振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「小さなit相談室 Wikipedia Labo 岐阜市の伝統産業編」に参加する

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 (写真)岐阜和傘。

 

 

2019年4月21日(日)、Code for Gifuが主催する「小さなit相談室 Wikipedia Labo 岐阜市の伝統産業編」に参加しました。Code for Gifuは岐阜県をエリアとするシビックテック団体。2016年秋から1か月に1回の頻度で「小さなit相談室」というミニ講座を開催しているそうで、今回はWikipediaについてのミニ講座です。小さなit相談室を紹介するこのスライド、とてもかっこいいしわかりやすい。

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(写真)2016年8月のみんなの森 ぎふメディアコスモス。

 

ぎふメディアコスモスを訪れる

「小さなit相談室」の会場はみんなの森 ぎふメディアコスモス - Wikipedia。この複合施設は1階に市民活動交流センターや多目的ホールなどがあり、2階に岐阜市立中央図書館があります。団体のミーティングやコピー/印刷/その他作業に使える1階の「つくるスタジオ」は、活動団体登録をしていれば無料で使用できるそうです。大きなガラス窓からは1階のロビー部分が見え、1階のロビーからもつくるスタジオで何をしているかわかります。

ぎふメディアコスモス内ではGifu-City Free Wi-Fiが使えますが、この2019年1月には接続時間が「15分×4回」(1日1時間)から「30分×8回」(1日4時間)となりましたWikipediaの編集をする上では、そのIPアドレスがブロックされていないことが重要だし、1回あたりの接続時間が長いことが重要です。30分ごとに接続し直す手間はかかっても、今回のようなイベントに公衆無線LANが使えるのはありがたい。

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(写真)岐阜市立中央図書館。(左)この日がお披露目式だった「共読本棚」。(右)2018年7月に設置された「川舟型読書スペース」。

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(写真)ぎふメディアコスモス1階の「つくるスタジオ」。

 

編集する題材を選ぶ

参加者はCode for Gifuの石井さん、私(かんた)も含めて4人。私はWikipediaの編集対象として岐阜市加納地区の伝統工芸品である「岐阜和傘 - Wikipedia」を選び、イベント中にはWikipediaの説明役を務めました。

昨年秋にはぎふメディアコスモス1階の天井に色とりどりの岐阜和傘が吊るされていたように、岐阜和傘は岐阜市民にはおそらくなじみ深い伝統工芸ですが、詳しく知っている方は多くない伝統工芸だと思います。Wikipediaの記事は12年も前から存在しますが、文章量はそれほど多くなく、出典がひとつもつけられていない状態でした(イベント前日の状態)。

「岐阜和傘」という題材を選んだことで、岐阜大学地域科学部の富樫幸一先生が参加してくださいました。富樫先生は経済地理学を専門とする研究者であり、岐阜和傘や加納地区についても研究されています。2017年12月にはブラタモリに出演し、この2019年3月に刊行された『岐阜市史 現代版』では編さん専門委員会委員長を務めた方でもあります。

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(写真)岐阜和傘 - Wikipedia

 

Wikipedia「岐阜和傘」を編集する

今回のイベントでは以下のようなスケジュールを考えました。まずは標準的なウィキペディアイベントと同じように、Wikipediaについて簡単な説明を。その後、何枚か持って行った新聞記事を出典として「岐阜和傘」に一文を加筆してもらい、Wikipediaの編集の仕方を理解したり、加筆の方向性を考えてもらう。次に図書館の郷土資料コーナーで文献を集め、手持ちのノートパソコンで本格的な編集を行ってもらうという流れです。Wi-Fiや電源が使えるイベントスペースが簡単に借りられ、同一施設内で文献集めもできる点で、ぎふメディアコスモスは全国的に見て稀な施設だと思います。

 

スケジュール(13:00-16:00)

1. Wikipediaの説明

2. Wikipediaのミニ編集

3. 図書館で文献調査

4. Wikipediaの本格的な編集

 

いちおう図書館での文献集めも行いましたが、今回は富樫先生や別の参加者の方が文献を持参してくださいました(※文献持参という告知はしてない)。『加納町史』や刊行されたばかりの『岐阜市史』などの硬い文献から、下の写真のようなやわらかい文献まで。

写真の右下は私が持参した文献のコピーです。写真や図などを多用した文献で岐阜和傘の概要を掴んだうえで硬い文献に取り掛かる、という流れを想定していましたが、こちらがそんな配慮をする必要がないほど、岐阜和傘について理解されている方々が参加者でした。

編集対象記事:「岐阜和傘 - Wikipedia

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(写真)参加者が持参した文献。

 

イベント後には参加者全員で「長良川てしごと町屋CASA」を訪れました。川湊として栄えた川原町 (岐阜市) - Wikipedia地区にあるこの店は、岐阜和傘を取り扱う唯一の小売店だそうです。艶やかな和傘が何十本も並べられており、富樫先生が複雑な構造について説明してくださいました。傘の開閉時に上下させる「ロクロ」の話が気になりました。

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 (左)川原町を歩く参加者。(右)川原町にある「長良川てしごと町屋CASA」。

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(写真)「長良川てしごと町屋CASA」の岐阜和傘。(左)複雑な和傘の構造。(中)構造について説明してくれる富樫先生。(右)閉じた状態だと黒一色に見える和傘。

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(写真)「長良川てしごと町屋CASA」の岐阜和傘。(左)和傘の表面。(中)開いた和傘と閉じた和傘。(右)漆が塗られた骨部分。

 

岐阜和傘の生産は1950年頃がピークで、この地域だけで年間1,500万本も生産していたらしい。当時の日本の人口は約8,000万人なので、日本人の5人に1人が岐阜和傘を買っていた計算になる。当時の日本は熱帯雨林に覆われていて、毎日滝のように雨が降っていたんだろうと思います。

岐阜和傘はいわゆる伝統工芸品 - Wikipediaであり、伝統工芸品は一般的に「守らなければいけない」ものと考えられていると思います。守らなければいけないかどうかはともかく、私は「伝えていかなければいけない」と思っています。富樫先生のような研究者が『加納町史』や『岐阜市史』をまとめてくださっています。それらの文献をウェブ上でまとめかえて伝えたいと思い、今回の題材に岐阜和傘を選びました。

 

現在の岐阜和傘の生産本数は年間数万本だそう。ネットで検索すると1万円から3万円程度の価格の商品が多く、日用品ではなく美術品というべきかも。これから日用品としての需要が増加することは考え難いですが、このままなくなる産業ともいえないようです。前述の「長良川てしごと町屋CASA」のオープンは2018年5月のこと。この2019年2月にはエミリー・ブラントに桜和傘を贈ったことがtwitterで話題になるなどしており、動きのある伝統工芸品といえるかもしれません。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このブログにおける文章・写真は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンス(CC BY-SA 4.0)の下に提供されています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。