振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

東加茂郡足助町の映画館

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(写真)取り壊し前の足助劇場。

2019年(令和元年)9月、愛知県豊田市の旧東加茂郡域(旧足助町・旧稲武町・旧旭町)を訪れました。3町とも2005年(平成17年)に豊田市編入された自治体であり、かつては3町それぞれに映画館がありました。

 

これらの映画館について調べたことは「豊田県の映画館 - 消えた映画館の記憶」に掲載しており、また映画館の所在地については「消えた映画館の記憶地図 - Google My Maps」にマッピングしています。

hekikaicinema.memo.wiki

www.google.com

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 (地図)愛知県における旧足助町・旧稲武町・旧旭町の位置。©OpenStreetMap contributors

 

1. 足助町を訪れる

近世の足助は奥三河の拠点となる町であり、三河国平野部と信濃国を結ぶ三州街道/中馬街道(塩の道)の宿場町として栄えました。近代には東加茂郡役所が置かれ、現代には香嵐渓が愛知県有数の観光地となりました。現在でも重厚な印象を与える塗籠の町家が多く残っており、2011年(平成23年)には愛知県で初めて重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。

このように近世から経済力のある町であり、また最寄りの都市(挙母豊田市)から地理的に離れていることもあって、明治初期には芝居小屋の西盛座が開館。戦後には西盛座が映画館に転換した上に、映画専門館として足助劇場も開館し、2映画館が共存していたようです。また、足助町北東端の明川地区には明川映画劇場があったようです。

 

豊田市名鉄豊田市駅岡崎市名鉄東岡崎駅から名鉄バスが、豊田市の猿投駅からおいでんバス(コミュニティバス)が、足助町に向けて運行されています。足助町は愛知県有数の観光地ではありますが、公共交通機関は便利とはいえず、自動車で訪れる観光客が多いと思われます。

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(写真)1970年代の足助町中心部の航空写真。

 

足助市街地は建物が密集していて広い土地がありませんが、西町の北側にある足助病院跡地には巨大な豊田市足助交流館が建っており、足助交流館図書室もあります。

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(写真)豊田市足助交流館。

 

重要伝統的建造物群保存地区の中心は新町と本町。西町のマンリン書店は書店とギャラリーと喫茶店を兼ね備えた店舗であり、江戸時代に建てられた建物を使用して1930年(昭和5年)に開店した歴史ある書店です。マンリン書店の東側から足助劇場跡地方面に伸びる路地がマンリン小路。本町にも書店の白久商店がありますが、こちらも築200年の建物を使用しています。若い経営者が古い建物でカフェや雑貨屋を営むのではなく、昔から同じ経営者が同じ建物で営む店舗が多い印象です。

映画館の話を聞いた足助両口屋の正面には、2013年(平成25年)に重要文化財に指定された旧鈴木家住宅があります。旧鈴木家住宅は2014年度(平成26年度)から2022年度(令和4年度)までの予定で改修工事を行っています。街並みの中に観光客が滞留出来る拠点施設がないのが足助の欠点なので、旧鈴木家住宅がどのような役割を持った施設として公開されるのか楽しみです。

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(左)新町にある書店兼喫茶店「マンリン書店」。右端はマンリン小路。(右)マンリン小路。

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(左)本町にある書店「白久商店」。(右)本町にある和菓子舗「足助両口屋」。

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(左)田町にある「莨屋 塩座」(たばこや しおざ)。豊田市指定有形文化財。(右)田町にある「足助中馬館」。登録有形文化財

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(写真)新田町。左は山城屋旅館。

 

2. 足助町の映画館

2.1 足助劇場(1952年8月-1964年頃)

所在地 : 愛知県東加茂郡足助町大字足助陣屋跡(1964年)
開館年 : 1952年8月
閉館年 : 1964年頃
『全国映画館総覧 1955』によると1952年8月設立。1950年の映画館名簿には掲載されていない。1953年・1955年の映画館名簿では「足助劇場」。1958年の映画館名簿には掲載されていない。1960年・1963年・1964年の映画館名簿では「足助劇場」。1964年の映画館名簿では経営者が木本幹夫、支配人が山田道雄、木造平屋建暖房付、370席、邦画・洋画を上映。1965年・1966年の映画館名簿には掲載されていない。2018年取り壊し。跡地は居酒屋「たんぽぽ」の北向かいにある月極駐車場。

1952年(昭和27年)頃には地元住民による出資で足助劇場が開館しました。1960年代末、『伊豆の踊子』の上映を最後に閉館しましたが、建物はその後も所有者である平野建材の倉庫として使用されていました。

2017年には2018年4月には朝日新聞足助劇場が映写機の譲渡先を探しているとする記事が掲載されました。5月には譲渡先が決定して建物の取り壊しが行われているとする記事も掲載され、取り壊し後の足助劇場跡地は月極駐車場となっています。2018年7月にはWikipediaに記事「足助劇場 - Wikipedia」を作成しました。

 

ja.wikipedia.org

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(地図)現在の豊田市足助地区(本町)の地図。

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(写真)取り壊される前の足助劇場。2017年9月。

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(写真)足助劇場跡地。2019年9月。


 

2.2 西盛座(1871年-1964年頃)

所在地 : 愛知県東加茂郡足助町足助西町(1964年)
開館年 : 1871年
閉館年 : 1964年頃
1936年・1943年・1947年の映画館名簿には掲載されていない。1950年・1953年・1955年・1960年・1963年・1964年の映画館名簿では「西盛座」。1966年の映画館名簿には掲載されていない。1973年の全航空住宅地図帳では跡地に「八木輝」邸。1979年のアイゼン住宅地図では跡地に「ギョーザ・ラーメン チュン」。跡地は国道153号のすぐ北側にある「中野歯科」とその西側一帯。

西盛座は1871年明治4年)に開館した芝居小屋であり、1階中央部は椅子席、1階の両側と2階は畳敷き席だったようです。当初は芝居・歌舞伎・浪曲などが主であり、戦後に映画上映が主となったようです。1958年(昭和33年)には楽屋から出火して全焼しましたが、建物を再建して映画専門館として営業を再開したようです。

足助両口屋のおかみによると、「西盛座の跡地は中野歯科の建物や駐車場を含む周辺一帯」だそうです。足助両口屋の主人は西盛座が火災後に再建されたことを覚えており、「足助劇場は日活、西盛座は東映」と記憶していました。

2021年(令和3年)秋に旧田口家住宅で開催された「足助の町並み図屏風展」を訪れていた地元在住の男性(70代?)に話を聞くと、「西盛座は西町の通りにあり、現在は中野歯科がある辺りである。西盛座は子供の頃(※記録によると1958年)に火事で焼け、劇場としては再建されなかった」とのことです。

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(地図)西盛座が描かれている『大日本職業別明細図』昭和初期。

 

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(地図)現在の豊田市足助地区(西町)の地図。

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(写真)西盛座の跡地にある中野歯科。手前は国道153号。

 

2.3 明川映画劇場(1955年頃-1957年頃)

所在地 : 愛知県東加茂郡足助町明川(1956年・1957年)
開館年 : 1955年
閉館年 : 1957年
1955年の映画館名簿には掲載されていない。1956年・1957年の映画館名簿では「明川映画劇場」。1958年・1960年の映画館名簿には掲載されていない。

 

国道153号で足助市街地から稲武市街地に向かう際には、ちょうど中間付近で足助町明川(あすがわ)を通ります。1950年代後半の映画館名簿には明川映画劇場が登場するものの、正確な場所などの詳細は不明です。

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(地図)足助町明川の位置。©OpenStreetMap contributors