ち上げた時のものを使いまわしているんだろうな。

 

館内の写真集

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(写真)1階。一般書、児童書。1階東側には低い書架が並んでおり「1階東低」。

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(写真)1階の新刊コーナー、2階の特集コーナー。

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(写真)2階。姉妹都市/友好都市コーナーと研究室。1993年に研究室は先駆的だったのでは。

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(写真)2階。一般書・参考書。途中で厚みが変わる書架。

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(写真)2階。郷土資料室。コピー機はA2対応。

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(写真)3階。AVコーナーは圧巻の量。

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(写真)4階。ホールや学習室などがある階。