振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「Wikipediaブンガク in 神奈川近代文学館」に参加する

f:id:AyC:20180301163010j:plain

(写真)#2月24日のスカイツリー

 2018年2月25日(日)、横浜市神奈川近代文学館で開催された「Wikipediaブンガク in 神奈川近代文学館」に参加しました。

 

首都圏を訪れる

 この週は木曜日から日曜日までずっと首都圏におり、日曜日のイベントに参加してから帰りました。

 木曜日は横浜の某オフィスで作業。金曜日と土曜日は首都圏を観光し、日野市立図書館、逗子市立図書館(外観だけ)、鎌倉市中央図書館、墨田区立ひきふね図書館、墨田区立立花図書館を訪問。その合間に立川シネマシティと藤沢市鵠沼海岸のシネコヤで映画を観ています。金曜日の夜には「神奈川の県立図書館を考える会」の定例会にも参加。この日の議題は「県立川崎図書館リニューアルオープンを勝手にお祝いする会」についてでしたが、「-考える会」のスケールの大きさに驚きました。

f:id:AyC:20180301163807j:plainf:id:AyC:20180301163812j:plainf:id:AyC:20180301163814j:plain

 (左)日野市立図書館。(中)鎌倉市川喜多映画記念館。(右)鎌倉市図書館旧館。

 

神奈川近代文学館を訪れる

 神奈川近代文学館港の見える丘公園の最奥部にあります。JR桜木町駅で降り、横浜公園山下公園をふらふらしながら目的地を目指しました。文学館という施設になじみがないのですが、愛知県では半田市新美南吉記念館が近いのでしょうか。近代文学に限らなければ名古屋市蓬左文庫西尾市岩瀬文庫があるし、館内に文学者の展示コーナーが設置されている図書館は豊田市中央・田原市渥美・東浦町中央などいくつかありますが、単独施設の近代文学館はどこも集客に苦戦しているという話を聞きます。

 参加者は約15人。県内の公共図書館の方、県内の学校図書館の方、図書館業界の方などがおり、ウィキペディアンとしてはTさん、Sさん、Aさん、AraiSyoheiさんと私の5人。この日は基本的に文学館内の図書室(閲覧室)の資料を用いて編集を行いましたが、『神奈川近代文学館30年史』、『新訂 作家・小説家人名辞典』、『文豪ストレイドッグス』各巻など持ち込みの資料もありました。神奈川近代文学館では文豪ストレイドッグスとのコラボ企画を行っており、1階ロビーには絶えず若い女性がいました。

f:id:AyC:20180301163426p:plain

(地図)横浜市中心市街地における神奈川近代文学館の位置。港の見える丘公園の中。

f:id:AyC:20180301162830j:plain

(写真)神奈川近代文学館の展示館。

 

f:id:AyC:20180301162836j:plainf:id:AyC:20180301162840j:plain

(写真)イベント開始前の会場。持ち込まれた文献。

f:id:AyC:20180301163531j:plain

(写真)講師のくさかきゅうはち氏。

 

日本初開催のWikipedia“ブンガク”

スケジュール

10:15-10:20 開会あいさつ

10:20-11:00 講師による説明「ウィキペディアとは」

11:00-12:15 「山川方夫と『三田文学』展」鑑賞

12:15-13:15 おひるごはん

13:15-16:00 文献調査・執筆作業

16:00-16:30 成果発表・ふりかえり

 

 この日のスケジュールは上の通り。午前中には講師による講義と文学展の鑑賞、午後に文献調査と執筆作業です。展示を観る前には文学館の方による解説を聞くことができました。

 今回はウィキペディア“タウン”ではなくWikipeida“ブンガク”という名前であり、“まち”ではなく“文学”をテーマとしているため、まちあるきではなく文学展の鑑賞を行います。“まち”ではない何かをテーマとしたウィキペディアタウン系イベントには、これまでにWikipedia ARTS(芸術がテーマ)、酒ペディア(日本酒がテーマ)、WikipediaLIB(図書館がテーマ)などがありましたが、文学をテーマとするウィキペディアタウン系イベントは日本初とのことです。

 私はARTSにも酒ペディアにもLIBにも参加したことがありますが、芸術や日本酒など文献に残りにくいテーマはWikipediaに記事を作成するのが難しいです。難しいことで取り組む人自体が少なく、イベントなどでやる価値があるとも言えますが。文学というテーマはWikipediaとの親和性が高く、梶井基次郎 - Wikipedia青空 (雑誌) - Wikipedia宮沢賢治 - Wikipedia、など充実した記事も多数あります。今回は「山川方夫と『三田文学』展」という明確なテーマがあり、Wikipediaの編集対象を展覧会の内容に絞ったことで、参加者はすんなりと文献調査・編集作業に取り組めたのではないかと思います。

 

 文献は別棟である本館の図書室(閲覧室)で閲覧します。ふつうのウィキペディアタウンでは主催者や図書館員が事前に文献を集めるか、イベントの参加者がその場で文献を探す必要がありますが、今回は「山川方夫と『三田文学』展」に関する記事が編集対象ということで、展覧会の期間開始前に文学館が展示用の書架に集めた文献を使うことができました。主催者側は負担が減り、参加者側は効率よく調査ができ、文学館側は展示した文献の有効活用の機会になる、うまい方法だと思いました。

 

記事「山川方夫」に写真を掲載する

 私は「山川方夫 - Wikipedia」や「三田文学」を加筆するグループに入りました。編集方法や役割分担などについてはAraiSyoheiさんが仕切ってくれたので、他の方がやらない編集をしようと思い、特に山川の写真の追加を試みました。

 山川は1950年から文筆活動を行い、1965年に亡くなった人物です。まずは図書室で1956年までに撮影された山川の写真を探しました。1956年末までに発行された写真の著作物の著作権は、旧著作権法の規定により消滅しているためです。しかし1956年までに撮影された山川の写真が見つからなかったため、次に1967年までに撮影された写真を探しました。1967年末(50年前)までに公表された団体名義の著作物は著作権が消滅していることから、これらの写真はサイズの制約を受けながらも、ウィキペディア日本語版にアップロードすることが可能であると考えられます。Wikimedia Commonsにはアップロードできません。

 『朝日ジャーナル』1964年10月4日号には以下の写真が掲載されていたため、この写真をウィキペディア日本語版にアップロードしました。ライセンス欄には「米国著作権の保護期間にある著作物」である旨を記載し、420 × 600 ピクセルで90キロバイトという小さなサイズに修正してからアップロードしています。サイズは小さくとも、顔写真は記事の質をぐっと高めます。

「米国著作権の保護期間にある著作物」

このメディア上の著作物は、日本国著作権法に基づく著作権の保護期間は満了していますが、アメリカ合衆国著作権法では著作権の保護期間にあるため、日米両国の著作権法に抵触しない方針をとっているウィキペディア日本語版では、米国法フェアユースの法理に基づき利用しなければなりません。

f:id:AyC:20180301175332j:plain

(写真)山川方夫。1964年。

 

記事「二宮町」で山川に言及する

 山川は戦時中の一時期に神奈川県二宮町疎開し、また1964年の結婚後には二宮町に住みましたが、国鉄二宮駅前で交通事故に遭って亡くなりました。このように二宮町とは縁が深いにもかかわらず記事「二宮町 - Wikipedia」には山川に関する言及がなかったため、追記することにしました。

 「出身者・在住者」節に山川を加え、「二宮町を舞台にした作品」節に『夏の葬列』と『最初の秋』の2作品を加えました。死後50年が経過しており山川の作品の著作権が消滅していることから、二宮町の風景が目に浮かんでくるような両作品の冒頭部分を掲載しました(この分量なら引用の範囲内でもあります)。

秋の朝だ。私はいま二宮の町を歩いている。私は、まず郵便物を局に持って行き、それから妻の好きな無花果をいくつか八百屋で買い、ついでに薬屋で、ほとんど中毒しかけているアンプル入りの風邪薬を買い、その帰りに、じつはこれはまだ妻の許可を得てはいないが、本屋で『鉄腕アトム』の最新号を買ってくるつもりでいる。…

— 『最初の秋』冒頭部分

 

ふりかえり

 今回の参加者は図書館関係者が多く、調査・編集のスキルが高い方ばかりでした。ウィキペディアタウンに類似したイベントの開催を検討している方も参加しており、彼らがこのイベントにどんな印象を持つのか興味がありました。講師、主催者、一般参加者、ウィキペディアン。イベント中に机からちょっと離れた場所からこの4者の動きを見ていると、いつも大きな発見があります。運営側と一般参加者の間でふわふわしていることの多い私にとっては、特に講師のくさかさんのイベント中の動きから学ぶものは多いです。

f:id:AyC:20180301162800j:plainf:id:AyC:20180301162806j:plain

(写真)「山川方夫」「三田文学」を加筆するグループ。私も含めて7人。「愛のごとく」も新規作成されました。

f:id:AyC:20180303044820j:plain

(写真)「桂芳久」を新規作成中の参加者。