振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

東栄町図書室「のき山文庫」を訪れる

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(写真)のき山文庫があるのき山学校。

2020年(令和2年)8月、愛知県北設楽郡東栄町を訪れました。「東栄町の映画館」に続きます。

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1. 東栄町を訪れる

東栄町は愛知県の東三河地方にある人口約3000人の自治体。設楽町豊根村とともに奥三河と呼ばれる地域にあり、重要無形民俗文化財の花祭などの民俗行事が残っています。

2012年(平成24年)に三遠道路(三遠南信自動車道の一部)が新東名高速道路と接続した結果、東栄町の本郷市街地から南10kmの鳳来峡インターチェンジまでは高規格道路で訪れることができるようになりました。公共交通機関の場合はJR飯田線東栄駅が起点となり、奥三河2町1村が共同で運行するコミュニティバス おでかけ北設で本郷市街地に向かいます。

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(写真)JR飯田線東栄駅。花祭に登場する鬼がモチーフ。

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(地図)愛知県における東栄町の位置。©OpenStreetMap contributors

 

 

2. 東栄町を歩く

隣接する設楽町の大部分は豊川水系ですが、東栄町天竜川水系にあり、天竜川支流の大千瀬川(振草川)が市街地を北と南に二分しています。東栄町役場、東栄中学校、とうえい温泉花まつりの湯などは大千瀬川の北側にあり、本郷商店街、東栄小学校、東栄郵便局などは大千瀬川の南側にあります。大千瀬川の水面の標高は約230m、大千瀬川北側の市街地の標高は約240m、大千瀬川南側の市街地の標高は約280mであり、同じ盆地内でもかなりの高低差を感じます。

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(写真)東栄町の中心部である本郷市街地がある盆地。2018年6月。

 

2.1 蔦の淵

とうえい温泉花まつりの湯の南側には大千瀬川が流れており、施設からすぐの場所には奥三河のナイアガラと呼ばれる「蔦の淵」(つたのふち)があります。滝頭は硬い安山岩、滝壺は柔らかい泥岩という地質の差によって形成され、幅30-40m、落差5-6mの見ごたえある滝です。大千瀬川はアユ釣りが盛んなようで、蔦の淵のすぐ下流側にも釣り人がいました。

(注)観光サイトによる蔦の淵の大きさは幅約70m、落差約10m。

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(写真)大千瀬川の中州から見た蔦の淵。2020年8月。

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(左)展望スポットから見た蔦の淵。2018年6月。(右)大千瀬川にいた釣り人。2020年8月。

 

2.2 商店街

西万場・東万場

東栄町大字本郷字西万場・東万場には愛知県道74号に沿って本郷商店街があります。1984年(昭和59年)に国道151号駒久保トンネルが開通するまでは本郷商店街が国道151号だったと思われ、食堂なども多数あったのではないかと思われます。

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(写真)本郷商店街の町並み。(左)南から北を見る。奥は西万場信号。(右)北から南を見る。中央は西万場信号。いずれも2020年8月。

 

1970年代頃の住宅地図を見ると、本郷商店街から龍洞院に向かって延びる路地にも商店が集まっていました。現在も営業している店舗は理容ワダくらいです。本郷商店街の西側に並行する通りにもいくつか商店があり、この通りが面している龍洞院の影響力を感じます。Google mapには松岡旅館が掲載されていますが、それらしい建物は見当たりませんでした。

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(左)龍洞院正面の路地。奥が龍洞院。(右)本郷商店街の西に並行する通り。いずれも2020年8月。

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(写真)西万場・東万場。地理院地図

 

森山

大千瀬川の北と南をつなぐ場所は大字本郷字森山であり、長い坂に沿って小規模な商店街が形成されています。森山酒造は元禄年間(1688年-1703年)創業であり、奥三河では設楽町の関谷醸造とともに2軒のみの酒蔵のひとつ。巨大な工場を持ち「蓬莱泉」の銘柄が広く知られている関谷醸造と比べると、森山酒造はずいぶん控えめな建物です。

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(左)森山の町並み。(右)森山にある森山酒造。いずれも2020年8月。

 

市場

大千瀬川の北側にあるのが大字下田字市場の商店街。本郷商店街とは違って2車線であり、東栄町役場やとうえい温泉花まつりの湯に近いことから、本郷商店街よりも交通量が多いかもしれません。

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(左)市場の町並み。(右)映画館の話を聞いた和菓子舗 若松屋。いずれも2020年8月。

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(写真)森山と市場。地理院地図

 

2.3 東栄町東栄小学校

東栄町少子化の進行に合わせて小学校の統廃合を進めました。1964年(昭和39年)に東栄町全域で10校あった小学校は、1990年(平成2年)に7校、2006年(平成18年)に5校、2007年(平成19年)に3校、ついに2010年(平成22年)には1校となって統廃合が完了しています。

2013年(平成25年)には東栄町立東栄小学校 - Wikipediaが新校地に移転しましたが、この敷地は2007年度末(平成29年度)に廃校となった愛知県立新城東高等学校本郷校舎 - Wikipediaの敷地を東栄町が購入したものであり、広々とした敷地に木造平屋建で建てられています。本郷校舎が閉校したことで東栄町から高校がなくなり、一時期は県境を越えて静岡県立佐久間高等学校に進学する生徒が多かったようです。

東栄小学校の旧校地には3階建の校舎が現存していました。背後が崖というどん詰まりの場所にあり、校舎も使い道がないと思われますが、交流施設などに転用されるのでしょうか。

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(左)移転後の東栄町東栄小学校。2018年6月。(右)2013年まで使用されていた東栄町東栄小学校の廃墟。2020年8月。

 

2.4 重要無形民俗文化財 花祭

本郷市街地の南東部には東栄町総合社会教育文化施設と呼ばれる文化ゾーンがあり、東栄町立博物館 - Wikipedia、花祭会館、東栄町民芸館、B&G海洋センター体育館、総合グラウンド、野球場などが集まっています。今となっては自治体規模に不釣り合いな施設群であり、東栄町役場もこれらの施設を積極的にPRする気がないのか、観光客も少なくひっそりとしています。

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(左)東栄町立博物館。2020年8月。(右)東栄町民芸館と花祭会館。2018年6月。

 

東栄町といえば重要無形民俗文化財の「花祭」が知られており、東栄駅の駅舎や商店街の街路灯など、至る所に花祭に登場する鬼のモチーフが使われています。2020年(令和2年)1月には東栄町に隣接する設楽町大字下津具を訪れ、白鳥神社の境内で一晩中続けられる津具の花祭を見学しました。

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(写真)津具の花祭。半屋外の舞場と観覧席。2020年1月。

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(写真)津具の花祭。いずれも2020年1月。

 

 

3. 東栄町図書室「のき山文庫」

3.1 東栄町体験交流館「のき山学校」

2010年(平成22年)3月に廃校となった東栄町立東部小学校の校舎をリノベーションし、2014年(平成26年)5月18日にオープンしたのが東栄町体験交流館のき山学校 - Wikipediaです。本郷市街地からの距離は1.5kmであり、車がないと訪れにくい立地ではありますが、私は本郷市街地から歩きました。図書室「のき山文庫」と「Caféのっきぃ」があるほかに、各種の体験イベントを開催しているようです。

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(写真)のき山学校。2018年6月。

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(左)のき山学校の校内。(右)Cafe のっきぃ。いずれも2018年6月。

 

3.2 「のき山文庫」の館内

東栄町は愛知県に6自治体しかない図書館未設置自治体であり、2014年(平成26年)までは図書室すらなかったようです。のき山文庫の基本蔵書数は約2,800冊であり、これに愛知県図書館から巡回される数百冊の図書が加わります。隣接する設楽町にある設楽町民図書館 - Wikipedia(蔵書数は2館計30,000冊超)と比べると、のき山文庫は立地の点でも蔵書数の点でも見劣りするものの、図書室すらなかった時代を考えると大きく前進しています。

(注1)2009年(平成21年)までは「月間利用者数が5-6人」という「蔵書約500冊」の図書室があった。

(注2)設楽町民図書館ものき山文庫と同じく、図書館法に基づく図書館ではない。

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(写真)のき山文庫。2018年6月。

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(写真)のき山文庫の館内。いずれも2018年6月。

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(左)郷土資料。(中)絵本。(右)愛知県図書館の巡回本。いずれも2018年6月。