(写真)映画館「中央劇場」を転用したスーパーヒラノの廃墟。
2020年(令和2年)1月、静岡県周智郡森町(遠州森町)を訪れました。2館あった映画館跡地、映画館「中央劇場」の建物は廃墟として現存しています。
※2024年2月には本記事から「遠州森町を訪れる」を分割しました。
1. 森町立図書館
森の街並みや城下の街並みを歩いた後には森町立図書館を訪れました。英語表記は「Morimachi Library」ですが、日本語表記の読みは「もり ちょうりつとしょかん」のようです。
1.1 図書館の施設
森町立図書館は森町文化会館とともに森市街地から約1.5kmの距離にあり、1995年(平成7年)4月15日に森町文化会館との複合施設として開館した施設です。
森町立図書館の床面積は510m2。森町と人口が似通った自治体として駿東郡小山町があり、図書館の開館年(1992年)や施設の形態(文化会館との複合施設)も似通っています。森町立図書館と小山町立図書館を比較すると、床面積や蔵書数では小山町立図書館のほうが上ですが、貸出数では森町立図書館のほうが上となっています。
周智郡森町
人口 - 18,988人(2016年度末)
開館年 - 1995年
床面積 - 510m2
蔵書数 - 83,297冊(2016年度末)
貸出数 - 79,851冊(2016年度)
人口 - 19,197人(2016年度末)
開館年 - 1992年
床面積 - 1,163m2
蔵書数 - 110,967冊(2016年度末)
貸出数 - 51,138冊(2016年度)
(写真)森町立図書館。
1.2 図書館の館内
館内は天井が高く、ガラス窓部分が多いので開放的です。書架などの什器は新しく、照明の印象もあって洗練された雰囲気を感じます。開館から25年が経過しているとは思えず、近年にリニューアルがなされたのだと思われますが、ウェブ検索してもよくわかりません。
森町の特産品である「茶」の資料は別置されていますが、それ以外に特色あるコーナーはありませんでした。図書返却ポストには「貸本返却口」と書かれていますが、図書館が "貸本" という用語を用いているのは珍しくて印象に残りました。
(左)図書返却ポスト。「貸本」という表記が珍しい。(右)森町立図書館の館内。
2. 遠州森町の映画館
1920年(大正9年)には遠州森町に劇場「明治座」が開館し、1936年(昭和11年)には劇場「森町劇場」も開館します。戦後の各年版『映画館名簿』に掲載されている映画館は、「森町劇場」と1956年(昭和31年)開館の「中央劇場」の2館でした。
以下の図は映画館が2館あった自治体の典型例を示した図です。"戦前に和風建築の劇場が開館し、昭和30年代の映画ブームとともに映画館に転換。映画ブームの頃には洋風建築の映画専門館も開館するが、昭和40年代前半までに両館とも閉館する" という構図です。遠州森町の映画館事情はこの典型例に近いと思われます。
(図)映画館が2館存在した自治体の典型例。
1.1 森町劇場(1935年8月-1965年頃)
所在地 : 静岡県周智郡森町910(1958年・1960年)
開館年 : 1935年8月
閉館年 : 1965年頃
『全国映画館総覧 1955』によると1935年8月開館。1950年の映画館名簿には掲載されていない。1953年・1955年・1958年・1960年・1963年・1965年の映画館名簿では「森町劇場」。1966年の映画館名簿には掲載されていない。跡地は「森町タクシー」。
1960年(昭和35年)版『映画館名簿』には森町劇場の所在地として「周智郡森町910」と記載されています。現在は「周智郡森町森910」に森町タクシー本社がありますが、森町劇場の跡地が森町タクシーであることの裏付けを取ることが森町を訪問した目的のひとつでした。
(写真)森町劇場跡地にある県道278号沿いの森町タクシー。
新町の菓子司福むらの男性店主(70代?)に話を伺うと、
「森町劇場は森町タクシーの場所にあった。立派な劇場であり、回り舞台や2階の桟敷席などがあった。のど自慢大会なども開催された。明治時代の建築かもしれない。僕が中学生だった1963年頃までは少なくとも営業していた」とのことでした。
菓子司福むらは森町劇場ではなく中央劇場に近い和菓子屋ですが、この店主にとっては森町劇場のほうがなじみ深かったようです。
(写真)森町劇場について話を伺った菓子司福むら。
1.2 森中央劇場(1956年-1970年頃)
所在地 : 静岡県周智郡森町910(1970年)
開館年 : 1956年
閉館年 : 1970年頃
1955年の映画館名簿には掲載されていない。1960年・1963年の映画館名簿では「森町中央劇場」。1966年・1969年・1970年の映画館名簿では「森中央劇場」。1971年の映画館名簿には掲載されていない。映画館の建物は「秋葉バスサービス遠州森町バス停」北30mに「スーパーヒラノ」廃墟として現存。
新町には「スーパーヒラノ」の廃墟があり、Google mapsではこの場所が "中央劇場跡" と表示されています。
スーパーヒラノの南側に隣接する荻野商店の女性店主(80代?)にこのスーパーについて話を伺うと、まずは「どこのスーパーのことか。太田川の対岸にあるスーパーか」と聞き直されました。スーパーヒラノは廃業してからかなりの年月が経っているようで、この女性店主にとってはスーパーだったという認識も薄れているようでした。
「スーパーヒラノは中央劇場の建物をそのまま利用していた」とのことで、Google mapsの表示は誤りではありませんでした。
菓子司福むらの店主に中央劇場について聞いたところ、「営業をやめたスーパーの場所にあった。日活の石原裕次郎が流行った頃が中央劇場の全盛期だった」とのことでした。
なお、1966年(昭和41年)版や1969年(昭和44年)版の『映画館名簿』では、「周智郡森町910」に中央劇場があるとされています。森町910は1960年(昭和41年)版『映画館名簿』における森町劇場の番地であり、「1960年代初頭まで森町劇場があった建物に、1960年代中頃になって中央劇場が移転した」可能性も考えました。
しかし、菓子司福むらの店主の話を聞く限りでは中央劇場が移転したとは思えず、『映画館名簿』の記述が誤っているのだと思われます。※1960年代の映画館名簿は至る所に誤字脱字があり、映画館名や所在地が誤っていることも珍しくありません。
(左)1959年の中央劇場。自転車で観客が詰めかけている。通りの入口にはアーチが見える。奥まった場所に建物があるように見え、スーパーヒラノとやや異なるように見えるが理由は不明。
(写真)中央劇場を転用したスーパーヒラノの廃墟。
(右)中央劇場跡地の建物側面。
(左)中央劇場跡地の全景と荻野商店。(右)中央劇場跡地と森町バスターミナル。
(写真)中央劇場について話を伺った荻野商店。
(写真)森町の2館が掲載されている『映画便覧 1963』(時事通信社、1963年)。
森町の映画館について調べたことは「静岡県の映画館 - 消えた映画館の記憶」にまとめており、跡地については「消えた映画館の記憶地図(静岡県版)」にマッピングしています。
(写真)遠州森町にあった映画館の位置。国土地理院 地理院地図