振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

木曽岬町立図書館を訪れる

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(写真)2017年11月に供用開始した木曽岬町役場新庁舎。図書館は裏手の棟の1階にある。

 

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このブログにおける文章・写真は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 3.0 非移植 ライセンスの下に提供されています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。写真は「Category:Kisosaki Town Library - Wikimedia Commons」にアップロードしています。

 

木曽岬町を訪れる

桑名郡木曽岬町(きそさきちょう)は三重県の北端部にある自治体。愛知県と三重県の県境には木曽川が流れているが、三重県の自治体として唯一、木曽岬町のみは木曽川の東側にある。このため木曽岬町は愛知県海部郡との関わりが強く、海部郡弥富町(当時)との合併話が出たこともあった。木曽岬町自主運行バス(コミュニティバス)は愛知県弥富市近鉄弥富駅に接続している。

木曽岬町立図書館が開館したのは2018年1月7日。開館から数日後に訪れた。近鉄弥富駅から1時間に1-2本の頻度で走っているバスに乗り、13分-19分で図書館最寄りのバス停に着く。公共交通機関の状況が似通っている飛島村と比べると本数はやや少ないものの、それなりに便利だと感じる。車を用いる場合は国道23号で楽に訪れることができる。

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(図)三重県木曽岬町と愛知県弥富市の位置関係。弥富市立図書館を訪れた際のブログ記事から流用。図はOpenStreetMapより。作者 : OpenStreetMap contributor。

 

木曽岬町立図書館を訪れる

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この記事冒頭には木曽岬町役場のメイン庁舎の写真を掲載した。メイン庁舎の裏側には「教育文化棟」があり、教育文化棟の1階に図書館が設置されている。役場の正面玄関から教育文化棟は見えないため、総合窓口で尋ねるかフロアマップを見ないと図書館の位置はわかりづらい。そのうえ役場の内部を通らないと図書館に入れない。とはいえ、図書館入口の前を役場職員がせわしなく行き来していることは、図書館運営のヒントになるかもしれない。

木曽岬町は水田が広がる平地に集落が点在している。面積が15km2もあるにもかかわらず、人口は6,300人と少ない。かつての公民館図書室は役場のある中心部から1.5kmも離れた場所にあった。役場に図書館を併設させたことで、これまで図書室を利用しなかった住民も利用しやすくなった。

 

館内について

町立図書館といえば中高生や子育て世代がよく利用するイメージだが、この図書館は児童書の比率が低いし、ティーンズも重視していないように見える。その分、2万冊という蔵書数の割には一般書と参考図書が充実している印象を受けた。蔵書の大半は2016年以降に購入した図書。他の利用者に一度も開かれたことがないと思われる本をめくるのは楽しい。これといった特設コーナーはないが、木曽岬町に関する文献を集めた棚には、木曽岬町の特産品である「トマト」に関する文献が多数ある。

いまどき珍しいシンプルな公式サイトには、下の写真で示したようなフロアマップが掲載されている。閲覧席は総じて職員の目を気にしなくてもよい場所に配置されている。コンセント付きの1人用机が並んでいる学習室ではWi-Fiが使えるが、公式サイトでは電源の存在もWi-Fiの存在もわからない。

 

この日のお目当ての文献は『広報きそさき』。図書館の蔵書扱いではないらしく、役場内から持ってきてもらったものを閲覧した。「木曽岬町立図書館 - Wikipedia」に公民館図書室時代の歴史を加筆するべく、1980年代後半の『広報きそさき』を眺める。現在の記事に書かれていないことでは、公民館図書室の開室より前に公民館事業として移動図書館車の運行を行っていたことや、公民館図書室時代の開館日や開館時間などがわかった。

 

木曽町図書館と比較する

2017年9月には木曽川を150kmほどさかのぼった長野県の木曽町(きそまち)に木曽町図書館が開館した。今回訪れた木曽岬町(きそさきちょう)の木曽岬町立図書館とは開館時期や名前、人口規模まで似ているせいで比較したくなる。

『広報きそまち』には開館の1年以上前から「きそまち図書館だより」という連載があり、館長や司書が顔写真付きで登場して意気込みを語ったり、図書館内の各コーナーについて紹介したり、「図書館とは何か」説明したりしている。図書館の建設に際しては何度も住民向けワークショップを行って意見交換を行っている。開館直前の号では2ページ(見開き)を使って図書館を紹介している。

『広報きそさき』にも複合施設の建設状況を紹介する連載があるが、図書館サービスについては開館直前の号や前月号でもほとんど触れられていない。開館直前の号における図書館の説明は1/4ページ分で写真のみ。どういうコーナーがあるのか、何ができるのか、などは説明があってほしい。これは自治体が図書館にかける意気込みの違いなのだろう。

(余談)長野県木曽町は公募で館長を採用しました。箭野館長はおっとりした感じで雰囲気のある方なのですが、『広報きそまち』では写真写りが悪くてかわいそう。悪いのはカメラマン。

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 (写真)木曽岬町立図書館のフロアマップ。

 

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 (写真)一般書の書架。特産品であるトマトの置物はおそらく紙粘土製。ソファもトマト色。

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 (左)児童書の書架。1類の説明は「いきかた / かんがえかた / うらない」。(右)もっとも目立つ書架にある木曽岬町資料コーナーは、児童の目も意識した場所にある。

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 (左)地域資料コーナー。木曽岬町を除く三重県の資料がここにある。(右)入口すぐにある展示コーナー。開館記念展示は「木曽岬町のあゆみ」。左下の材木は町に初めて架けられた橋の欄干。

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 (左)雑誌コーナー。(右)閲覧席。床・壁・什器には三重県産木材が多用されている。真新しいフローリングを歩くとキュッキュッと音がする。

 

開館記念企画「私がおすすめするこの一冊」

ウェブ上では図書館開館に先立って開催されていた木曽岬町図書館活性化委員会の議事録が閲覧できる。町教育長、町教育課長、アドバイザー(株式会社リブネット)などが出席していた委員会であり、開館2年半前の2015年6月から、開館1年前の2017年1月まで、計7回開催されたらしい。この議事録では開館時の目玉企画として「私がおすすめするこの一冊」を行うことが確認できるが、読んだ時から嫌な予感しかしなかった。

一般と小中学生に分けて募集を行うこの企画、応募用紙の配布は役場のみ、提出も役場のみであり、投稿フォーム、メール、神エクセルなどウェブからの提出は不可。「第7回活性化委員会議事録」(PDF)にある下記の問答には頭がくらっとした。この図書館活性化委員会には50代以上の方しかいないのだろうか。応募を受けて冊子作成や館内展示の実務を担当する図書館職員も、きっと委員の中にはいないのだろう。

 

質問「若い子には、用紙に手書きは面倒臭く感じるように思う。メールで提出できるようにすれば、木曽岬町も進んでいるように見えるのではないか」(委員)

回答「FAXやメールは想定していない。提出内容について尋ねることがある時に、メールやFAXだと連絡が取れない可能性がある。また、イタズラ等が心配であるので手交のみとしたい」(事務局)

 

議事録によると「(推薦文を掲載した)冊子として配布する」とのことだったが、実際には推薦図書そのものの展示も行っていた。図書館入口すぐの場所には一般20人、児童生徒50人分の推薦図書が並んでいた。推薦された70冊はすべて購入しているらしいが、一部の図書は入荷待ちの状態だった。

“一般”扱いの推薦者を見ると、町長、教育長、図書館長、学校長、園長、図書館活性化委員、役場職員…と、図書館や役場関係者の名前がずらりと並んでおり、“一般”町民は20人中3人しかいなかった。いざ募集をかけたところ3人分しか集まらず、焦った担当者が関係者にお願いして人数分を集めたんだろうと推測する。

図書館から帰った後、再び図書館活性化委員会の議事録を閲覧した。最終回の第7回は図書館開館の1年近く前であるが、教育長や教育課長クラスの役職者が集まって、応募用紙の文字サイズがどうのこうの、という議論を行っている。中学や高校の図書委員には参考になるかもしれない。この議事録にはいろいろな発見がある。

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(写真)開館記念展示「私がおすすめするこの一冊」。

 

(追記)開館6日目(1/12)時点で、「よく読まれた本」第1位は『お酢レシピ −しっかり食べてカラダの中からキレイになる!−』(3回貸出)。酢をうまく使えるようになると料理の幅がぐっと広がりますよね。