（写真）尾頭橋公園とマンション群。
2023年（令和5年）1月、愛知県名古屋市中川区の尾頭橋にあった赤線 八幡園跡を訪れました。「尾頭橋の映画館」に続きます。
1. 八幡園の歴史
2021年（令和3年）10月に愛知県知多市の図書史料館「自然古典史文庫」で開催された第1回東海遊里史研究会では、春は馬車に乗って（春馬車）さんが八幡園について発表され、発表内容は研究会報告集『東海遊里史研究 1』（土星舎、2022年）にまとめられています。映える建物の写真だけが独り歩きしがちな遊廓界隈において、一次資料の分析によって実態を解明しようとしている素晴らしい文献です。
1921年（大正10年）に愛知郡八幡村が名古屋市に編入され、南区の一部（中川区の分区は1937年）となりました。翌年の1922年（大正11年）に芸妓街 八幡連が発足し、1937年（昭和12年）時点では41軒の芸妓置屋に229人の芸妓がいたそうです。1943年（昭和18年）には稲永遊廓や中村遊廓の業者も集まって特殊飲食店街 八幡園となりましたが、名古屋市街地の他地域と同様に、八幡園付近も太平洋戦争の空襲で焼失しました。
（地図）1920年の尾頭橋の地形図。丸で囲った部分が後の八幡園。今昔マップ
現在の廓公園（現在の尾頭橋公園）を中心とする街区は、戦後の戦災復興計画によるもの。戦前の地形図に描かれているのは全く異なる道路割であり、1947年（昭和22年）の地形図には八幡園や尾頭橋ではなく島ノ前という地名が書かれています。
（地図）1947年の尾頭橋と現在の尾頭橋の地形図。丸で囲った部分が八幡園。今昔マップ
（地図）まだ特飲店という表記がある1959年の八幡園跡。『全住宅案内図帳』。愛知県図書館所蔵。
1957年（昭和32年）4月1日には売春防止法が施行され、愛知県では同年12月31日をもって全売春業者が廃業。下の図は住宅地図を基にした売春防止法の施行直前の八幡園にあった特飲店です。売春防止法施行後の1959年（昭和34年）の住宅地図ではありますが、まだ特飲店（特殊飲食店）という表記が使われています。
（写真）売春防止法施行直前の八幡園にあった特飲店。※1959年の住宅地図と1961年の航空写真から作成
下の地図は1965年（昭和40年）の住宅地図。1959年（昭和34年）の住宅地図で特飲店と書かれていた建物が、旅館、料理店、バーなどに変わっているのがわかります。
（地図）特飲店が旅館や料理店に変わった1965年の八幡園跡。廓公園より西。『全住宅案内図帳』。愛知県図書館所蔵。
（地図）特飲店が旅館や料理店に変わった1965年の八幡園跡。廓公園より東。『全住宅案内図帳』。愛知県図書館所蔵。
2. 八幡園跡を訪れる
数年ぶりに尾頭橋を訪れて八幡園跡を歩いたのですが、八幡園時代からある建物はどんどん少なくなっており、駐車場やマンションが増えています。
下の写真は尾頭橋公園とその北東を写していますが、最も左に写っているレジデンシア尾頭橋駅前は2020年（令和2年）竣工、その右に写っているファミリアーレ尾頭橋レジデンスは2021年（令和3年）竣工です。
（写真）尾頭橋公園とマンション群。
（写真）尾頭橋公園。
2.1 金鈴商店（尾頭橋3丁目17）
尾頭橋公園の南西には金鈴商店と書かれた建物があります。1959年（昭和34年）や1965年（昭和40年）の住宅地図では「タバコ 鈴村」。
2.2 民家（尾頭橋3丁目17）
1959年（昭和34年）の住宅地図では「特飲店 あづま」。1965年（昭和40年）の住宅地図では民家。
2.3 料理 新若菜（尾頭橋3丁目10）
1959年（昭和34年）の住宅地図では「特飲店 新若菜」。1965年（昭和40年）の住宅地図では「御料理 新若菜」。
2.4 バー パインツリー（尾頭橋3丁目18）
1959年（昭和34年）の住宅地図では「特飲店 松香」。1965年（昭和40年）の住宅地図では「バー パインツリー」。
2.5 料理 千里馬（尾頭橋3丁目10）
1959年（昭和34年）の住宅地図では空白。1965年（昭和40年）の住宅地図では「料理 千里馬」。
2.6 バー 若松（尾頭橋3丁目17）
1959年（昭和34年）の住宅地図では「特飲店 若松」。1965年（昭和40年）の住宅地図では「バー 紫」。
2.7 旅館 天童閣（尾頭橋3丁目20）
1959年（昭和34年）の住宅地図では「特飲店 勝駒」。1965年（昭和40年）の住宅地図では「旅館 天童閣」。
2.8 銭湯 八幡温泉
1965年（昭和40年）の住宅地図では「八幡温泉」。
（写真）八幡温泉。
（写真）八幡温泉。
（写真）愛知県建具協同組合（右）。
