振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

坂出市立大橋記念図書館を訪れる

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(写真)坂出市立大橋記念図書館。

2021年(令和3年)8月、香川県坂出市坂出市立大橋記念図書館を訪れました。「坂出市の映画館」に続きます。

 

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1. 坂出市を訪れる

坂出市香川県の中讃地域にある人口約5万人の自治体。江戸時代には日本有数の製塩地となり、戦前の絵図を見ると瀬戸内海沿岸には塩田が広がっています。海の近くに神社や遊郭があるのは新鮮です。

香川県の他自治体と同様に、1950年代後半から1960年代後半の高度経済成長期には若者の県外流出が著しく、愛知県の自治体とは大きく異なる人口推移を見せます。67,624人とピークを迎えたのは1975年(昭和50年)であり、その後の45年間で2万人近く減少しています。

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(絵図)作者不明『白峯と坂出案内』坂出商工会、出版年不明。

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(絵図)作者不明『白峯と坂出案内』坂出商工会、出版年不明。

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(表)坂出市の人口推移。Wikipedia坂出市」に掲載された国勢調査の統計。

 

坂出市では鎌田醤油に存在感を感じました。鎌田醤油は寛政元年(1789年)に創業した食品メーカーであり、鎌田家は3人の坂出市長を輩出しています。鎌田共済会郷土博物館(登録有形文化財)、香風園(坂出市指定文化財)、四谷シモン人形館 淡翁荘や讃岐醤油画資料館(いずれも登録有形文化財)と、坂出市街地には鎌田醤油に関連する施設が多数あります。

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(写真)かつて鎌田家の別邸だった香風園。

 

1.1 坂出市の商店街

現在の坂出市街地には主に2本の全蓋式アーケード商店街があります。東西に約470mに渡って延びるのが、ハッピータウン本町商店街~本通り商店街~元町商店街のアーケード。南北に約230mに渡って延びるのがサンロード大黒町商店街のアーケードです。

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(写真)本町商店街。

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(写真)本町商店街とサンロード大黒町商店街の交差点。

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(写真)元町商店街

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(写真)サンロード大黒町商店街。

 

JR坂出駅近くから北に向かって延びていた元町栄筋商店街のアーケードが撤去されたのは2016年(平成28年)。サンロード大黒町商店街からさらに北に延びていたサンロード港町商店街のアーケードが撤去されたのは2013年(平成25年)であるため、つい10年ほど前の坂出市街地には総延長1000m近い全蓋式アーケードがあったことになります。

坂出市街地に6館あった映画館は映画館街を形成することなく点在していましたが、すべての映画館がいずれかの全蓋式アーケードのすぐ近くにあったこともわかりました。

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(写真)坂出市の全蓋式アーケード商店街。赤茶色は現存、茶色は撤去済。

 

2. 坂出市立大橋記念図書館

2.1 図書館の歴史

坂出市の図書館について簡単に調べ、2021年(令和3年)9月に坂出市立大橋記念図書館 - Wikipediaを作成しました。

1918年(大正9年)には鎌田醤油の創業者である鎌田勝太郎によって鎌田共済会が設立され、1923年(大正12年)には鎌田共済会図書館が開館。戦後の1951年(昭和26年)4月には鎌田共済会図書館の建物が坂出市に移管されて坂出市立図書館が開館。開架式図書館となったのは1958年(昭和33年)のことです。

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1958年(昭和33年)には移動図書館による巡回貸出を開始、1962年(昭和37年)には島嶼部への巡回配本を開始、1975年(昭和50年)には視覚障碍者に対して『坂出市広報』録音版の配達を開始していますが、いずれも類似のサービスの中では全国的に見ても早い部類だと思われます。

1979年(昭和54年)11月には現行館である坂出市立大橋記念図書館が開館。2007年(平成19年)には子どもの読書活動優秀実践図書館として文部科学大臣表彰を受けています。2019年度末の蔵書数は約20万点、2019年度の貸出数は約34万点。人口1人あたり貸出数は6.3点であり、地方都市としては1人あたり貸出数の多い図書館です。

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(写真)図書館の館内。

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(写真)新聞閲覧コーナー。

 

2.2 名称の由来

坂出市岡山県倉敷市を結ぶ瀬戸大橋が着工されたのは1978年(昭和53年)であり、開通は1988年(昭和63年)です。1979年(昭和54年)に開館した坂出市立大橋記念図書館の名称は瀬戸大橋が由来かと思いきや、現行館の建設費を寄付した大橋正行氏に因んでいます。館内には大橋氏の銅像があり、大橋正行夫妻を称える額も掲げられていたため、大橋氏の経歴についてレファレンスしてみました。

これまでにも大橋氏について複数回のレファレンスを受けているようではありましたが、「(建設費の寄付時に)市内在住」としかわからず。館名に冠されていて銅像まである人物について何もわからないのは残念です。

レファレンス協同データベースには香川県立図書館による「坂出市立大橋記念図書館の名前の由来となった大橋氏の没年は?」というレファレンスが登録されていました。銅像が建てられた1986年(昭和61年)5月にはすでに死去していたとのことですが、生年月日、正確な没年月日、どんな事業で財を成したのかなどはわかりません。

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(写真)大橋正行夫妻を称える額。

 

3. 個人名を冠する図書館

坂出市立大橋記念図書館のように個人名を冠する図書館を調べてみました。寄付者の名前を冠する図書館、出身著名人の名前を冠する図書館の2タイプがあるようです。寄付者の名前を冠する図書館のうち現存する図書館はわずかしかありません。

 

3.1 寄付者の名前を冠する図書館

一宮市立豊島図書館 - Wikipedia - 愛知県一宮市。1966年開館。2012年閉館。敷地を寄付した豊島半七(実業家)に由来。

佐屋町立杉野図書館 - Wikipedia愛知県愛西市。1966年開館。1994年閉館。建設費を寄付した杉野繁一 (実業家)に由来。

裾野市立鈴木図書館 - Wikipedia - 静岡県裾野市。1968年旧館開館。1991年現行館開館。育英資金を寄付した鈴木忠治郎(実業家)に由来。

高崎市立山種記念吉井図書館 - 群馬県高崎市。1980年開館。建設費を寄付した山崎種二(実業家)に由来。

大多喜町立大多喜図書館天賞文庫 - 千葉県大多喜町。1897年旧館開館。1989年現行館開館。図書館を寄贈した天賞堂に由来。

宇和島市簡野道明記念吉田町図書館 - 愛媛県宇和島市。1947年開館の建物が1950年に改称。1986年開館の建物が2004年に改称。建設費を寄付した簡野道明(漢学者)に由来。

平戸市立永田記念図書館 - 長崎県平戸市。1966年開館。図書館を建設して寄贈した永田菊四郎(法学者)に由来。

上天草市立大矢野森記念図書館 - 熊本県上天草市。1977年開館。建設費を出した大矢野町長の森慈秀に由来。

中津市立小幡記念図書館 - 大分県中津市。1909年開館の建物が1912年に改称。1993年現行館開館。土地や蔵書を寄贈した小幡篤次郎(教育者)に由来。

 

3.2 出身著名人の名前を冠する図書館

一宮市立玉堂記念木曽川図書館 - Wikipedia - 愛知県一宮市。2001年開館。一宮市出身である 川合玉堂日本画家)に由来。図書館の所在地は川合玉堂の生家跡地でもある。

韮崎市立大村記念図書館 - 山梨県韮崎市韮崎市出身である大村智ノーベル賞受賞者)に由来。

喬木村椋鳩十記念図書館 - 長野県下伊那郡喬木村喬木村出身である椋鳩十(児童文学者)に由来。

新温泉町加藤文太郎記念図書館 - 兵庫県美方郡新温泉町新温泉町出身である加藤文太郎(登山家)に由来。

津野町立図書館虎太郎館 - 高知県高岡郡津野町津野町出身である吉村虎太郎(天誅組)に由来。