(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。2階の和室。
2022年(令和4年)11月、千葉県千葉市稲毛区を訪れました。かつて稲毛には「ジャスコファミリーシアター」(※美浜区)、「稲毛銀映」、「稲毛中劇」がありました。
1. 稲毛を訪れる
1.1 稲毛商店街・稲毛公園
近現代の稲毛は保養地・行楽地として発展しました。
1888年(明治21年)には千葉県初の海水浴場が開設され、稲毛海気療養所(後の旅館・海気館)も立てられました。1899年(明治32年)には総武鉄道(現・JR総武本線)稲毛駅が開業し、東京から海水浴や潮干狩りを目的とする観光客が増加。1918年(大正7年)には "日本のワイン王" 神谷伝兵衛によって稲毛別荘(現・旧神谷伝兵衛稲毛別荘)が建てられています。1921年(大正10年)には京成電鉄稲毛駅(現・京成稲毛駅)も開業しました。
(写真)絵葉書「稲毛海岸ノ景」出版年不明。
1927年(昭和2年)には鳥観図絵師の松井天山によって稲毛海水浴場の鳥観図が描かれています。京成稲毛駅周辺には商店が密集しており、商店街が線路をまたぐ場所にはアーチが描かれています。ひときわ大きな建物として稲毛館がありますが、稲毛館は劇場でしょうか。戦後の稲毛銀映と同一地点にありますが、稲毛館と稲毛銀映の関係は不明です。
(地図)松井天山『千葉県稲毛海水浴場鳥瞰』1927年。京成稲毛駅や稲毛館が描かれている。
稲毛商店街の南側の丘には稲毛浅間神社があり、松林が広がる稲毛公園があります。黒松の古木はいずれも北向きに傾いており、根本の砂がえぐられて "根上がりの松" となっています。現在の海岸線は稲毛公園から3kmも先ですが、かつては稲毛公園が海岸だったことを偲ばせる景観です。1983年(昭和58年)には日本の松の緑を守る会によって、稲毛公園の根上がりの松が「21世紀に引き継ぎたい日本の名松100選」に選定されています。
(写真)稲毛公園の松林。
稲毛商店街は稲毛浅間神社に向かって伸びており、せんげん通りという愛称が付けられています。商店街の中に1軒だけソープランドがあるのは行楽地だった名残かもしれません。
(写真)稲毛商店街。奥は稲毛浅間神社。
1.2 旧神谷伝兵衛稲毛別荘
稲毛公園の南端には旧神谷伝兵衛稲毛別荘があります。1918年(大正7年)に "日本のワイン王" 神谷傳兵衛が建てた来賓用別荘であり、稲毛が保養地・行楽地だったことを示す数少ない建物です。関東大震災以前に建てられた鉄筋コンクリート造の建物という点で貴重ですが、建築年代が読めない不思議な外観をしています。
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。
1階(洋室)
稲毛別荘の1階は洋室、2階は和室という和洋折衷の建物です。かつては隣接地に和風建築の母屋がありましたが戦後に取り壊され、母屋の跡地には千葉市民ギャラリー・いなげが建っています。なお、稲毛別荘には半地下のワインセラーがあり、2021年(令和3年)には地下空間を利用した写真展も開催されています。
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。1階の洋室。
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。1階の洋室。
2階(和室)
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。2階の和室。
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。(左)2階の和室。(右)2階の展示室。
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。玄関。
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。ポーチ。
2. 稲毛の映画館
1962年の映画館名簿
日本の映画館客数がピークを迎えたのは1958年(昭和33年)であり、日本の映画館数がピークを迎えたのは1960年(昭和35年)。1962年(昭和37年)の『映画館名簿』には、稲毛の映画館として稲毛中劇と稲毛東映(稲毛銀映)の2館が掲載されています。千葉市全体では14館であり、うち千葉市街地に11館、稲毛に2館、蘇我に1館ありました。
1980年の映画館名簿
1980年(昭和55年)の『映画館名簿』を見ると、千葉市の中心市街地以外では稲毛銀映と蘇我映劇が健闘しています。175席の稲毛銀映は成人映画と邦画の上映館でした。
1996年の映画館名簿
ジャスコマリンピア店のジャスコファミリーシアターが掲載されている1996年(平成8年)の『映画館名簿』には、似た性格の映画館としてそごうキッズシアターも掲載されています。
2.1 稲毛中劇(1959年頃-1962年頃)
所在地 : 千葉県千葉市稲毛町2-4(1962年)
開館年 : 1959年頃
閉館年 : 1962年頃
1959年の映画館名簿には掲載されていない。1960年・1961年・1962年の映画館名簿では「稲毛中劇」。1963年の映画館名簿には掲載されていない。
稲毛に2館あった映画館の片方が稲毛中劇です。経営会社は稲毛銀映と同じ大久保興行。『映画館名簿』には1959年(昭和34年)から1962年(昭和37年)まで掲載されており、木造2階、363席の映画館です。
2.2 稲毛銀映(1956年頃-1983年頃)
所在地 : 千葉県千葉市稲毛町3-3-22(1983年)
開館年 : 1956年頃
閉館年 : 1983年頃
1956年の映画館名簿には掲載されていない。1957年・1958年・1959年・1960年の映画館名簿では「稲毛銀映」。1961年・1962年・1963年の映画館名簿では「稲毛東映」。1966年・1969年・1973年・1975年・1978年・1980年・1982年・1983年の映画館名簿では「稲毛銀映」。1984年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は「稲毛郵便局」南40mの民家数軒。最寄駅は京成本線京成稲毛駅。
稲毛にあった2館のうち、遅くまで営業していたのが稲毛銀映であり、1960年代初頭の『映画館名簿』には稲毛東映として掲載されています。なお、千葉市には千葉東映や蘇我東映もありましたが、稲毛東映も含めた3館は東映の直営館ではなく東映の専門館です。経営会社は稲毛中劇と同じ大久保興行。1960年代の『映画館名簿』では286席でしたが、晩年の『映画館名簿』では座席数が175席となっています。
(写真)「われらの映画館 稲毛銀映」『キネマ旬報』1975年11月1日号。
(写真)「われらの映画館 稲毛銀映」『キネマ旬報』1975年11月1日号。
明里さんのDeepランドが取り上げている『海気通信』千葉市民ギャラリー・いなげ、2014年10月、第5号によると、1956年(昭和31年)の住宅地図には千栄館(ちえいかん)として掲載されており、大衆演劇の役者一座が率いる芝居小屋だったようです。『映画館名簿』に初めて稲毛銀映が登場するのは1957年(昭和32年)なので、1956年(昭和31年)頃に館内を改装して映画館化したのかもしれません。
参考 : 「【稲毛散策①】千葉・稲毛浅間神社周辺「京成稲毛うら通り」映画館もあった賑わい」Deepランド、2020年7月28日
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。
(写真)旧神谷伝兵衛稲毛別荘。
2.3 ジャスコファミリーシアター(1984年4月27日-2000年頃)
所在地 : 千葉県千葉市美浜区高洲3-13-1(2000年)
開館年 : 1984年4月27日
閉館年 : 2000年頃
1984年の映画館名簿には掲載されていない。1985年の映画館名簿では「ムービーシアターヒット館・アニメ館・サウンド館」(3館)。1990年・1995年・2000年の映画館名簿では「ジャスコファミリーシアターヒット館・アニメ館・サウンド館」(3館)。2001年の映画館名簿には掲載されていない。建物は「イオンマリンピア店」として現存。最寄駅はJR京葉線稲毛海岸駅。
イオンマリンピア店(旧・ジャスコマリンピア店)の4階にはジャスコファミリーシアターがありました。80席のヒット館、60席のアニメ館、60席のサウンド館の3スクリーンであり、いずれも簡易映画館といえるビデオシアターです。
日本各地のジャスコファミリーシアター
千葉県佐倉市 レイクピアウスイ - 1スクリーン
愛知県豊田市 グリーンシティ - 2スクリーン