振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

牧之原市立図書交流館「いこっと」を訪れる

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(写真)牧之原市立図書交流館「いこっと」の館内。

2021年(令和3年)4月18日、静岡県牧之原市牧之原市立図書交流館「いこっと」を訪れました。前日の4月17日に開館したばかりの図書館です。

牧之原市は2005年(平成17年)に榛原郡相良町(さがらちょう)と榛原町(はいばらちょう)が合併して発足した自治体です。蔵書数や貸出数などの指標は静岡県内最低レベルだったようで、新館の開館はどのような効果をもたらすのでしょうか。

 

 

1. 牧之原市立図書館の歴史

1.1 牧之原市立相良図書館(1986年-2020年)

1986年(昭和61年)4月、相良町保健センターの2階に相良町立図書館が開館。開館時の床面積は89m2、開館時の蔵書数は約7000冊です。89m2という狭さで "図書館" を名乗るのは当時としても珍しい気がします。2005年(平成17年)に牧之原市が発足したことで牧之原市立相良図書館に改称しています。

2021年(令和3年)の牧之原市立図書交流館「いこっと」の開館を機に閉館し、現在は図書交流館の閉架書庫として使用されているとのことです。てっきり牧之原市役所相良庁舎内にあると思っていましたが、保健センターは相良庁舎に隣接する別施設でした。

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(写真)相良図書館があった牧之原市相良保健センター(2階建て部分)、隣接する牧之原市役所相良庁舎(4階建て部分)。

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(左)相良図書館の入口に向かう階段。(右)相良図書館の利用案内。
 

1.2 牧之原市榛原図書館(1979年-開館中)

1979年(昭和54年)7月、榛原町民文化センターの2階に、榛原町民文化センター図書室が開館。2005年(平成17年)に牧之原市が発足したことで牧之原市立榛原図書館に改称しています。名称が "図書室" から "図書館" となったのは、相良図書館と合わせるためでしょうか。榛原町時代には相良図書館の約2倍の床面積があるのに名称が図書室というねじれ現象が起きていました。牧之原市発足時には建物名も牧之原市榛原文化センターに変わっています。時期は不明ですが、図書室の壁を一部撤去して館内を拡張したことがあるとのことで、現在の床面積は165m2です。

榛原市街地と相良市街地は約7km離れており、2021年(令和3年)の牧之原市立図書交流館「いこっと」の開館後も榛原図書館は存続。現在の蔵書数は約3万3000冊であり、一部は書庫(倉庫)に保管されています。

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(写真)榛原図書館が入る牧之原市榛原文化センター。2017年11月。

 

2. 牧之原市立図書交流館「いこっと」(2021年-)

2.1 「いこっと」の開館

牧之原市役所相良庁舎から西に約500m、国道473号の西側には、ミルキーウェイショッピングセンターを含めてロードサイド店舗が集まった一角があります。2019年(令和元年)9月にはミルキーウェイショッピングセンターの中核店舗であるホームセンターのジャンボエンチョー相良店が閉店しています。

牧之原市は建物の所有者であるスーパーラックと協力し、2020年(令和2年)8月には官民複合施設のミルキーウェイスクエアが暫定オープン。ジャンボエンチョー相良店の跡地を居抜きの形でリノベーションし、2021年4月17日に牧之原市立図書交流館「いこっと」が開館。これによってミルキーウェイスクエアは正式オープンとなりました。

開館時の蔵書数は約4万冊であり、うち約3万冊が開架にあるとのこと。図書館部分の床面積は815m2であり、相良図書館時代の約9倍にもなるそうです。

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(左)ミルキーウェイスクエアの入口。(右)図書館のフロアマップ。 

 

2.2 「いこっと」の館内

「いこっと」の設計(建物内のリノベーション)を担当したのは、三浦丈典さんが代表を務める設計事務所スターパイロッツ。「いこっと」の開館に続いて、2022年(令和4年)3月には東京都の瑞穂町図書館の開館が、同じく2022年(令和4年)3月には高知県四万十町文化的施設の開館が控えています。

スターパイロッツは図書館を新しい形の公共空間とすることに定評があるようで、2017年(平成29年)11月の図書館総合展ではアカデミック・リソース・ガイド社のブースでトークイベントを開催したり、2020年(令和2年)4月には県立長野図書館の「信州・学び創造ラボ」開設1周年記念フォーラムでメインゲストとなっています。

ミルキーウェイスクエアの建物内はとても開かれた空間であり、図書館部分、交流スペース部分、カフェ部分には明確な仕切りが存在しません。一般的な図書館の入口には扉やゲートがあるものですが、「いこっと」にそのような仕切りは存在しません。牧之原市立相良図書館は古くさいタイプの図書室であり、"熱心な読書家" や "親子連れ" などに利用者層が限られていたように思われます。

隣接する吉田町の吉田町立図書館の蔵書数は約12万冊、御前崎市御前崎市立図書館アスパルの蔵書は約25万冊。数字だけ見ると約4万冊という「いこっと」の蔵書数は物足りないですが、「『図書館』ではなく『本がある交流空間』」と考えてみたい。相良図書館と比べると「いこっと」への入りやすさは段違いです。ただし、設計者の意図を活かせるかどうかは運用者や利用者次第だとも感じました。

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(写真)ミルキーウェイスクエアの内部。カフェスペースから奥の図書館部分を見る。

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(写真)フロア中央部の閲覧席。

 

「いこっと」の入口にはメインのテーマ展示架があり、こどもの日に向けた鎧飾りが目立っています。メインのテーマ展示架からまっすぐ奥に進むと郷土資料コーナーがあり、郷土資料の中でも「茶」に関する資料が別置されていますが、牧之原市のブランドである静岡牧之原茶について詳しくわかるわけではない。郷土資料コーナーの脇に静岡牧之原茶に関する常設展示がありますが、ビジュアルを重視した展示という印象が強く、郷土資料を展示に絡めていけたらと思いました。

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(左)メインのテーマ展示。(右)静岡牧之原茶の常設展示。

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(左)閲覧席。禁止事項やフリーWi-Fiのサイン。(中)パソコン持込可能席。コンセントやLANポート。(右)ソファ席。

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(左)フロア中央部の閲覧席と実用書の書架。(右)一般書の書架。

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(左)雑誌の書架。(中)姉妹都市であるアメリカ合衆国ケルソー市の紹介コーナー。(右)山崎善道氏からの寄贈書の書架。

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(左)フロア中央部の閲覧席と児童書の書架。(右)児童書エリアの「キッズワンダー」。

 

牧之原市立図書交流館「いこっと」は公式サイトを有していません。牧之原市役所公式サイト内に図書館に関するページがありますが、「いこっと」の開館時間や休館日などの基本的な利用案内すら探しにくい状態です。また、サイト内では "図書交流館「いこっと」" などという表記が用いられており、"牧之原市立図書交流館" または "牧之原市立図書交流館「いこっと」" という正式名称で検索したときに情報を得にくい状態です。

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(左)書籍除菌機と自動貸出機。(中)天井から吊り下げられたサイン。(右)図書館内及び所蔵資料撮影許可証。