振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「ZIZOTOWN ウィキペディアタウン常吉」に参加する

f:id:AyC:20191204184950j:plain

(写真)蓑を着せられた平地地蔵。

 

2019年11月23日(土・祝)、京都府京丹後市で開催された「ZIZOTOWN ウィキペディアタウン常吉」に参加しました。

京丹後市大宮町常吉(つねよし)地区の伝統行事である「平地地蔵の蓑着せ」の当日に開催され、会場は常吉地区にある商店のつねよし百貨店です。主催は丹後地方の事物についてWikipediaOpenStreetMapを編集する団体「edit Tango」、共催はつねよし百貨店と京丹後市観光公社大宮町支部です。私はWikipedia編集の講師という役割で、Power Pointのスライドを使った講習と編集サポートを行っています。

 

1. 常吉地区を訪れる

f:id:AyC:20191205230757p:plain

(地図)京阪神における京丹後市の位置。©OpenStreetMap contributors

f:id:AyC:20191205230744p:plain

(地図)丹後半島における常吉地区の位置。©OpenStreetMap contributors

 

1.1 大宮町口大野地区

前日には兵庫県豊岡市の豊岡劇場を訪れ、そのまま豊岡市内のビジネスホテルに泊まりました。京都丹後鉄道で京丹後大宮駅に向かい、そこから車で大宮町上常吉を目指します。大宮町の中心地である口大野(くちおおの)には小規模な商店街が形成されており、ビジネス旅館の中村屋旅館は健在、登録有形文化財の旧口大野村役場庁舎などもありました。街道に並行して走る水路などもあり、きちんと訪れて歩いてみたい地区です。

f:id:AyC:20191204185053j:plain

(写真)京都丹後鉄道京丹後大宮駅

f:id:AyC:20191204185102j:plainf:id:AyC:20191204185108j:plainf:id:AyC:20191204185112j:plain

(左)口大野地区の街並み。(中)中村屋旅館。(右)旧口大野村役場庁舎。登録有形文化財

 

1.2 「平地地蔵の蓑着せ」行事

スケジュール

07:45 つねよし百貨店に集合

08:00-09:00 「平地地蔵の蓑着せ」行事の見学

09:00-09:40 平地地蔵解説と芋煮会

09:40-11:00 上常吉地区のまちあるき

11:00-12:00 休憩・昼食

12:00-12:30 Wikipedia講習(かんた)

13:30-16:30 Wikipedia編集

16:30-17:00 成果発表

 

朝の8時からは平地峠の地蔵院で行われる「平地地蔵の蓑着せ」行事を見学。行事は曜日に関係なく毎年11月23日で固定だそうで、土曜日に当たっていた2019年は見学しやすくてラッキーでした。まずは常林寺の住職と7人の氏子が裸体(?)の地蔵に参拝し、その後氏子が協力して蓑を着せていきます。蓑は見かけによらず重いそうで、苦戦しながら着せていたのがよくわかりました。

ローカルニュースで取り上げられることも多いようで、京都新聞など何人ものカメラマンが行事を取材しています。我々と同じ見物客には外国の方もいました。地蔵の身体に蓑を巻き付け、頭に傘をかぶせ終えると、再び氏子が地蔵に向かって参拝し、今年の行事も終了です。

f:id:AyC:20191204185355j:plain

(写真)平地地蔵に参拝する常林寺の住職と氏子。

f:id:AyC:20191204185400j:plainf:id:AyC:20191204185405j:plainf:id:AyC:20191204185411j:plain

f:id:AyC:20191204185448j:plainf:id:AyC:20191204185419j:plainf:id:AyC:20191204185425j:plain

(写真)平地地蔵に蓑を着せる常林寺の氏子。

 

1.3 平地地蔵解説と芋煮会

9時頃にはつねよし百貨店 - Wikipediaに戻ります。ぜひWikipedia記事を読んでいただきたいのですが、つねよし百貨店は常吉地区唯一のよろず屋であり、コミュニティセンター的機能も持つ施設です。建物の奥には机といすがある交流スペースとなっており、Wikipediaの編集もここで行います。

f:id:AyC:20191204185912j:plain

(写真)つねよし百貨店。photo by 漱石の猫 CC BY-SA 4.0

f:id:AyC:20191204190323j:plainf:id:AyC:20191204190342j:plain

(左)ZIZOTOWNの手書きポスターが貼られたつねよし百貨店の入口。(右)この日のつねよし百貨店に並べられていた野菜。

 

つねよし百貨店の屋外では大きな鍋の芋煮がふるまわれ、京丹後市観光公社大宮町支部の方に平地地蔵の解説を聞きました。観光公社の方はきちんと郷土資料を参照しながら、平地地蔵の特徴や歴史について解説してくださいました。

f:id:AyC:20191204190138j:plain

(写真)芋煮の大鍋。

f:id:AyC:20191204190143j:plainf:id:AyC:20191204190149j:plain

(左)京丹後市観光公社大宮町支部によってふるまわれた芋煮。

f:id:AyC:20191204190206j:plainf:id:AyC:20191204190211j:plain

(左)平地地蔵について説明する観光公社の方。(右)芋煮会の会場。

 

2. 上常吉を歩く

今回のまちあるきはつねよし百貨店を起点・終点とし、上常吉の集落内は徒歩で、やや離れている常吉浄水場と白滝不動堂は参加者の車に相乗りしてめぐりました。

f:id:AyC:20191205230455p:plain

(地図)上常吉の色別標高図。国土地理院 地理院地図

2.1 富持神社

常吉の集落から見ると常吉川の反対側にあるのが富持神社(ふじじんじゃ、冨持神社)。拝殿と本殿の周囲には堀がめぐらされていました。1898年(明治31年)建立の鳥居、地衣類やコケに覆われた狛犬の存在などもあって、旧村社にしては風格がある神社です。

f:id:AyC:20191204190502j:plain

(写真)富持神社の鳥居と境内。

f:id:AyC:20191204190520j:plainf:id:AyC:20191204190528j:plain

(左)明治31年建立の鳥居。(右)地衣類やコケに覆われた狛犬 

f:id:AyC:20191204190539j:plainf:id:AyC:20191204190544j:plain

(左)堀に囲まれた拝殿。(右)拝殿を調査する参加者。

f:id:AyC:20191204190557j:plain

 (写真)富持神社から見た上常吉地区。右奥に上常吉公民館。中央左奥に経典寺。

 

2.2 常吉小学校跡

常吉の北端にあるのが上常吉公民館であり、公民館は大宮町立常吉小学校跡に建っています。1980年(昭和55年)に統合されて廃校になったそうですが、廃校当時の上常吉の人口は380人程度、下常吉と合わせても700-800人程度だったと思われ、独立した小学校が存在していたことが驚きです。

公民館の敷地内には小学校時代の名残と思われる木造の建物、「常吉小学校跡」の石碑がありました。文化財としての価値があるかどうかはともかく、どちらもこの小さな集落に小学校があったことを如実に語るものであり、実際にまちを歩かないと気付かないものです。

f:id:AyC:20191204190613j:plainf:id:AyC:20191204190623j:plain

(左)上常吉公民館。(右)常吉小学校時代の建物。

f:id:AyC:20191204190630j:plainf:id:AyC:20191204190640j:plain

(写真)常吉小学校跡の石碑。

 

2.3 経典寺

集落の中心部に近い高台には、日蓮宗の経典寺があります。日蓮宗の寺院にはあまりなじみがないのですが、本堂の屋根が2段になっているのが個性的。階段下からも見える立派な山門は江戸時代の建築物だそうです。

f:id:AyC:20191204190700j:plain

(写真)経典寺。

f:id:AyC:20191204190708j:plainf:id:AyC:20191204190714j:plain

(左)経典寺の本堂。(右)経典寺近くにある稲荷社とイチョウ

 

集落のメインストリートは等高線と並行に通っており、道路の山側には水路が流れていました。常吉川から水を引いていると思われますが、それなりの流量があって生活用水には困らないようです。

f:id:AyC:20191204190739j:plainf:id:AyC:20191204190725j:plain

(左)水路が流れる上常吉地区の街並み。(右)経典寺から見た上常吉地区の街並み。

f:id:AyC:20191204190759j:plainf:id:AyC:20191204190805j:plain

(左)名物「つねよしうどん」を製造する小塚製麺。(右)町歩き中に地蔵を見つけた参加者。

 

2.4 白瀧不動明王常吉浄水場

ひととおり集落を歩いた後は、車2台に分かれて常吉川をさかのぼります。常吉川の上流には大宮町域に水を供給する常吉浄水場があり、また白滝不動明王(白滝不動堂)がありました。白滝不動明王の脇には落差5mの白滝の脇があり、落差は小さいものの水量があるため見ごたえがあります。

f:id:AyC:20191204190841j:plainf:id:AyC:20191204190848j:plain

(左)白滝不動明王。(右)常吉川の上流部にある白滝。

f:id:AyC:20191204190857j:plain

(写真)常吉川の上流部にある常吉浄水場

 

3. Wikipediaを編集する

おひるにはつねよし百貨店に戻り、まちあるき時に訪れた小塚製麺のつねよしうどんを食べました。その後はWikipediaについての講習を行い、各自で編集したい記事を選んで新規作成を行いました。

今回の講習で用いたPower PointのスライドはSlide Shareにアップロードしています。ざっくり章立てすると「1. 自己紹介」「2. ウィキペディアとは」「3. ウィキペディアタウンとは」の3章構成になっており、スライドからある程度は話が推測できるようにしています。

私がいつも強調しているのは、「Wikipediaは百科事典であり、新聞、公式サイト、観光サイトなどの他のメディアとは役割が異なる」「地域に関する記述はWikipediaのみならずウェブ全体で見ても少なく、その地域の方が発信する必要がある」とかなんとかです。自分の地域について発信する意識の高い方が増えることで、地域の活性化につながるうねりが生まれるかもね。

www.slideshare.net

 

 今回はウィキペディアタウンに何度か参加したことがある方が中心であり、また学校司書や自治体職員という文献調査にも文章作成にも慣れた方が中心だったため、1人1記事もしくは2人で1記事の新規作成に取り組みました。上常吉地区を概観する地名記事として「上常吉」を作成したうえで、上常吉地区にある寺院「経典寺」、神社「冨持神社」、地蔵「平地地蔵」、仏堂「白滝不動堂」の記事を作成しました。

参加者のHさんは唯一の編集未経験者でしたが、常吉地区在住者ということで上常吉には詳しく、しかも他地域出身なので客観的な視点で上常吉を見ている方です。ウィキペディアタウンでこんな方がいることは珍しいので、Hさんには上常吉の記事を担当してもらいました。まず上常吉Wikipedia記事には何を書けばいいか考えてもらい(節構成)、紙にペンで文章をまとめてもらいました。その文章をパソコンに打ち込むのは私が担当し、さらに加筆して投稿しています。Wiki記法を覚えるのもイベントのうちという考え方もありますが、今回はWiki記法にてこずって時間を取られるのを避け、常吉地区在住者の強みを活かしてもらおうと思ったのです。

 

f:id:AyC:20191204190905j:plain

(写真)つねよし百貨店の店内にある交流スペースでWikipediaを編集する参加者。

 

今回の編集記事(いずれも新規作成)

上常吉 - Wikipedia - 地区を概観する記事。

経典寺 - Wikipedia - 上常吉にある寺院。

冨持神社 - Wikipedia - 上常吉にある神社。

平地地蔵 - Wikipedia - 上常吉にある地蔵。

白滝不動堂 (京丹後市) - Wikipedia - 上常吉にある仏堂。

 

イベント終了後にも参加者によって加筆や修正が加えられています。今回のイベントの午前中には平地地蔵の蓑着せ行事を見学したわけですが、Wikipedia「平地地蔵」の記事中で、行事の流れが写真で説明されてるのがわかりやすい。また、峠の頂上という重要な場所にあることも写真で説明されています。行事の写真は1年に1回の行事を見学した方しか撮れません。写真・地図・その他の図はどんどん載せましょう。

f:id:AyC:20191205224257p:plain

(写真)平地地蔵 - Wikipedia。蓑着せ行事の説明。