振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

豊田市中央図書館を訪れる

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(写真)名鉄豊田市駅。左上は大型商業施設のT-FACE B館。

 

愛知県豊田市豊田市中央図書館が開館したのは1998年11月3日。2018年には開館20周年を迎え、数々の20周年記念イベントが開催されました。記念イベントの目玉企画として、11月3日には著作家椎名誠の講演会を開催しています。頻繁に訪れている図書館ですが写真で館内を紹介します。

 

1. 愛知県豊田市を訪れる

愛知県豊田市 - Wikipediaは人口約43万人の自治体。愛知県内では232万人の名古屋市に次いで2番目であり、歴史的に西三河地方の中心都市である岡崎市(約39万人)、尾張地方の中心都市である一宮市(約38万人)、東三河地方の中心都市である豊橋市(約37万人)を上回っています。「中部地方」という枠組みで見ると、名古屋市新潟市浜松市静岡市金沢市に次いで第6位だそうです。

豊田市トヨタ自動車を中心とする自動車産業によって発展した町であり、図書館に関する各種統計でも財政の豊かさをうかがうことができます。総蔵書数は全国の中核市の中で第1位の176万冊であり、市民1人あたり蔵書数は4.16冊。豊田市の一般会計予算は1783億円ですが、うち図書館費は7億3000万円、図書購入費は8300万円だそうです。(数字はいずれも2017年度事業年報より)

平成の大合併で4町2村を編入したことで、豊田市は愛知県でもっとも面積の大きな自治体となりました。公共図書館豊田市中央図書館の1館のみですが、中学校区ごとにネットワーク館という呼び名の公民館図書室が設置されています。中央図書館の蔵書数は115万冊ですが、ネットワーク館31館の蔵書数は計59万冊。ネットワーク館31館の総貸出冊数は中央図書館の貸出冊数を上回ります。

 

愛知県の公共図書館(中央館)の延床面積 ※名古屋市を除く。

1 12,567m2 豊田市中央図書館

2   7,895m2 岡崎市立中央図書館

3   6,808m2 安城市図書情報館

4   6,702m2 一宮市立中央図書館

5   6,102m2 日進市立図書館

 

愛知県の公共図書館の蔵書冊数 ※名古屋市を除く。

1 1,762,706冊 豊田市

2    893,255冊 岡崎市

3    784,900冊 春日井市

4    735,760冊 刈谷市

5    722,724冊 西尾市

 

愛知県の公共図書館の開架冊数 ※名古屋市を除く。一宮市春日井市は不明。

1 880,281冊 豊田市

2 494,175冊 岡崎市

3 449,510冊 安城市

 

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ネットワーク館の例。(左)逢妻交流館。(右)若林交流館図書室。手前に頭と耳だけ見えている人形は、皆さんもご存じのアレですね。
 

2. 豊田市中央図書館を訪れる

豊田市中央図書館は名鉄豊田市駅の再開発ビル「とよた参合館」(さんごうかん)にあり、13階建ての巨大なビルの3階から7階を占めています(7階は閉架書架)。なお、豊田市の図書館の歴史についてはWikipedia記事「豊田市中央図書館」にまとめてあります。

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(写真)豊田市中央図書館が入っているとよた参合館。名鉄豊田市駅からペデストリアンデッキで直結。

 

3階 「人文科学・洋書・新聞・本多兄弟文庫・障がい者サービス・ティーンズ」

豊田市中央図書館のメイン入口は3階。2000万円で購入したという噂の彫刻『文化の種 ミューズ達』を横目に自動ドアを通ると、正面には2018年初頭に設置された予約本棚があります。3階の総合案内カウンター前には6台もの自動貸出機も。2017年4月の指定管理者制度導入後に全蔵書にICタグが貼付され、これらの予約本棚・自動貸出機・自動返却などが設置されました。

指定管理者制度が導入されたことで、約100人(うち司書2人=2%)だった職員数は約80人(うち司書44人=55%)になりました。人件費は削減されているはずでなので、驚くほどの司書率の増加は悩ましい変化でもあります。

3階の総合カウンター正面にはメインのテーマ展示「年末年始を楽しく過ごそう」。その背後には20周年記念展示「豊田市中央図書館のあゆみ」が貼られています。そのわきには小規模なテーマ展示の書架があり、裏側は市民がお薦め本を紹介する「まちなかライブラリー」となっています。

豊田市に所在するスポーツチームを紹介する書架もあり、名古屋グランパス(サッカー)、トヨタ自動車ヴェルブリッツラグビー)、トヨタ自動車硬式野球部(野球)の3チームが紹介されています。他の大企業が企業スポーツチームを相次いで廃部させる中でもトヨタ自動車は “切らなかった” ことで知られており、日本トップリーグ連携機構(球技の全国リーグ組織)内のチームだけでもまだまだあるのですが。

 

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 (左)3階の図書館入口。(右)予約本棚。

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 (左)メインのテーマ展示「年末年始を楽しく過ごそう」。(右)20周年記念展示「豊田市中央図書館のあゆみ」。

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 (左)市民の推薦図書「まちなかライブラリー」。(中)テーマ展示「ゆ」「あったかフード」。(右)スポーツチームの紹介。

 

3階の奥には本多兄弟文庫があります。実業家の本多静雄と文芸評論家の本多秋五から寄贈された図書の展示室であり、この図書館の目玉のひとつだと思うのですが、子の展示室の中だけは時間が止まっているよう。うまく活用できているのかどうかは知りません。

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 (写真)本多兄弟文庫。

 

豊田市自動車産業関連企業では多くの外国人/日系人が働いています。人口42万人のうち13,000人が外国人だそうで、保見団地は外国人居住者が多い団地の例として挙げられることが多いです。3階には2列にわたって洋書の書架があり、英語書籍約7,000冊、ポルトガル語書籍約850冊、スペイン語書籍約350冊、ドイツ語書籍約120冊がありました。

壁面には「多言語で育つ子どもとその家族のためのおはなし教室」のチラシが貼ってありました。英語・ポルトガル語スペイン語・中国語・韓国語・ベトナム語・日本語の7言語のチラシが並べられています。主催は図書館ではなく市内のNPO法人だそうです。購読している外国語新聞にはThe New York Timesアメリカ・英語)、The Japan Times(アメリカ・英語)、Sao-Paulo Shinbun(ブラジル・ポルトガル語)、人民日報(中国・中国語)などがありました。

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洋書コーナー。(右)ポルトガル語図書とスペイン語図書。

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 (左)「多言語で育つ子どもとその家族のためのおはなし教室」のチラシ。(右)外国語新聞。

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ティーンズコーナー。(右)図書館文芸部員募集のチラシ。

 

4階 「自然科学・自動車資料・郷土資料・児童コーナー」

3階からエスカレーターで4階に上がると正面は児童コーナー。この図書館はワンフロアがとても広いので、児童コーナーの周囲には透明な柵が設置されており、入口は木製のアーチがある1か所のみです。この入口は4階の総合カウンターからも見える場所にあります。この図書館では各階に大きなカウンターがあり、その正面には自動貸出機や蔵書検索機が設置されています。

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 児童書コーナー。(左)入口。(中)絵本。(右)ティーンズ向け文庫本。

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 4階総合案内。(左)カウンター付近。(右)自動貸出機。

 

4階には自動車資料コーナーがあります。自動車資料の図書と雑誌バックナンバーは約61,000冊、カタログは約11,000冊を所蔵しており、雑誌は約200誌を購読しています。自動車資料だけで公共図書館の分館1館分くらいあるでしょうか。雑誌は『カーグラフィック』や『F1速報』などの一般向け雑誌はもちろん、『豊田自動織機技報』や『いすゞ技報』などの技術論文誌、『Motor Sports』(イギリスの一般向け雑誌)、『Journal of Transportation Engeneering』(アメリカの学術雑誌)などの英語雑誌も新着雑誌書架に置かれていました。

展示コーナーではテーマ展示「Anniversary Car」を行っていました。70周年のポルシェ・356 - Wikipedia、60周年のオースチン・ヒーレースプライト - Wikipedia、50周年の日産・ローレル - Wikipedia、50周年のトヨペット・コロナマークII - Wikipediaなどが、発売当時の雑誌とともに紹介されています。

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(写真)自動車資料コーナー。

 

せっかくなので、イギリスの雑誌『Autocar』の創刊号=1895年11月号、イギリスの雑誌『Motor』の創刊号=1902年2月号、日本の雑誌『モーターマガジン』の創刊号=1955年8月号、日本の雑誌『カーグラフィック』の創刊号=1962年4月号を書庫から出してもらいました。

1902年時点の「Motor」とはモーターバイクのことだったみたいで、雑誌名はまだ『Motorcycling and Motoring』です。日本で現存最古の自動車雑誌『モーターマガジン』が創刊された1955年は、トヨペット・クラウンが発売された年だそうです。『モーターマガジン』の創刊号にはトヨタ自動車工業のカメラルポが掲載されていますが、第2号のカメラルポは日本電装でなんだか嬉しくなります。

 自動車資料コーナー。(中)「C31.1 自動車製造 トヨタ」の棚。分類が細かい。(右)自動車資料の展示。

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(左)『モーターマガジン』の創刊号と第2号。『カーグラフィック』『Autocar』『Motor』の創刊号を含む製本。(右)『Motorcycling and Motoring』(『Motor』の前身誌)1902年3月号。パブリックドメイン(PD)。

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(写真)『モーターマガジン』創刊号と第2号のカメラ・ルポルタージュ。左から豊田市トヨタ自動車工業、刈谷市日本電装。いずれもパブリックドメイン(PD)と判断した。

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(写真)『モーターマガジン』創刊号から第3号までの巻頭カラー。左からトヨペット・クラウン - Wikipediaダットサン・コンバーチブル - Wikipediaプリンス・セダン - Wikipedia。いずれもパブリックドメイン(PD)と判断した。

豊田市中央図書館は全国の自治体史を多数所蔵していることも売りだったはずです。北海道から沖縄まで約2,000自治体の約8,200冊を所蔵しており、愛知県内の公共図書館ではダントツで多いはずですが、愛知県以外の自治体史は数年前に書庫送りになってしまったようだし、各年版『事業概要』の「特色ある資料」にも登場しなくなってしまいました。

 

5階「人文・社会科学・AVコーナー・企画展示コーナー」

3階同様に5階にも図書館入口が設けられています。5階の総合カウンター脇のテーマ展示「ほぼここにしかない本展」では、愛知県図書館を除く愛知県内の公共図書館豊田市しか所蔵していない資料を展示していました。ここしか所蔵していない図書は少なからずあるし、豊田市中央図書館のOPACには多くの内容が登録されているようで、例えば「海士町」と検索すると17件もヒットします

 

5階の総合カウンター前ではイオンシネマ豊田KiTARAとのタイアップが行われていました。大型ディスプレイが設置され、常に上映作品の予告編が(音声付きで)流されています。

この時は公開直前の『ドラゴンボール超 ブロリー』の予告編が繰り返されており、「素晴らしい~! なんという戦闘力~」などという声が数分おきに聞こえてくるので、カウンターのスタッフはうんざりしてるだろうなと思いました。

上映作品のチラシを設置しているほか、上映作品に合わせた図書の紹介も行っています。例えば11月30日公開の『くるみ割り人形と秘密の王国』に合わせてドイツのクリスマスに関する図書が展示されていました。

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 (写真)テーマ展示「ほぼここにしかない本展」。

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 (左)AV家族ブース。(右)試聴コーナー。

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 (写真)イオンシネマ豊田KiTARAとのタイアップ。

 

6階「インターネット・多目的ホール・閲覧室」

6階は学習する高校生が多いフロア。エスカレーターから学習席に向かう通路には「家庭教師のトライ」の広告が設置されていました。“広告のお問い合わせは 株式会社宣通 052-XXXX-XXXX” とあり、図書館は広告に関与していないようです。2018年から図書館内で豊田市フリーWi-Fiが使えるようになったため、持ち込みパソコン席の利用者が増えているのではないかと思います。

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 (左)閲覧室(学習席)。(中)インターネット席。(右)広告用スペース。「家庭教師のトライ」。

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 (写真)4階の閲覧席。(右)5階の書架。

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(左)図書館内移動用エスカレーターと書架。(右)撮影許可札。背後は図書館内移動用エレベーター。

 

3. まとめ

私が図書館に興味を持ち始めた2016年、豊田市中央図書館には1度しか訪れていません。2017年に指定管理者制度が導入される前、直営時代の豊田市中央図書館は岡崎市安城市などの周辺自治体と比べて魅力のない図書館でした。蔵書数が多いけどそれだけ。愛知県でここにしかない図書は少なからずあって、その圧倒的な蔵書数が役に立つことは稀にあるんですが。

これほどの大規模館なのに、2016年に訪れた際にはオンラインデータベース類が一切ありませんでした。それはなぜかと聞いて「財政難で聞蔵Ⅱの契約を打ち切った」と言われた時は唖然とし(今となってはギャグみたいで笑える)、市長の顔が見てみたいと思ったほどです。2018年には聞蔵Ⅱとの契約が復活しています。

 

なお、直営時代の2016年に館内を撮影したいと伝えた際には、“正規職員が撮影に同行した上で、SNS等へのアップロードをしない” という約束で撮影させてもらいました。スタッフの目が行き届きにくい大規模館であることを考えると、これ自体は悪いわけではない対応だと思います。しかし、今回(2018年11月)は撮影申請書に記入したうえで「撮影中」のネームプレートを渡され、自由に撮影ができました。

豊田市指定管理者制度の導入を検討しだしたときには「豊田市の図書館を考える会」が設立されて反対運動を行ってきましたが、あっという間に導入が正式決定してしまったようです。私のように図書館の指定管理者問題に疎い一般市民からすれば、指定管理者制度が導入されたことで何もかもが改善したように見えますが、本当にこれでよかったのだろうか、という気もします。

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 (写真)太田稔彦市長(2012年就任)。豊田市公式サイト「市長の部屋」より。

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(写真)2019年のラグビーワールドカップに向けてイルミネーションが設置された豊田市駅前。