(写真)熱海市立図書館。
2019年(令和元年)3月末、静岡県熱海市にある熱海市立図書館を訪れました。
※2021年6月には本記事から「熱海市の映画館」を分割しました。
1. 熱海市立図書館
(地図)静岡県熱海市の位置。©OpenStreetMap contributors
1.1 図書館の歴史と特徴
1915年(大正4年)には田方郡熱海町に町立熱海図書館が開館。しばしば熱海に滞在したB文芸評論家の坪内逍遥も図書館の設置に協力しており、開館時の蔵書の中心は逍遥の蔵書でした。
その後、逍遥先生記念町立熱海図書館、逍遥先生記念市立熱海図書館、市立熱海図書館、熱海市立図書館と名を変えながら、100年以上に渡って途切れることなく歴史が続いており、熱海市立図書館は「静岡県に現存する最古の図書館」であるとされます。その歴史の深さに興味を持ち、2016年(平成28年)9月には「熱海市立図書館 - Wikipedia」を作成しました。
(写真)坪内逍遥。
施設面では東京電力熱海営業センタービルを賃貸借している点、蔵書面では温泉資料コーナーや熱海市立図書館デジタルライブラリーなど、運営面ではカウンターボランティアの存在が特徴として挙げられます。建物に入ってすぐの場所には大きな文字で「熱海の歩みを学べる図書館」「市民が集える図書館」「市民と共に創っていく図書館」という方針が掲げられています。
1.2 民間施設の賃貸借
2009年(平成21年)から熱海市は、東京電力熱海営業ビルの3階から5階を賃貸借して図書館として利用しています。東電ビルは傾斜地にあるため、図書館への入口は4階です。4階にはブラウジングコーナー・地域資料・文芸書などがあり、3階には児童書、5階には一般書があります。図書室外の階段またはエレベーターを使って移動する必要があり、各階で図書館が分断されてしまっています。3階層それぞれにカウンターが設置されており、各階にカウンターボランティアが常駐しています。
なお、多目的ホールや図書館が入る複合施設「熱海フォーラム」の建設して移転する構想がありますが、PFI方式の採用に対する市民からの反対意見もあり、2020年東京オリンピック後まで凍結されているようです。
(写真)熱海市立図書館の建物。
1.3 地域資料と温泉資料
熱海市の市制施行は1937年(昭和12年)であり、静岡市、浜松市、沼津市、清水市に次いで静岡県で5番目でした。地域資料コーナーには戦前や戦後すぐの時代の熱海について書かれた資料も多数あります。保養地として東京方面との交流が深く、神奈川県に接していることもあって、地域資料は「熱海市」、「静岡県」、「神奈川県」に分類されています。
地域資料コーナーの隣には温泉資料コーナーがあります。2019年3月29日の蔵書点検日に、それまで展示書架にあったコーナーを移動させたばかりだそうです。なお、空いた展示書架にはヤングアダルトコーナーの拡張に用いられる予定で、『この世界の片隅に』などの漫画が置かれるのだそうです。
温泉資料コーナーの蔵書は約200冊。雑誌の『温泉批評』『温泉科学』『週刊 日本の名湯』から、参考図書の『温泉大百科』、学術書の『温泉権の研究』まで、温泉に関する様々な文献が集められているのですが、観光客などが「熱海の温泉」について簡潔に知りたい時に役に立つかといえば疑問でした。熱海市には公立の資料館や博物館はないようであり、温泉資料を書架に詰め込むだけでなく、よりわかりやすい形で提示する意義はあると思います。
新聞コーナーには「2019年4月から日本経済新聞の紙媒体の購読を取りやめる」旨の貼り紙がありました。熱海市立図書館では「静岡新聞データベース plus 日経テレコン」を導入しており、紙媒体からデータベースへの移行を促したいのだと思われますが、購読を取りやめてしばらくは苦情もありそうです。
豊富にある歴史的な文献を活かすための熱海市立図書館デジタルライブラリーの存在は大きいです。2018年(平成30年)12月には電子書籍の貸出も開始されていますが、静岡県では磐田市・浜松市に次いで3番目。地域の歴史を重視し、かつ文献のデジタル化も重視している点に好感が持てます。
1.4 カウンターボランティア
熱海市立図書館にはカウンターボランティアが配置されており、図書の貸出・返却、書架の図書整理、図書の修復作業を行っています。『広報あたみ』によると同様のボランティアの存在は「全国でも例がない」のだそうです。私が観察していた限りでは、カウンターにはボランティアしかいませんでした。複写の申請や書庫資料の出納を行いましたが、対応してくださったのはいずれもボランティアでした。
60代以上と思われるボランティアも複数いましたが、30代・40代と思われる男性のボランティアも複数いました。30代のボランティアの方と軽く話しましたが、この方は熱海市民ではなく沼津市民とのことです。JR東海道線で来るとしたら交通費がかかるし、自家用車で来るとしたら峠を越える必要があります。カウンターボランティアという制度がどのような仕組みで成り立っているのか気になりました。逍遥のように白いヒゲを蓄えたボランティアの方もいましたが、この方は名物ボランティアとして知られているに違いないです。
珍しい存在が興味深い一方で、カウンターボランティアの利用者への対応はややルーズで危なっかしさも感じます。また、司書や正規職員の顔が見えず、最初に対応してくださるのがボランティアだとわかっているため、レファレンスもしづらいです。
1.5 写真撮影申請の対応
カウンターで(ボランティアの方に)「館内の写真を撮りたい」と言ったところ、まずは正規職員と思われる方に取り次いでくれ、それから管理室長という肩書の方に取り次いでくれました。この日は館長が不在であり、この方は館長に次ぐ地位の方だと思われます。
「写真は撮ってもよいが、肖像権などの問題があるため利用者を写さないように」「写真を(論文などで)外部に出す場合は、図書館に対してメールで改めて申請してほしい」とのことでした。
(左)利用者用入口脇が定位置(?)という珍しい移動図書館車。(右)図書館入口と図書返却ポスト。