振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

藤枝市を訪れる

(写真)西野家洋館。

2023年(令和5年)3月、静岡県藤枝市を訪れました。映画館の跡地を巡るのが主目的でしたが、近代建築や県指定/市指定の天然記念物が多数あるのに目を見張りました。「藤枝市の映画館」に続きます。

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1. 藤枝市の近代建築

1.1 とんがりぼう(1901年竣工)

藤枝市は鉄道駅と中心市街地が離れている自治体であり、商店街が連続する中心市街地はJR藤枝駅の約2km北に位置しています。中心市街地のすぐ北には蓮華寺池を中心とする蓮華寺池公園があり、2022年(令和4年)に移築されたとんがりぼう(旧藤枝製茶貿易商館)があります。

もとの所在地は若一王子神社のすぐ西側であり、ちとせ通りにある旧服部歯科医院から路地を北に入った場所にありました。面しているのはちとせ通りの裏通りと言うべき通りですが、かつては藤枝市役所(現・藤枝市シルバー人材センター)があった通りでもあります。

(写真)とんがりぼう。

(写真)とんがりぼう。

 

1.2 藤枝倉庫 石の蔵(1913年竣工)

瀬戸川に架かる勝草橋から藤枝宿東木戸跡付近まで、2km以上に渡って密度の濃い商店街が形成されており、上伝馬商店街、千歳商店街、長楽寺商店街、白子商店街、下伝馬商店街という5つの商店会に分かれています。上伝馬商店街からは2本の通りが西に延びており、茶商が集まる茶町があります。

藤枝倉庫 石の蔵は1913年(大正2年)竣工の蔵であり、壁面には伊豆石が使用されています。2021年(令和3年)に訪れた磐田市掛塚には伊豆石の蔵が多数ありましたが、藤枝倉庫 石の蔵は掛塚の蔵よりもはるかに大きい。2020年(令和2年)に役目を終えてからは利活用の取り組みがなされているようです。

(写真)藤枝倉庫 石の蔵。

(写真)藤枝倉庫 石の蔵。

 

1.3 旧藤枝ノーブル洋裁学院(近代建築)

上伝馬商店街から茶町に向かう途中、西光寺の脇には旧藤枝ノーブル洋裁学院があります。奥まった場所にあって大通りから見えず、ウェブではまったく言及されていないように思われます。

(写真)旧藤枝ノーブル洋裁学院。

 

ピンク色の下見板張りの講義棟(?)、大きな切妻屋根の実習棟(?)が連結しており、 実習棟(?)の南東には気になる煉瓦塀もありました。北東すぐの場所には1969年(昭和44年)まで劇場・映画館「旭光座」がありましたが、旭光座に関係している煉瓦塀でしょうか。

(写真)旧藤枝ノーブル洋裁学院。(左)講義棟(?)。(右)実習棟(?)と煉瓦塀。

(写真)藤枝ノーブル洋裁学院が掲載されている『各種学校総覧 昭和42年版』日本経営新聞社、1966年。国立国会図書館デジタルコレクション

 

1.4 西野家洋館(近代建築)

茶町の南側の通り沿いには1882年(明治15年)創業の西野商店があり、その東側には洋館付きの西野家があります。オレンジ色のスペイン瓦、黄色の漆喰壁、薄緑色のスクラッチタイルが美しい。

(写真)西野家洋館。

 

なお、西野商店には見学可能な蘭字ギャラリー(蘭字=輸出茶ラベル)があります。2023年(令和5年)3月1日から志太天神ひな街道歴史まちあるきシールラリーが開催されており、西野商店も立ち寄りポイントになっています。

(写真)西野家洋館。

(写真)西野家洋館。

 

1.5 旧服部歯科医院(1934年竣工)

ちとせ通りの千歳交差点から1ブロック東に歩くと、1934年(昭和9年)に建てられた旧服部歯科医院があります。整ったモルタルの建物は小さいながらも存在感があり、保存状態も良いように見えます。

(写真)旧服部歯科医院。

(写真)旧服部歯科医院。

 

2. 藤枝市の天然記念物

2.1 大慶寺「久遠の松」(県指定)

上伝馬通りが東に向かってカーブする場所の内側には、藤枝宿でも規模の大きかった日蓮宗の大慶寺があります。

「久遠の松」は静岡県天然記念物に指定されており、1983年(昭和58年)には「日本の名松100選」に選定されているほか、2020年(令和2年)には日本遺産「日本初『旅ブーム』を起こした弥次さん喜多さん、駿州の旅~滑稽本と浮世絵が描く旅のガイドブック(道中記)~」の構成文化財にも認定されています。

(写真)大慶寺「久遠の松」。

(写真)大慶寺「久遠の松」。

 

2.2 「須賀神社のクス」(県指定)

藤枝宿と岡部宿の間には東海道沿いに「須賀神社のクス」があり、やはり静岡県天然記念物に指定されています。東海地方でクスの大木は珍しくないものの、街道筋にある巨木は目立ちます。

(写真)「須賀神社のクス」。

(写真)「須賀神社のクス」。

 

2.3 「若一王子神社の社叢」(県指定)

ちとせ通りの北側には若一王子神社があり、蓮華寺池公園と一体化した社叢が静岡県指定天然記念物に指定されています。

(写真)「若一王子神社の社叢」。

 

2.4 「月見里神社のクス」(市指定)

上伝馬商店街の西にある茶町には月見里神社(やまなしじんじゃ)があります。境内はこじんまりとしていますが、境内北端には藤枝市天然記念物に指定されているクスの巨木があります。しめ縄が巻かれている太いクス、やや細いクスの2本が一つの樹冠を形成しており、太いクスもすぐに2本の幹に分かれているのが特徴です。

(写真)「月見里神社のクス」。

(写真)「月見里神社のクス」。

 

2.5 正定寺「本願の松」(市指定)

藤枝宿西木戸の近く、上伝馬商店街の西側には正定寺があり、境内の「本願の松」は藤枝市天然記念物に指定されています。大慶寺の「久遠の松」と同じクロマツであり、頬杖支柱で支えられている点も同じですが、全く印象が異なるのが興味深い。

(写真)正定寺「本願の松」。

(写真)正定寺「本願の松」。