振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

ウィキペディアタウン in 瀬戸内市を振り返る

2016年2月20日、瀬戸内市で行われたウィキペディアタウンに参加した。「みんなでつくる“まちの事典”~ウィキペディアタウン in 瀬戸内市」というタイトルで、「第11回としょかん未来ミーテイング<特別編>」と添えられている。瀬戸内市は新図書館を建設するにあたって市民参加型のワークショップを継続的に開催しており、その特別篇という扱いのイベントだった。

 

 

瀬戸内市内を歩く

午前中には現・瀬戸内市立図書館に向かう。瀬戸内市の中心駅であるJR赤穂線邑久(おく)駅で降り、市街地中心部に向かって15分ほど歩く。とはいうものの、広い千町(せんちょう)平野の中央にできた邑久市街地には核がなく、邑久地域の人口2万人の存在を感じることができない。

 

前日19日の日中は穏やかな日差しが注いでいたが、その日の夜から20日にかけては雨が降り続けた。このイベントは午後からの開催だったが、まちあるきがなかったのは結果的によかったし、邑久町でまちあるきイベントを行うのは難しいのかもしれない。オリーブで有名な牛窓町や、刀剣や福岡地区で有名な長船町ならまちあるきのし甲斐がありそうだ。

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画像は新・瀬戸内市立図書館。名称は「瀬戸内市民図書館」で、愛称は「もみわ広場」。図書館の指針「もちより・みつけ・わけあう広場」が愛称の由来。このイベントが開催された2月20日時点では開館日を知らなかったが、この画像ではすでに館内の書庫や図書が目に留まる。

 

 

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こちらの画像は分館である牛窓町公民館図書室。2004年の合併以前は「牛窓町立『図書館』」、2004年から2010年までは「瀬戸内市牛窓『図書館』」、2010年には格下げされて「牛窓町公民館『図書室』」、2016年6月1日からは再び図書館となって「瀬戸内市牛窓『図書館』」という、複雑な歴史を持つ。

 

 

現・瀬戸内市立図書館

現・瀬戸内市立図書館は瀬戸内市中央公民館に併設されている。「図書館」という名前がついているものの、その延床面積は118m2ときわめて小さく、高校の図書室並におもえる。

瀬戸内市から岡山市までの距離は約20km、自動車で30分であり、岡山市のベッドタウンであるらしい。岡山市には日本最高峰の都道府県立図書館である岡山県立図書館がある。瀬戸内市の貧弱な図書館事情は、岡山県立図書館の存在も関係しているのかもしれない。

 

瀬戸内市立図書館に関する資料がほしいというレファレンスを行うと、職員さんが司書さんにバトンタッチし、忙しいなか司書さんが対応してくれた。ありがたい。

午後からのウィキペディアタウンイベントのために、司書さんは200m離れた図書館と市役所を往復しているらしい。数日前にイベントについて問い合わせたときに対応してくれたのもこの司書さんのようだ。

この図書館ではウィキペディアに掲載するために図書館室内の写真を撮る許可をもらったのだが、注意不足でカメラの電池が切れてしまっていた。新図書館開館後には現図書館は閉鎖されるはずで、狭い図書館の様子を伝える貴重な写真を撮る機会を逃してしまった。

現・瀬戸内市立図書館は3月28日をもって閉館となった。20年後には現行図書館のことを知らない世代が増える。狭くて使いにくい図書館があったことを後の世代にも伝えてほしい。

 

 

ウィキペディアタウンin瀬戸内市

13時には瀬戸内市役所2階にある会議室を使ってイベントが始まる。参加無料・事前登録なしのイベントであるが、すでにワークショップを10回も開催している。参加人数はある程度見当がついているらしい。参加者は瀬戸内市民約15人。200kmも離れた京都から来た頭のおかしな1名のほかは、全員が瀬戸内市民のようだ。

室内には司会の男性(市役所職員?)、新瀬戸内市立図書館準備室長の嶋田学さん、ゲスト講師である岡本真さんに加えて、前述の司書さん、数人の職員(図書館員? 市役所職員?)がいる。市民団体が主催するウィキペディアタウンでは主催者と参加者の壁をほとんど感じないが、この日は観察されているような感じを受けた。

 

男女比はほぼ同等、わずかに女性のほうが多い。年齢層は女子大生から50代男性まできれいにばらけていた。各テーブルごとに1台または2台のiPadが配られ、これを使って書き込みを行うようだ。

対象記事は牛窓町で活動した洋画家「佐竹徳」。1,100バイトのスタブであり、画像も存在しないが、瀬戸内市民ならだれでも知っている郷土の名士なのだろう。対象記事を選定したのは嶋田学さんだろうか、それとも岡本真さんだろうか。記事の選定が素晴らしいと思う。

 

岡本真さんはアカデミック・リソース・ガイド(ARG)の代表を務めている。著書は読んだことがあったがお会いするのは初めて。岡本真さんによるウィキペディアのレクチャーを1時間ほど聞いた後に、休憩を挟んで執筆作業を開始する。

文献は司書さんが用意してくださった。画集が数冊出版されており、さらに新聞記事が配られる。書籍もある。座ったテーブルごとに3人ずつくらいのグループとなり、グループごとに異なる文献を用いて同じ記事の加筆を試みる。岡本真さんが各グループのフォローに入り、職員の方はイベントの経過を後ろで見ているだけのようだ。

iPadは扱いが難しい。不慣れな端末で思うように文章が書けない。また、IPアドレスがブロックされているためにアカウントを作成できない参加者もいた。iPadが重すぎて画像をアップロードできないこともあった(結局岡本真さんが自前のノートPCからアップロードした)。

 

瀬戸内市は写真共有サイト「せとうちデジタルフォトマップ」を運営している。この画像共有サイトはオープンデータの形式に近く、公共図書館が営利利用を許可した珍しいケースだという。岡本真さんと嶋田学さんは、このサイトの中から佐竹徳の画像をアップロードする作業を行う。ウィキペディア記事「佐竹徳」の現行版(2016年5月19日時点)にも、この時にアップロードされた画像が使われている。

しかし後日、他のウィキペディアンから「せとうちデジタルフォトマップ」の利用規約について指摘された。この画像共有サイトは画像の使用方法を一定程度制限しており、Wikimedia Commonsのライセンスと合致しないという指摘だった。この指摘は岡本真さんにも伝えているが、利用規約を改正するのは難しいだろう。画像の削除が必要かもしれない(正確には「直ちに削除依頼を出すべき」だ)。

 

 

この日のイベントは13時から16時までと短く、執筆時間は2時間弱しかなかった。しかし、イベント前に1,100バイトだった「佐竹徳」は2,100バイトになり、「せとうちデジタルフォトマップ」から顔写真が追加された。

主催者が期待していた成果があったかは定かでなく、イベントに参加しきれていない参加者もいたが、比較的和やかな雰囲気で進んだ。イベントの合間に岡本真さんや嶋田学さんと少しだけ話すことができた。

瀬戸内市ウィキペディアタウンは継続して行われているイベントではないが、イベントの開催方法などでも得るものがあった。翌日には私が小加筆とアトリエ画像の追加を行い、「佐竹徳」は4,700バイトとなった。この記事に3月以降の更新はない。

 

 

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記事「佐竹徳」に後日追加したアトリエの画像。「赤屋根」と呼ばれる。牛窓オリーブ園にて。

 

 

瀬戸内市の図書館事情

2011年に策定された「新瀬戸内市立図書館整備基本構想」には瀬戸内市立図書館の現状が記されている。1人あたり貸出冊数が岡山県24自治体中24位、貸出カード登録率も24位、1人あたり蔵書冊数も24位、1人あたり受入冊数も24位、1人あたり年間資料費も24位と、見事に県内5冠を達成している。

 

2009年に就任した武久顕也市長は図書館整備を公約に掲げ、滋賀県永源寺図書館に関わった嶋田学さんが2011年に新瀬戸内市立図書館準備室長に就任。当初の計画からは遅れたものの、2016年6月1日に新図書館が開館する。

「男木島図書館」(2月12日初版投稿・2月14日開館)と同じように、開館日の数日前に「瀬戸内市立図書館」をウィキペディアに作成することを目指し、5月28日になってようやく投稿できた。現時点の完成度はあまり高くないが、6月1日に開館してメディア露出が増えたら、改めて加筆したい。

 

瀬戸内市立図書館 - Wikipedia

 

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 牛窓オリーブ園から見る多島海(「日本のエーゲ海」)