振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

Wikipediaに地味な図書館の記事を作成する

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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10月以降、Wikipediaに愛知県内の11の図書館記事を作成した。ほんとうは、公表する手段はWikipediaでなくても、個人のブログでもサイトでもなんでもいいのだけれど。下にWikipediaの記事とWikimedia Commonsへのリンクを掲載している。

大半は愛知県の中でも地味な図書館。「地方病 (日本住血吸虫症) - Wikipedia」のような、心に残る逸話で読者を引き込むような記事にはできない。ぐぐっても出てこない図書館の歴史をウェブに出すことを意識した。誰でも真似でき、少ない労力で及第点の成果物を作成するための、汎用性のある手法を確立させることを意識した。

 

記事「豊明市立図書館」や記事「知立市図書館」を例にすると、

まずは①自治体史(『豊明市史』『知立市史』)やそれに類する文献で図書館にとっての重要な年月日(開館年や移転年)を押さえ、②自治体広報誌(『広報とよあけ』『広報ちりゅう』)で当時のエピソードを拾っていく。③地域写真集(『写真集 明治大正昭和 知立』)、④新聞データベース(中日新聞記事データベース)で肉を付ける。⑤公式サイトから基礎情報テンプレート内(蔵書数とか延床面積とか)や利用案内の表(貸出冊数とか開館時間とか)を作成し、⑥図書館外観の写真を添えて完成とした。

この過程のうち①②③⑥はその図書館を訪れて行った。④は大規模館を訪れた際にまとめて行い、⑤は自宅で行った。できるだけ頭を使わず、複数の記事を同時進行で完成させた。

 

愛知県の自治体数は54、うち48自治体に公共図書館があるらしい。図書館未設置自治体は大治町豊山町南知多町設楽町東栄町豊根村。48自治体のうちWikipediaに作成済なのは41自治体で、うち27自治体は私が新規作成したか、既にある記事に加筆した。残りは7自治体。2018年末までにゆるゆると作成したい。なお、48自治体の公共図書館(主にその自治体の中央館)には2017年中にすべて訪れた。

 

 

 

市立図書館

犬山市立図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8A%AC%E5%B1%B1%E5%B8%82%E7%AB%8B%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Inuyama_City_Library

北名古屋市図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E5%90%8D%E5%8F%A4%E5%B1%8B%E5%B8%82%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Kitanagoya_City_Library

豊明市立図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%8A%E6%98%8E%E5%B8%82%E7%AB%8B%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Toyoake_City_Library

知立市図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A5%E7%AB%8B%E5%B8%82%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Chiryu_City_Library

弥富市立図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A5%E5%AF%8C%E5%B8%82%E7%AB%8B%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Yatomi_City_Library

岡崎市立額田図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A1%E5%B4%8E%E5%B8%82%E7%AB%8B%E9%A1%8D%E7%94%B0%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Okazaki_City_Nukata_Library

 

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(左上)犬山市立図書館。(中上)北名古屋市東図書館。(右上)豊明市立図書館。

(左下)知立市図書館。(中下)弥富市立図書館。(右下)岡崎市立額田図書館。

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町村立図書館

蟹江町図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9F%B9%E6%B1%9F%E7%94%BA%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Kanie_Public_Library

東郷町立図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E9%83%B7%E7%94%BA%E7%AB%8B%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Togo_Town_Library

美浜町図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%8E%E6%B5%9C%E7%94%BA%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Mihama_Town_Library_(Aichi)

設楽町民図書館(※図書館法における公共図書館ではない)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%AD%E6%A5%BD%E7%94%BA%E6%B0%91%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Shitara_Town_Library

飛島村図書館

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E5%B3%B6%E6%9D%91%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8

https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Tobishima_Village_Library

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(左上)蟹江町図書館。(中上)東郷町立図書館。(右上)美浜町図書館。

(左下)設楽町民図書館。(右中)飛島村図書館。

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木曽町図書館を訪れる

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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このブログにおける文章・写真は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 3.0 非移植 ライセンスの下に提供されています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。写真はCategory:Kiso Town Library - Wikimedia Commonsにアップロード済です。

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 クリスマスイブに長野県南部の木曽町図書館(きそまちとしょかん)を訪れました。木曽町図書館は2017年9月20日に開館したばかりで、木曽郡では初となる図書館。木曽町中心部にある木曽町文化交流センターの1階にあります。蔵書は約4万冊と少なめですが、カフェ、貸出用PC、Wi-Fi、新聞データベースなど、都市部の先進的な新館に負けないサービスをしている。新館なので明るくてきれいなのは当然ですが、館長さんは雰囲気の良さも生み出しています。

 

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(写真)図書館のエントランス部分。木曽青峰高校インテリア科の生徒による作品。

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(写真)一般書の書架。

 

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(写真)「ほん? ほん!」

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 (左)「リレー企画おすすめの一冊」。(右)「木曽町と発酵」などの常設展示。

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(左)蔵書検索用PC。(右)データベース用PC。

 

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 (写真)児童書のフロア。

 

 

木曽町にあった映画館について探る

初めて訪れる図書館では、その図書館自身の歴史について、もしくはその町にあった映画館について調べる。地域資料をどれだけ作成/収集しているか体感できるし、レファレンスをする場合は職員の力量を知ることもできる。

 

映画館数がピークを迎えた1960年、全国には7,457館の映画館があった。『全国映画館録1960』によると長野県には121館。長野市に16館、松本市上田市にそれぞれ7館。長野県郡部には47館あり、西筑摩郡には6館。福島町(現在の木曽町中心部)には「木曽映画劇場」と「福島映画劇場」の2館があった。この2館について調べてみる。

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(写真)『全国映画館録1960』より西筑摩郡の映画館。「三留野町」は「読書村」の誤りだと思われる。

 

開館したばかりの木曽町図書館の蔵書数は多くなく、地域資料コーナーは日本十進分類法を崩している。まずは『木曽福島町史 第2巻 現代編』(木曽福島町、1982年)をめくり、「娯楽」「映画館」などの単語で探る。映画館について自治体史で詳細に言及している自治体もある。

次に『写真集 明治大正昭和 木曽路』(国書刊行会、1978年)などの地域写真集をめくる。木曽映画劇場の写真が掲載されており、開館日が「1951年10月1日」であること、現代の感覚では珍しい「町営」の映画館であることが分かった。

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(写真)『写真集 明治大正昭和 木曽路』より木曽映画劇場。

 

福島町の歴史年表が掲載されている文献もあたる。『飛躍のあしあと 木曾福島町町制百周年記念誌』(木曽福島町、1993年)にも『-木曽路』と同じ写真が掲載されていた。

町営の施設だったということで、福島町の社会教育や公共施設について書かれた文献にもあたる。『木曽福島公民館 六十年の歩み』(木曽町木曽福島公民館公民館長 井口利夫、2006年)には、竣工日が「1951年9月18日」であること、同時に役場庁舎と保育所も竣工したこと、福島町公民館に隣接していたこと、1962年頃には映画館が公民館としても利用されていたなどがわかり、映画館と公民館を並べて写した写真や、1965年3月末で閉館することを伝える新聞記事などが掲載されていた。

 

さて、木曽町図書館には蔵書検索用PCの隣にデータベース用PCが置いてあり、信濃毎日新聞データベースが閲覧できる。データベース用PCを使うのに貸出カードを持っている必要はなく、データベース利用申込用紙への記入も必要ない。1か月1万円程度はするだろう新聞データベース、木曽町図書館の予算で導入するのは勇気がいるのでは。使い方次第で蔵書の少なさをカバーする存在になるだけに、気楽に使える点も含めて感謝したい。

2館の名称などで検索すると、「町内にも映画館 全盛期唯一の娯楽」(1995年11月30日)という記事が見つかった。この記事によると木曽地方には映画館が最大8館あったらしい。福島町の2館に加えて、上松町には上松劇場と木曽中劇の2館が、読書村(現在の南木曽町)にはみどの映劇と蘇南東映の2館が、大桑村には野尻劇場が、王滝村には牧尾劇場があった。『全国映画館録1960』より多い。

 

過去の映画館について調べる時には、文字情報(文章)、写真、位置情報(所在地)の3点について探す。木曽映画劇場については開館年や閉館年についての文字情報、複数の写真が得られたが、位置情報については「公民館の隣」ということしかわからなかった。郡部には古い住宅地図が存在しないので位置情報を得るのが難しい。福島映画劇場についてはほとんど何の情報も得られなかった。自力ではここまで。見つけた文献のコピーを頼み、探し出した情報を整理する。

 

これ以上の文献をを見つけるのは難しいが、特に木曽映画劇場の所在地について知りたく、地元の方の知識を得るべくカウンターで尋ねてみた。この日4人いた中でもっとも年配の司書さんの記憶によると、図書館を出てすぐの上町商店街に映画館があったらしく、また別の地区に別の映画館があったらしい。上町商店街には古い商店が複数残っているそうで、店に飛び込んで店主に話を聞けば正確な場所もわかるかもしれない、とのことだった。

 

ひとまず調査を終えて館内で写真を撮っていると、先ほどの司書さんが「この町の歴史に詳しい」方としてイグチさんを連れてきてくださった。先ほどまで読んでいた『木曽福島公民館 六十年の歩み』の編著者である木曽町木曽福島公民館公民館長の井口利夫さんに直接話を伺うことができ、木曽映画劇場は「上町商店街にある居酒屋養老乃瀧の南隣の2軒分」、福島映画劇場は「ろうきん福島支店」の場所であることを教えてくれた。町営の木曽映画劇場では公共ホールとしての役割も有しており、隣接する公民館と一体的に運用されていたこと、民間経営の福島映画劇場は映画上映専門だったことなども教えてくれた。

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図書館は徒歩1分で商店街という好立地にあるため、併設されている「としょカフェ」は図書館利用者以外にも使いやすい。「としょカフェ」で一休みしてから木曽映画劇場と福島映画劇場の跡地の写真を取りにいき、山村代官屋敷と福島関所資料館を見学してから帰った。上町商店街にあるという居酒屋養老乃瀧はすでになく、店舗の跡地と思われる駐車場があるのみだった。次に長野県内の図書館を訪れた際には、数年以上前の住宅地図を閲覧して木曽映画劇場の正確な場所を特定する必要がある。

 

木曽福島公民館 六十年の歩み』によると、木曽映画劇場が閉館した1965年には福島会館(公民館)が華々しく開館している。図書館のある木曽町文化交流センターの完成で福島会館は役目を終え、現在はちょうど解体工事の真っ最中だった。1960年代に閉館した映画館のことを正確に記憶している方はどんどん少なくなる。その方々の知識を、いまウェブに出さねば、誰かが出さねば、と思う。

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(写真)としょカフェ。かりんのお茶は予想通りクセが強かった。

 

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設楽町民図書館を訪れる

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(写真)設楽町役場の議場・図書館棟。左側の屋根が低い部分が設楽町民図書館。

 

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(地図)愛知県における設楽町の位置。OpenStreetMapより。作者 : OpenStreetMap contributor。

 

 愛知県北設楽郡設楽町までの所要時間は、車を使えば豊橋からも浜松からも名古屋からも1時間30分前後。公共交通機関では豊鉄バスが田口新城線を運行しており、新城市の中心部(新城市民病院)と旧鳳来町の中心部(本長篠駅)と設楽町の中心部(田口)を1日9往復結んでいます。本長篠駅から田口までのバスの乗車時間は約40分、片道920円。

 バスは途中まで豊川本流の隣の谷を通り、稲目トンネルを抜けてからは豊川本流(海老川)と並行して田口に向かいます。バスは標高80mの本長篠駅前から470mの田口まで400m近くも上ります。田口地区は山間に開けた盆地であるものの、500mほど西側にある豊川本流の谷よりは100m近く高いため、今後設楽ダムが建設されても田口地区は水没せずに済むようです(設楽ダムの完成予想図)。

 

田口地区をあるく

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 Google Mapで設楽町田口地区を見ても建物の形は表示されません。OpenStreetMapは建物まで描かれていますが、2014年に移転した設楽町役場やその脇の都市計画道路が反映されていないのが気になり、OSMサーベイもしつつ図書館を目指すこととしました。バスターミナルの前にある休憩所で田口集落の観光パンフレットをもらい、集落を一周してから設楽町民図書館を訪れました。

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(左)豊鉄バスの田口バスターミナル。(右)バスターミナル前の無料休憩所。

 

 田口地区は伊那街道(現在の国道257号線)に沿って発達した町であり、下流側から「本町」、「栄町」、「大田口」の3つの町に分かれているようです。地図には書かれていないのですが、おそらく “鹿島川に架かる田口橋” と “役場北交差点” が3町の境界だと思われます。バスターミナルや「蓬莱泉」で知られる関谷醸造があるのは「本町」。

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(左)関谷醸造の店舗。(右)関谷醸造の本社蔵。いずれも本町。

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(写真)昭和初期までの田口地区の中心地、本町の中心部にある設楽警察署南交差点。

 

 昭和初期以後に発展したらしい「栄町」には旅館が3軒残っているほか、三菱東京UFJ銀行(新城支店田口特別出張所)があったり、書店が2軒あったりします。設楽町役場は2014年の移転の前も後も「栄町」にあります。

 3町の中でもっとも東側にあるのが「大田口」。商店の数自体は3町の中でもっとも多く、また設楽中学校や田口小学校などがあります。

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(写真)「栄町」バス停付近のカーブを別角度から2枚。

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(左)「栄町」と「大田口」を隔てる役場北交差点。(右)大田口。

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(写真)2001年に設楽町内の3中学校を統合して開校した設楽中学校。設楽町役場と同じく伊藤建築設計事務所の作品で地元産木材が多用されている。

 

 田口地区南部の高台には設楽町三河郷土館があります。田口地区のこの建物は2016年9月末で閉館しており入れませんでしたが、旧田口線の車両はまだ展示されていました。2020年には5km下流の清崎地区に新館が開館する予定です。

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(左)旧田口線の車両。(右)設楽町三河郷土館。この建物は2016年9月に営業を終了。

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田口地区の本屋

 田口地区の「栄町」には本屋が2件ありました。福田寺の参道入口に松屋書店が、三菱東京UFJ銀行東側に福沢書店があります。

 松屋書店は2本の書架と3本の通路を持つこじんまりとした本屋。右側の通路の両側は面展を中心とした絵本のコーナーであり、左側の通路の奥には人文科学と社会科学の本がありました。高齢化率が50%を超える町で絵本を主力にしている点、ほとんど売れないだろう学術書に一定の面積を割いている点には挑戦的な印象を受けました。

 もう片方の福沢書店は三菱東京UFJ銀行の横にありますが、店名の看板が掲げられていないため、Google Mapにも記されていません。地図を見て歩かないと見落とすこと必至の書店です。こちらは成人向け雑誌がかなりの面積を占めており、松屋書店では見かけなかった一般向けのコミック雑誌も多い、よくある地方の本屋という感じです。

 おそらく松屋書店のほうが後発。松屋書店の店主は都市から移り住んできた方なのではないかと思いました。福沢書店に不満があって開店させたのでは。

 

 設楽町役場から徒歩3分の喫茶店「花の樹」でお昼ごはんを食べました。役場職員が愛用する店のようで、奥のテーブルではどこかの部署のミーティングが行われていました。

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(左)松屋書店。OSMでは松下書店と誤記されている。(右)福沢書店。三菱東京UFJ銀行の隣。書店はいずれも栄町。

 

設楽町役場

 田口地区の中心部に位置する設楽町役場は2014年1月竣工。北側の役場棟、西側の議場・図書館棟、東側の子どもセンター棟の3施設からなり、それぞれの入口は別ですが内部ではつながっています。

 図書館内で閲覧した住宅地図によると、1990年までこの場所には設楽町立田口小学校があったそう。移転後には木造の校舎は解体されましたが、鉄筋コンクリート造の特別室校舎は残され、1991年に設楽町民図書館(現在と同名)と教育委員会が特別室校舎内に設けられたようです。

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(写真)設楽町役場の内部。地元産集成材を多用。

 

設楽町民図書館

 ようやく設楽町民図書館に着きました。設楽町役場議場・図書館棟の1/3弱が図書館になっています。土足厳禁の図書館は愛知県では他に見たことがありません。床面積は235m2であり、蔵書数は2013年12月時点で16,000冊だそうです。移転前の床面積は75m2だったようです。北側には一般書が、中央にはカウンターや閲覧席が、南側には児童書があります。

  設楽町民図書館(設楽町民図書館条例)は図書館法でいうところの「図書館」ではないので、日本図書館協会刊行の『日本の図書館』には掲載されていません。ただ、ゼンリン住宅地図をコピーできるかどうか尋ねたら、役場内のコピー機で取って来てくれました。よかったのかな(たぶんよくない)。

 館内の写真撮影について尋ねたら、総務課に内線をかけてくれた上で「まったく問題ない」とのことでした。設楽町公式サイトによる図書館紹介ページには写真などいっさい掲載されていませんので、雰囲気を伝える写真を以下に掲載しました。

 

 設楽町民図書館の正確な利用者数はわかりませんが、『図書館だより』最新号を見ると2017年9月は300人台だったようなので、年間に約4,000人、1日に10-15人といったところでしょうか。この日訪れたのは昼休みの時間帯だったこともあり、90分ほどの間に自分も含めて8人の利用者がいました。

 設楽町の人口は4700人ということで、最近訪れた図書館では浜松市天竜区佐久間地区(旧佐久間町、現在の人口3700人)の浜松市立佐久間図書館と地域性が似ていると思われます。設楽町民図書館は「人口が中心地区に偏っている」「新館」「役場に併設」という要素がありながら、利用者数では佐久間図書館よりやや多い程度で、旧館時代と大して変わらない(推測)というのは気になります。

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(写真)図書館内部。床面積の2/3くらいが見えている。右側がカウンター。

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(左)児童書。(右)一般書。

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(写真)右側は新刊本。左側は愛知県図書館貸出文庫。愛知県図書館から定期的に巡回してくるらしい。

 

 

飛島村図書館を訪れる

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(写真)2013年の飛島村図書館。撮影者 : ぽんぽこ。Wikimedia Commonsより。オリジナルはカーリルに投稿されたもの。

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(地図)名古屋圏における飛島村の位置。OpenStreetMapより。作者 : OpenStreetMap contributor。

 

 飛島村について

 台風21号が日本に迫っていた2017年10月21日(土)、海部郡飛島村にある飛島村図書館を訪れた。

 さて、この飛島村は愛知県に2つしかない村のひとつ。もうひとつは愛知=静岡=長野三県境にある豊根村であるが、飛島村名古屋市中心部から南西に15kmという近距離にある。居住人口4,400人は豊根村(1,300人)と東栄町(3,800人)に次いで少ないが、昼間人口は13,000人にまで増える。それは村の南部に名古屋港臨海工業地帯を抱えているから。中部電力西名古屋火力発電所三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所川崎重工業などの事業所がある。飛島村は財政力指数で常に全国1位ということでも知られている。

 

飛島村を訪れる

 飛島村鉄道路線は通っていない。近鉄名古屋線近鉄蟹江駅から飛島公共交通バス(コミュニティバス)が毎時1-2本(平日)の頻度で出ている。コミュニティバスとしてはかなりの高頻度だと思われる。

 海部・津島地域において、蟹江町津島市に次いで1889年に町制を施行した歴史ある町。飛島公共交通バスは蟹江町飛島村を結ぶ最短距離を通らず、蟹江川の自然堤防上に築かれたらしい舟入集落を通る。この集落はかつて空襲を受けたらしい。蟹江川、日光川、善太川、宝川と川を渡る。

 亀ヶ地バス停で何人か下りたのが気になったが、このバス停は旧・十四山村(現・弥富市)の中心地に近いようだ。旧・十四山村の住民にとっては、弥富市コミュニティバス弥富駅まで出るよりも、飛島公共交通バスで近鉄蟹江駅まで出る方が名古屋までのアクセスがよい。平成の大合併時には「弥富町蟹江町・十四山村」の2町1村で協議を進めていたものの、蟹江町が離脱して「弥富町・十四山村」の1町1村での合併を余儀なくされた経緯があるらしい。

 近鉄蟹江駅から約20分で飛島村役場に到着した。なお、飛島村には国道23号と伊勢湾岸道が通っており、車を使えば公共交通機関よりも容易に訪れることができる。

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(写真)近鉄蟹江駅に停車中の飛島公共交通バス。

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(地図)飛島村図書館へのアクセス。OpenStreetMapより。作者 : OpenStreetMap contributor。

 

  地理院地図の色別標高図で飛島村中心部を見てみるとこんな感じ。真っ青。自然堤防上に築かれた集落部分は0mを超えているが、それ以外の部分(農地)は0mから-2mくらい。飛島村役場や飛島村図書館はかつて農地だった場所に建設されているため、役場前の道路にカーソルをあててみると-1.5mという数字が出てくる。役場の建物前には「海抜0m線」と「伊勢湾台風の被災水位線」が示されていた。

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(写真)伊勢湾台風の被災水位が示された飛島村役場。

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(左)飛島村役場。(右)村立小中一貫校の飛島学園。人口4,400人の自治体とは思えないですね。

 

飛島村図書館

 飛島村図書館が入る飛島村すこやかセンターは大規模改修工事の最中で、強い雨が降る悪天候もあって見栄えの悪い写真しか撮れなかった。このエントリーの最上部にある晴天時の写真は、ぽんぽこさんが撮影してカーリルに投稿されたものをWikimedia Commonsに移した。船をモチーフにした外観が印象的で、船の内部には児童書が、奥側には一般書が並べられている。

 他の図書館で調べた結果によると、2016年度の図書資料費は707万円であり、1人あたり図書資料費は1609円/人。全国平均は200円/人強であり、愛知県では断トツのトップ。1人あたり貸出数は16点を超えており、これも愛知県ではトップだ。新着本/準新着本コーナーには過去半年分ほどの購入図書が置かれている。

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(左)飛島村すこやかセンターの全景。正面のモニュメントはクジラがモチーフ。(右)飛島村図書館。

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(写真)飛島村すこやかセンター2階にある飛島村図書館の入口。

 

飛島村図書館について調べる

 さて、いつものように「飛島村図書館」そのものについて調べる。館内の最奥部に地域資料の書架があり、『飛島市史』はすぐに見つかったものの、『図書館概要』各年版が見あたらない。帰ってからOPACを確認すると、18年分が製本された状態(?)でどこかに置いてあったらしい。

 開館前・開館当時の『広報とびしま』は事務室から出してもらった。OPACには出てこないが蔵書扱いになっていないのだろうか。この複合施設は1996年に開館しているが、1995年・1994年頃の『広報とびしま』には抜けが多く、あまり役に立たなかった。

 台風21号の接近中に訪れたこともあって、地域資料の書架にあった伊勢湾台風関連資料をぱらぱらとめくった。飛島村では132人がなくなったそうだ。今年7月に愛知県古文書館で公開された写真などを見ると被害の状況が伝わってくる。1959年の伊勢湾台風からは50年以上が経過しているので、図書館などが所蔵している写真には著作権の保護期間が満了している写真も多いのではないかと思う。

 

 飛島村から帰ってから、中日新聞のデータベースでも飛島村図書館について調べてみる。図書館開館前の1990年、全国の自治体で初めて複製絵画の貸出を開始したのが飛島村だったそうだ。西尾張地方では稲沢市などでも同様の事業を行っている。今では珍しくないサービスだと思うが、発祥地が飛島村だとは知らなかった。

 1997年には14時から16時に限ってインターネットを利用できるサービスを開始したらしい。当時は「同様のサービスを行っている公共図書館は珍しかった」。飛島村は図書館開館当時から書店やレンタルビデオ店がない自治体。インターネットが使える、雑誌の最新号が発売日に読める、視聴覚資料を借りられるというのは重要だ。

 1997年には村内の中部電力西名古屋火力発電所内に企業文庫が設けられたという記事も興味深い。団体貸出制度で常に200冊を常備した上で、企業文庫内に業務用移動端末機を持ち込んで貸出・返却処理を行ったという。このように1990年代には飛島村図書館を取り上げた新聞記事がいくつか出てくるが、2000年代以降にはめぼしい記事がない。

 

写真撮影について

 カウンターには赤色のエプロン姿の女性職員が4人、カウンターからも見える事務室には白シャツにネクタイの男性職員が2人いた。カウンターで写真撮影について聞いてみたところ、対応してくれた職員は「利用者が入らなければいいのではないか」と言いかけてやめ、事務室の職員に可否を尋ねてくれたが、「写真撮影したいという利用者がいますが、写真撮影はだめですよね?」「ええ」というやり取りが聞こえてきた。図書館として明確な規定を定めているのではなく、職員の裁量による判断に聞えたが、どうだろう。

 

複写について

 町村立図書館では職員しかコピー機を触れない図書館も多いと思われるが、飛島村図書館のコピー機は利用者自身が操作できるし、図書館でもっともよく見かける富士ゼロックス製のコピー機には拡大縮小や集約などの機能が付いている。が、コピー機には「拡大・縮小はできません(著作権法)」という注意書きが貼ってあった。

 まさか「著作権法で定められている」などと言われるのではないか気になったので聞いてみたら、案の定「コピー機で拡大・縮小ができないことは著作権法で定められている」と言われた。カウンターの女性職員と事務室の男性職員には同じことを言われたので、この図書館ではこの解釈で長らく対応してきたのだろう。うむ。なるほど。なお、コピー機の前には男性職員2人分の図書館等職員著作権実務講習会修了証が誇らしげに飾ってあった。

 

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 これまでに訪れた図書館の一覧はこちら。飛島村図書館は館内での写真撮影が不可だったので、青色/黄色/赤色/灰色のうち赤色でポイントしました。外観の写真は掲載しています。

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