振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「ウィキペディアタウンin栗山」に参加する

(写真)北の錦記念館。登録有形文化財

2024年(令和6年)10月6日(日)、北海道夕張郡栗山町で開催された「ウィキペディアタウンin栗山」に参加しました。「栗山町の映画館」からの続きです。

 

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1. 栗山町を訪れる

栗山町は石狩平野の東端にある自治体であり、札幌市までの距離は約30kmです。札幌駅まで高速バスの定期路線が運行されていますが、鉄道でのアクセスはやや不便です。

北海道の町について予習すると「誰かが開拓したからそこに町がある」ということに気づかされます。1888年明治21年)に仙台藩角田出身の泉鱗太郎がこの地に入植して角田村が形成され、名称が栗山町になったのは戦後の1949年(昭和24年)のことです。北海道の他地域と同様に、栗山町の市街地も縦横1.5km程度の碁盤の目状に広がっていますが、北海道以外ではほぼ起こりえない都市計画が行われた歴史に身震いします。

 

近代から戦後の空知地域には多数の炭鉱があり、栗山町の歴史を語る上でも炭鉱業は外せません。空知地域と胆振地域にまたがる日本遺産として「炭鉄港」(たんてつこう)があり、今回の題材となった小林酒造/小林家も日本遺産の構成文化財のひとつとなっています。

炭鉱業が衰退した後、栗山町の人口は1970年代から一貫して減少しています。居住人口の減少はこれからも続くでしょうが、栗山町ブランド推進課は関係人口を増やすための取り組みに力を入れており、「ウィキペディアタウンin栗山」もその取り組みのひとつに位置づけられています。

2023年(令和5年)12月に『ウィキペディアまちおこし』を著した伊達深雪さんがイベントのメイン講師であり、私(かんた)ももう一人の講師として参加させてもらいました。

 

2. 施設見学

2.1 小林家

今回のイベントは小林酒造への現地集合でした。小林酒造の敷地内には蔵など多数の登録有形文化財があり、主屋にあたる小林家が見学施設となっています。3代目当主の長女である小林千栄子さんの案内で建物内を見学しました。

「男が酒を造り、女は家を守った。」というテーマ通り、小林酒造における女性史が語られます。玄関には巨大なタペストリーが飾られていますが、これは2代目当主の妻であるチノさんが集めた端切れを3代目当主の妻である榮子さんが縫ったものです。

(写真)玄関のタペストリーの解説。

(写真)玄関のタペストリー。

 

小林家には23もの部屋がありますが、最も大きな部屋は2階の広間です。広間には酒器や膳が並べられた状態で展示されており、可杯(べくはい、盃洗(はいせん)、酒燗器、うぐいす徳利など面白い酒器の解説もありました。

(写真)2階の広間。

(写真)甘酒と干菓子。

 

2.2 小林酒造

後半は小林酒造の蔵見学です。小林酒造では13もの建物が登録有形文化財に登録されていますが、一番蔵と六番蔵に入って蔵人から解説を聴きました。現在の小林酒造は北海道産米にこだわった酒造りをしていますが、かつては近隣の鉱山で働く炭鉱夫向けの安酒を大量生産していたという歴史が興味深いです。

(写真)小林酒造の中庭。

(写真)「北の錦」の酒屋看板。

(写真)蔵見学。

(写真)六番蔵の解説。

(写真)一番蔵の解説。

 

小林酒造では建物によって多様な構造や外壁が興味深い。13棟のうち木造なのは小林家など2棟のみであり、一番蔵など6棟は煉瓦造、北の錦記念館は鉄筋コンクリート造、六番蔵など4棟は木骨石造という聞きなれない構造です。敷地の北側に回ると煉瓦造の蔵と石造の蔵が6棟連続で並んでおり、北海道における歴史ある酒蔵を象徴する景観です。

北の錦記念館は鉄筋コンクリート造ですが、外壁には色むらのある黒タイル(焼過煉瓦)が貼られています。愛知県豊橋市二川町にある黒煉瓦蔵にも似た印象であり、唯一無二の近代建築に見えます。

木骨石造は北海道に多い建築構造であり、木造の骨組みの外側に札幌軟石などを積んだ建物です。札幌軟石は本州における大谷石に似た性質の石材であり、札幌市や小樽市の景観を印象付けている建築材料です。

(左)北の錦記念館の黒タイル。(右)六番蔵の札幌軟石。

(写真)試飲コーナー。

 

3. Wikipedia編集

3.1 Wikipediaの説明

午後の会場は栗山町図書館です。各自で昼食を取りつつ図書館に移動し、まずは伊達深雪さんによるWikipediaウィキペディアタウンの説明を聴きました。

(写真)伊達深雪さんによるWikipediaの説明。

 

3.2 文献

今回のイベントには栗山町図書館の協力も得ています。準備された文献は栗山町図書館の蔵書に加えて、北海道大学附属図書館の蔵書、小林千栄子さんの私物の文献、主催者の私物の文献などがありました。

『栗山町史』や『北海道の近代和風建築』などの手堅い書籍に加えて、『カイ』や『HO』などの郷土雑誌における小林家/小林酒造の特集記事、どうしん記事データベースによる北海道新聞の記事などが多数用意されており、他地域のウィキペディアタウンと比べても文献の多様さと量は別格レベルでした。

(写真)準備された文献。厚いもの。

(写真)準備された文献。薄いもの。

 

3.3 編集記事

「小林家」と「小林酒造」の2グループに分かれて編集を行いました。2人の講師のうち私は「小林家」グループに入り、伊達深雪さんは2グループの双方をサポートするという体制を取っています。

小林家は喫茶が附属する見学施設であり、公式サイトには喫茶の案内や建物の説明などが掲載されています。Wikipediaは百科事典であるため、邸宅が見学施設となった背景などを主軸とした記事構成としています。Wikipedia記事を作成したからと言って観光客が激増するわけではありませんが、公式サイトとは異なる役割を持つページとして閲覧者の役に立つことを期待しています。

 

この2記事に加えて、参加者のひとりが栗山町出身の切り絵作家である「小林ちほ」を新規作成し、私が「小林米三郎」を加筆しており、計4記事が編集されました。

小林家 (栗山町) - Wikipedia - 新規作成。

小林酒造 (北海道) - Wikipedia - 加筆。

小林ちほ - Wikipedia - 新規作成。

小林米三郎 - Wikipedia - 新規作成。

(写真)編集中の参加者。

 

主催者によるまとめ:栗山の百科事典を作ろう|ウィキペディアタウンin栗山

www.town.kuriyama.hokkaido.jp