(写真)上土シネマ。
2022年(令和5年)1月、長野県松本市を訪れました。かつて松本市には多数の映画館がありました。現在は松本シネマライツ8とイオンシネマ松本のシネコン2サイトが営業しています。「松本市の映画館(2)」「松本市の映画館(3)」に続きます。
1. 松本市を訪れる
1.1 松本市街地
松本市は長野県の中信地方にある人口約24万人の町。長野県の中心にあるためいろいろな町への起点となり、松本市に泊まってから安曇野や諏訪などの各地域を観光したことが何度もあります。
(写真)松本城。
1.2 松本市中央図書館
(写真)松本市中央図書館。
(写真)松本市中央図書館。
2. 映画館の文献
日本の映画館数がピークを迎えたのは1958年(昭和33年)ですが、1962年(昭和37年)の航空写真に見られる松本市中心部の映画館は以下の通り。航空写真の範囲からやや西に外れた場所には松本東宝セントラルもありました。
跡地はマンションになった映画館が多いのですが、松本ピカデリーと上土シネマは映画館の建物が現存しています。
(写真)1962年の松本市中心部における映画館。地図・空中写真閲覧サービス
2.1 映画館名簿
1930年の映画館名簿
1930年(昭和5年)の映画館名簿によると、長野県の映画館は計27館であり、内訳は長野市に4館、松本市に5館、上田市に2館などです。
(写真)『日本映画事業総覧 昭和5年版』 国際映画通信社、1930年 ※次ページにも長野県の映画館が1館ある。
1958年の映画館名簿
日本の映画館数がピークを迎えた1958年(昭和33年)の映画館名簿によると松本市の映画館は7館。1960年(昭和35年)に開館する松本ピカデリー以外の映画館が出そろっています。その後は経営者の交代や建物の分割などが行われているものの、1960年(昭和35年)から1992年(平成4年)まで8施設が健在。これほどの数の映画館が30年以上もバランスを保って存続していた町は珍しい。
1991年の映画館名簿
開明座が閉館する直前の1991年(平成3年)の映画館名簿によると、松本市の映画館は7施設計12館でした。1993年(平成5年)には日本の映画館数が戦後最小となり、多くの都市では映画黄金期の館数を下回っていましたが、松本市は複数の興行主による既存興行館であふれているという不思議な都市だったようです。
2016年の映画館名簿
2010年(平成22年)には松本市街地の既存興行館がすべて閉館し、松本市の映画館は郊外の松本シネマライツ8のみとなります。2016年(平成28年)の松本市の映画館名簿では松本シネマライツ8の8館のみ。とはいえ、映画黄金期の1958年(昭和33年)の館数を上回っており、悪い時代だったと考えることには注意が必要です。
2.2 「新・盛り場風土記 松本」
1953年(昭和28年)5月から1959年(昭和34年)4月までの約6年間、キネマ旬報社の映画雑誌『キネマ旬報』には「新・盛り場風土記」という連載が掲載されていました。各地域の映画館事情について、3ページまたは4ページで記述されています。
長野県では1954年(昭和29年)7月上旬号で長野市が、1955年(昭和30年)11月下旬号で松本市が、1957年(昭和32年)5月下旬号で諏訪市が対象となっています。1955年(昭和30年)は全国の映画観客数が急増していた時期であり、松本城の解体修理工事が落成した年だったようです。
(写真)「新・盛り場風土記 松本」『キネマ旬報』1955年11月下旬号。愛知県図書館所蔵。
2.3 『松本の本』第2号
松本市ではまつもと一箱古本市実行委員会が本を主題とするイベントを開催していますが、2019年(令和元年)には実行委員会によって雑誌『松本の本』が創刊され、第1号では古本屋が、2020年(令和2年)の第2号では映画館などが、2022年(令和4年)の第3号では浅間温泉などが特集されています。
(写真)映画特集が掲載されている『松本の本』想雲堂、第2号、2020年。
(写真)映画特集が掲載されている『松本の本』想雲堂、第2号、2020年。
松本市の映画館について調べたことは「松本市の映画館 - 消えた映画館の記憶」に掲載しており、その所在地については「消えた映画館の記憶地図(長野県版)」にマッピングしています。